従来から評価の高いディーゼルエンジンに加え、夢の圧縮着火エンジン「SKYACTIV-X」も擁する現在のマツダ。そんなマツダのモデルは並みいるライバルに対しどれほど有利なのか? 名前や価格に振り回されない、「今」のマツダのまっさらな姿を知りたいという人は多いはずだ。
マツダ2 マツダ3 マツダ6 ロードスター…現在のマツダを象徴する最新4モデルを揃え、自動車評論家 清水草一氏にマツダ車の“今”を評価してもらった。
日産で一番売れるクルマ 新型ルークスは王者N-BOXに勝てるか!? 進化度を辛口試乗
■試乗車ラインナップ
ロードスター Sレザーパッケージ/マツダ3 FB X Lパッケージ/マツダ6 XD Lパッケージ/マツダ2 XD Lパッケージ
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※本稿は2020年3月のものです
文:清水草一/撮影:奥隅圭之
初出:『ベストカー』 2020年4月10日号
■マツダ車の魅力とはなにか?
我々ユーザーにとってマツダ車の魅力というと、一に「走りのよさ」、二に「デザイン」、三に「独自のディーゼルエンジン技術」ではなかろうか!
そのうち、一番最初に確立されたのが、走りのよさだ。どのマツダ車に乗っても「うおお、走りがイイ!」と感じるようになったのは、「Zoom-Zoom」を謳い始めた(2002年)あたりから。
例えば私は4年ほど前、友人の2代目プレマシー(2005年発表)に乗ってたまげた。「こんなに走りがよかったのかぁ!」と。そのプレマシーはすでに約10年落ち、どこから見てもただの冴えないミニバンだったが、走ったら凄かったのだ。3代目プレマシーはさらに走りのよさに磨きがかかり、私を心底感動させてくれました。
ぜんぜん売れなかった2代目、そして3代目プレマシーの走りのよさとは、いったい何だったのか?
それは、なにより接地性のよさ。タイヤが路面をつかんで離さないのです。クルマが路面に吸い付いてるみたいで、ふつうに走ってても、もの凄く安定感と安心感があった。だいたい2005年あたりから、すべてのマツダ車がそんな感じになりました。
現在のマツダを支える戦力の“魅力”を検証!
そこから7年間くらい、マツダは「知る人ぞ知る、走りのいいクルマを作るメーカー」の域を出ず、日本ではあんまりパッとしなかったわけですが、2012年発表の3代目アテンザから前田育男デザインが開花を始め、同時にSKYACTIV-Dも搭載され、ディーラーも黒くオシャレになり、イケイケになっていったわけですね。
3代目アテンザの発表から8年。現在のマツダ車はどうなのか!? 今回、改めて4台のマツダ車に乗ってみて、私は思いました。「う~ん、これはイカン!」と。
■清楚な美少女が突如、ゴリマッチョ系に?
一番イカンと思ったのは、ロードスターだ。ロードスターは昨年暮れに一部改良を受けたが、その最新のロードスター(Sレザーパッケージ)に乗ってビックリ。
「いつからこんなに足が突っ張るようになったの~?」
もちろん昨年暮れの改良からでしょう。
今回6AT車を用意したロードスター。加速などにはまったく問題ないが、昨年末の改良で足回りのセッティングの方向性が変更されたようだ
現行ロードスターが登場したのは2015年。その時、ベーシックな「S」の走りと言えば、すさまじいほどフワフワとよく動く足を持ち、低い速度でも楽しめる、時代を超越したオープンスポーツだった。
しかもデザインがウルトラスーパー大傑作! まさに奇跡の一台! ロードスターが奇跡の一台であることは、今も変わってない。なにせ基本はそのまんまなので。
しかし、この足の突っ張りは何?
改良で硬められた足は、清水氏的には不評だった
ゴンゴンゴンゴンと不快な突き上げが襲い、コーナーではあの美しくもたおやかなロールがぎこちなくなり、そのぶんヤケにゲインばっかりシャープになって、限界の低さはあんまり変わらないから簡単にリアが滑って、車両安定化装置が介入しまくる。
このクルマ、ちょっとバランスがおかしかないか? しかもよかったものが、かえって悪くなったような。
いや、足が硬くなったロードスターが好きな方もいらっしゃるでしょうが、私はダメだ。ああ、日本の宝・ロードスターがぁぁぁ!
