スバルの代表車種、インプレッサは現在発売されているモデルで5代目を数える。その2代目には、実はボツとなったデザイン案が存在した! 2代目が発売される約8年前、1992年に2代目インプレッサのデザイン提案を行っていたのが、現スバルデザイン部長の石井守氏だ。今回ベストカーWebでは特別に公開された当時のデザインスケッチとスケールモデルとともに当時のエピソードを独自取材。幻のデザイン案には、今のインプレッサに繋がるエッセンスが詰まっていた。
文・写真/大音安弘、SUBARU
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現デザイン部長が作った幻の2代目インプレッサ
2代目インプレッサとして石井氏がデザインした“幻のインプレッサ”。後に市販化された2代目よりキャビンが前進している点がポイントのひとつ
スバルが3月30日~4月7日まで東京・恵比寿の本社で行った「スバル デザイン ミュージアム」には、コンセプトカーの「ヴィジブ」だけでなく、実は、見たこともないデザインスケッチやクレイモデルなども展示されていた。幻に終わった謎のスバルに迫った。
スバルデザインの歴史や現場を紹介する展示とともに、飾られたセダンとステーションワゴンのスケッチ、そして1台のクレイモデル。従来のスバル車のイメージとは異なるデザイン表現がされていた。
これらについてスバル車のデザインを統括する石井守デザイン部長に直撃してみると、かつての自身の作品であることを教えてくれた。
それらは1992年にアメリカのデザイン室に在籍していた際に、2代目インプレッサのデザイン提案のために描いたものだという。
インプレッサワゴンのデザイン案。こちらも後に市販化されたインプレッサスポーツワゴンとは趣が異なる
当時、27歳くらいだったという石井さんは、コンパクトなエンジンを積むスバル車に、アメリカ車などで積極的に採用されるようになったキャビンフォワードデザイン(※室内空間が車全体に対して前進したデザイン)を取り入れられないかと模索し、流麗なスタイルのスケッチを描いた。
水平対向4気筒やAWDなどスバルの自慢のパワートレインの搭載を前提に、空力特性向上が狙え、よりスタイリッシュなデザインを目指していたという。
また、インプレッサワゴンもスケッチを描いており、看板車種であるレガシィツーリングワゴンの要素を取り入れた“スバルのワゴン”らしいスタイルとしながらも、リヤコンビネーションランプを分割式とせず一体型とするなど、コスト意識も含めてデザインを行っていた。
“幻のデザイン案”は後のインプレッサにも生かされた
2代目インプレッサは2000年に発売。セダンとスポーツワゴンの2本立てで、ともに頂点には2L水平対向4気筒ターボを搭載した「STI」も設定。この後、改良で2度大がかりなフロントマスクの変更を行い、2007年まで販売された
しかし、当時のスバルは、軽自動車を含めて年間に開発を行えるのは1.5車種が限度だった。そのためにスバル初のSUV「フォレスター」の企画が立ち上がった際、2代目インプレッサの企画は、一時凍結。
再開時には、一から企画が練り直され、結果、石井部長の最初のデザイン案は、そのまま幻へと終わった。
ただ、その後もキャビンフォワードデザインを取り入れるべく取り組みを続け、それが実現したのは、2011年登場の4代目インプレッサからだという。これによりAピラーを200mmも押し出すことを可能とした。
では何故、キャビンフォワードデザインの実現が難しかったのだろうか。それはスバル伝統の安全な車作りにある。既存のまま、Aピラーを前進させると、ドライバーの視界が犠牲になってしまうことが危惧されたからだ。
そこでデザイン部では、ドアミラーの装着位置をピラーからドアパネルへと変更。さらに三角ガゼット(三角窓)を設けることで、視認性の確保できることを証明し、スバルデザインも一歩踏み出すことを叶えた。
「トレンドは横目で見ておく程度でよい」
初代から4代目までのインプレッサ。キャビンフォワードのデザイン思想は、幻のデザイン案から約20年の時を経て具現化した
石井部長は、
「現場には、トレンドを無視してはいけないが、横目で見ておく程度で良い。それよりもスバルらしいデザインを考えなさいと言っている」
「確かに主要マーケットはアメリカ。だからアメリカ向けのデザインをすればいいという意見もある。ただそれでは、アメリカを含め、スバル支えてくれるファンを裏切ることになると思う」
「今もトレンドを悪戯に追わず、単にカッコ良さを追求するだけじゃなく、形に意味を持たせることを大切にしている」
と教えてくれた。
若き日の石井部長のデザインスケッチからは、進化の努力を続けながらも、スバル車のデザインが別物に化けることがなく、常にスバルらしさを持ち合わせている理由を理解することが出来た。
米国では、スバル車ユーザーの98%が10年以上、1台を愛用するという。
確かにトレンドヒットとなるような瞬間風速的に売れる車は生まれづらいかもしれないが、長く愛したくなる車やレヴォーグのような唯一無二の存在を生み出せるのは、こうしたデザイン面でも実直なスタンスがあるからなのだろう。
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