■基本はいいマツダ3だが足のセッティングが微妙
続いてマツダ3。ロードスターから乗り替えると、足の動きはしなやか。それを支えるボディもずっと剛性が高いので、基本的にはいいクルマだ。しかし、かつてのプレマシーのような感動はない……。
この世界最高レベルのデザインをまとった最新かつ渾身のマツダ世界戦略車に乗り、「2代目プレマシーに遠く及ばないなぁ」とボヤかれるというのは、けっこうマズイのではないか!? なにがどうしてこうなった?
最新、第7世代商品群に属するマツダ3。美しい外観デザインは清水氏も絶賛。SKYACTIV -Xエンジン車は価格が跳ね上がるのが惜しい
2代目、3代目プレマシーに代表される走りのよさは、前述のように接地性のよさが核だった。それはすなわち、VWゴルフに代表されるようなヨーロピアン・ベーシックの走り。マツダの場合はそれよりちょい格下の、オペルとかヨーロッパフォードあたりの感じね。
ヨーロッパでふつうにレンタカー借りて、コルサとかフォーカスでアウトバーン走ると、走りのよさ(≒接地性のよさ)に心底感動するのです。その感動がマツダ車にもあった。
しかし、走り・デザイン・パワーユニットの三拍子を揃えたマツダは、次なるステージを目指した。それはヨーロピアン・プレミアム! 具体的にはアウディあたりでしょうか? んで、足をスポーティに硬め始めたのではないか。すべて推測ですが。
確かに2年くらい前までのアウディは、速度域の低い日本で乗ると足が硬すぎてキツかった。その感じはマツダ3にもある! でも似てるのは硬さだけ! そのほかの部分は追いついてないので、足だけ硬めてポンポン跳ねて接地性が悪化し、結果的にヨーロピアン・ベーシックなよさも失っている。
これは、リアトーションビームサスという形式が悪いわけじゃなく、セッティングの方向性が間違っているのだと思う。サス形式なんてなんであろうと、走りのいいクルマは作れる。私が乗ってたシトロエン・エグザンティアなんてトレーリングアームだよ! コーナリング中にジョイント超えると横に吹っ飛んだけど、あんなに普段走りの気持ちいいクルマはなかった。
ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの長所を併せ持つSKYACTIV-X。ただお値段が……(しつこい)
SKYACTIV-Xエンジンも、あぶはち取らずと言いましょうか。パワーと燃費の両立が目的だったのはわかるし、それは相当程度実現してるけれど、コストを無視してる。ユーザーメリットよりも、ガソリン圧縮着火そのものが目的になっちゃったのか。
それでも、相変わらず凄いのはデザインだ。マツダ3のデザインは本当に素晴らしい。このシンプルに磨きこまれた曲面の美しさ! デザインがよすぎるがゆえに、足回りがそれに引っ張られて背伸びした気さえする。
いずれにせよ、マツダ33には高いポテンシャルがある。足のセッティングの方向性を以前に戻せば、それだけでとってもいいクルマになるはず! でも断固拒絶するでしょうね、今のマツダは。頑固一徹なので。でもでも、マツダ3は、世界最高レベルに美しいCセグハッチバックだし、全体としては「その意気やよし!」である。今後の伸びに期待しようじゃないか!
足回りのセッティングを変更すれば、もっといいクルマになると評価されたマツダ3。頑張ってほしい
■時間の経過で優位性が薄れたマツダ2&マツダ6
では、マツダ6とマツダ2はどうでしょう。
ディーゼルエンジンを積むマツダ2とマツダ6。特にマツダ6の2.2Lディーゼルは評価が高い
マツダ6はアテンザそのもの。いろいろ改良したとは聞いておりますが、目をつぶって乗ったらその差を言い当てるのはムズカシイです。
いや逆に、マツダ6も「アウディ化」を狙って、かえって接地性が若干悪くなったような気がする。どうしてもギャップでタイヤが路面から離れるような瞬間があるのです。その直後「ドン」とハーシュネスが来る。マツダ6はベースが古いだけに、少々痛々しさがなきにしもあらず。
パワーユニットはSKYACTIV-Dの2.2。8年前は大感動したけれど、現在もそのままで、ほとんど進化しておりません。ほんのちょっとスムーズで静かになったけど、ヨーロッパのライバルたちはそれをはるかに超えるレベルで改良されているので、今やかつての優位性はない。
ATも8年前と同じ6速のまま。事実上、パワートレーンはほぼ進化がない。デザインは決して悪くないけど、さすがに古さは隠せない。結論として、新車を買いたくなるかと言われると、う~ん。
実力はある第6世代2モデルさらなる進化に期待
マツダ2もまったく同様。デミオとしての登場時よりは全体にブラッシュアップされたけれど、大幅な進化は見られず、それでいてはっきり上級移行を目指したので、ポジショニングが非常にキツイ!
今回乗ったのは1.5Lディーゼルの豪華Lパッケージで、オプション込み価格は約277マンエン! さすがにこりゃキビシィ……。現在のマツダの苦境は、この277マンエンのデミオ、じゃなかったマツダ2に集約されている気がしないでもない。
■閑話休題 現行マツダ車の内装デザインはどうなのか?
国産車のなかでは頑張ってるほうだと思うが、世代の古いマツダ2、マツダ6はだいぶ背伸びしている感じがある。特にマツダ6は無理をしているのが見えて、ややツラい。
一方、最新世代のマツダ3は全体にオーソドックスなデザインだが、自然体で上質感を演出しており、先に挙げた2台に比べ、こなれた印象がある。欧州車に追いついたかと言われると困るが、まあ、悪くないところまで来た。
ロードスターはそういうとこで勝負するクルマじゃないので現状でヨシ。
右はマツダ6、下はマツダ3のインパネ。審美眼の怪しい編集部員には差が感じられないが、マツダ3はこなれてきたとのこと
■ま・と・め
人間も企業も、上を目指してこそ成長するんですよね。それがなきゃ絶対ダメ。でもマツダは、急激に上を目指しすぎて、今いろいろと無理が出ている状態だろう。
マツダのクルマ哲学には、私は大いに共感する。走りの楽しさやデザインの重要性、そして内燃機関の可能性。すべて同感! マツダは、気持ちとしては自分の同志だ!
今回はいろいろキビシイ内容になってしまいましたが、すべては愛ゆえ、そしてマツダのポテンシャルを信じるがゆえの苦言だと思っていただきたい。
マツダには、現在ぶち当たっている壁を乗り越え、世界中でより一目置かれるブランドになってほしい。マツダならデキル! だってロードスターを作った会社だから! 私は5年前のロードスターの感動を忘れません。信じましょう! かしこ。
世界で一目置かれるブランドになれ! マツダのポテンシャルを信じてるゾ!
【番外コラム・永田恵一の後席からコンニチハ】 後席でも第7世代の進化を感じるか?
(TEXT/永田恵一)
もととなるモデルが古いほうからチェックしていこう。リアサスがマルチリンクのマツダ6(2012年登場)はリアシートに座って路面の悪いところを通過しても、一時期賛否もありながら話題になった専用タイヤの効果もあるのか乗り心地は常にフラットで、あまり何かを感じることもなく実に快適だ。また流麗なスタイルと悪くない乗降性も考慮すると、リアシートの広さとの各種バランスも見事。
マツダ2(2014年登場)のリアサスはトーションビーム。こちらは車高が上がっているぶん、サスペンションのストロークが増えているAWDだったのも有利に働いているようで、路面の悪いところだとゴツゴツ感はあるものの許容範囲で充分快適と、余裕の合格点。
昨年登場でリアサスがトーションビームとなるマツダ3は、マツダ6とは対照的に路面が少し悪くなっただけで常に不快なゴツゴツ感が続く。また路面の悪いところを通過した際にはダンパーが一気に伸びてしまっているのかキツイ上方向への動きがあり、リアシートに座っている時にスピードを出されると、少し気持ちが悪くなりそうだった。
結論だが、マツダ6が車格やボディサイズの有利さもあるにせよ、リアシートは登場の古い順に快適というマツダ3には厳しいものとなった。これはサスペンション形式というよりまだ開発が進んでいないためと思いたく、スバル同様マツダも毎年行う改良を重ねながらの改善を期待したい。
上はマツダ3試乗時の永田氏。一方、下はマツダ6の後席に座る永田氏。めったに見せない笑顔が高い評価を物語る
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みんなのコメント
ディーゼルエンジンを搭載したミニバンとして新境地を開いたかもしれないのに惜しい事です。
マツダ3もやや霞んでしまった印象は否めない。