ホンダNT1100は、アフリカツインから譲り受けた1082cc並列2気筒エンジンを心臓に持つ、新型ツアラーモデル。同エンジンの兄弟車には、人気のクルーザータイプ・レブル1100も存在し、個性的な2車に比べると、少々おとなし過ぎるようにも感じられるかもしれない。だが、いやいやどうして。乗ってみると、”選ぶ理由”がハッキリと存在した。ヤングマシンのメインテスター・丸山浩氏による試乗インプレッションに加え、開発者インタビューをお届けする。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ホンダ
―― 【テスター:丸山浩】「私の戦闘力は1100万です(笑)」 真冬の試乗となったこの日、ヤングマシンのメインテスターは、NT1100の高い防風能力に感心しきり。特に手元をガードするディフレクターが気に入ったッ! [写真タップで拡大]
やっぱりDCTはツーリングに最適だ
同じエンジンを積む兄弟車として、フロント21インチでアドベンチャータイプのアフリカツイン、フロント18&リヤ16インチでロング&ローな乗り味を楽しめるクルーザータイプのレブル1100と、どちらもツーリングを楽しめながら”トガった”キャラクターで攻めたわけだが、今回のNT1100は前後17インチと一般的なオンロードスポーツサイズのタイヤを履きつつ、トランスミッションはDCTのみの設定。ホイールベースはアフリカツインより短く、車重も248kgと、アフリカツインの全部入り=アドベンチャースポーツES[DCT]より若干軽いなど、全体の雰囲気がコンパクトにまとめられている。従来2機種の間に入るスタンダードなオンロードツアラーというのが最初の印象だが、さてどうだろう?
―― 【’22 HONDA NT1100】’21年12月に発表されたNT1100。海外では6速MT車も設定されるが、日本仕様はDCTのみで、年間販売計画は800台。その過半数を超す450台が受注済みという。■水冷4スト並列2気筒SOHC4バルブ 1082cc 102ps/7500rpm 10.6kg-m/6250rpm ■車重248kg シート高820mm 20L ■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:マットイリジウムグレーメタリック パールグレアホワイト ●価格:168万3000円
走り出すと、鼓動感に定評のあるエンジンが相変わらず気持ちいい。NT1100では、パルスの硬質感を抑え、高速ツアラーらしいジェントルな味付けが施されているが、エンジン本体はアフリカツインと同一で、最高出力も同じ102ps。パワーは必要十分で、「ダダダッ」という感触とともに、DCTが低速域から高速域までキレイに速度をつなげてくれる。ツーリングはもちろん、街中の通勤用途でも扱いやすい印象だ。
そのDCTで改めて感動したのが、変速ショックのなさだった。ツアラーとしての性能を確かめるために、タンデム走行も行ってみたのだが、変速時にカチッカチッと作動音こそ聞こえるものの、シームレスにつながり加減速Gの変化がない特性で、パッセンジャーへの負担が段違いに減る。これは助かる。DCTはUターンなどでやや大回りになる傾向があるが、初期の頃と比べると格段に進化している。極低速域でも完全にクラッチが切れることなく粘ってくれるので、不安はない。
ライディングモードは、ツアー/アーバン/レインと3つ。いずれも制御は賢く、街なかでもパワーの少ないレインを使わず、他のモードで済ませられた。とにかく街なかから高速、峠まで、どんなシチュエーションも扱いやすくこなしてくれる。ブレーキも、あらゆる速度域に対応した標準的な効き味で過不足ない。総じてそのスタンダードな乗り味が特徴的に感じられる。
どんな場面も快適&快速。街にロングに使い倒せる!
NT1100のハンドリングは、アフリカツインたちと比べると極めて軽い。前輪が大きいアフリカツインだと、コーナリングではすぐには寝なくて、途中から一気にバタンと倒れていくような感覚。直進安定性を優先したレブル1100も、似たような傾向がある。
それに対してNT1100は、前後17インチホイールらしい自然なコーナリングが可能だ。未舗装が得意なアフリカツイン、直線が得意なレブル1100に対し、NTはズバリ、この”曲がる”を得意部分として差別化が図られている。NTのメイン市場となるヨーロッパのワインディングでは、アフリカツインなどに対してスピード域を10~20km/h、場合によっては30km/hぐらい上乗せしたまま、ツーリングを続けられるのではないだろうか。道路環境が異なるが、日本のワインディングでもかなりのアドバンテージが期待できそうだ。
そして、NT1100がアフリカツインたちと決定的に異なっている部分がもうひとつ。その高いウインドプロテクション性能だ。単にフルカウルであるというだけでなく、ライダーのまわりを無風の極上空間が包み込んでくれるかのように、すべてが作り込まれている。特に、スクリーン両脇に設けられているアッパーディフレクターが秀逸。走っていると、ハンドルグリップ周辺に無風の空間が生まれるのが感じ取れる。グリップヒーターが標準装備ということもあり、用意していた電熱グローブの出番はついぞやってこなかった。
上半身全体についても、大きめのフロントカウルと5段階に調整できるスクリーンが風を完全に防ぐ。スクリーンは最大まで伸ばすとかなりの高さ。しかも角度も立つ方向に変化し、頭のはるか上を風が通り抜けていくようになる。もちろん巻き込み風も皆無だ。身長180cmクラスの体格でも、頭上をかすめるぐらいの設定だろうか、とにかく余裕がある。さらに下半身側も、風を外へ逃がすディフレクター形状となっており、膝やつま先などには風がまったく当たらず、冬場でも凍えずに済んだ。これだけ防風性能が高いと、雨天走行でもほとんど濡れずに済むのではないだろうか。ツアラーとしてこの性能は非常に大きな強みだ。
以上のことから、ハンドリング/ウインドプロテクション/十分なエンジンパワーを持つNT1100は、ハイスピードレンジに対応したスポーツツアラーとして、そのキャラクターがきちんと仕上がっていた。アフリカツインやレブル1100ほどスタイルに個性はないが、ツーリング体験そのものを楽しみたいというライダーには、このNTをオススメしたい。DCTを装備しながら、価格を168万3000円と高過ぎないギリギリなところで抑えているのも評価できる。アフリカツイン系パラツインエンジンの定評ある味わいを、旅で快適に味わいたいライダーなら、このNTが最適だ。
なお最後に、走行まではできなかったが、純正オプションのトップ&サイドケースを装着した車両にも跨ることができた。車両と同時設計だけあって、トップ&サイドどちらも車体とのマッチング具合は見事。サイドケースはタンデムライダーのヒザの曲がりを疎外せず、バックレストの付いたトップケースは、高さも十分で背中をしっかりと支えてくれる。グラブバーの握りやすさもそのままだ。これなら変速ショックの少ないDCTの利点と合わせて、タンデムライダーの快適性は倍増となるはず。NTのツーリングモデルとしての姿は、このケースを装着した状態が完成型なのだと思えた。
―― NT1100は、ツアラーとしてのタンデム性能も極めて優秀。背もたれ代わりとなる純正トップケースを装着すれば、快適性はもはや完璧だ。タンデム役のMOTORSTATION TVチャレンジ女子アナ・ユメちゃんによれば、「ゆとりあるシートや握りやすいグラブバー、ストッパー代わりとなるリヤキャリア、そしてDCTの優しさがとても快適。ただ、風はほとんど当たらないのに、腕や足の側面ギリギリを掠めてしまって、そこだけ身体が冷えてしまうのが、ちょっと惜しかったかも」
開発者インタビュー:快適性を最大の個性としました
―― 今回インタビューに応じてくれた8名。左から、燃料吸排気系設計・山本恭太郎氏/操安研究・野々山祐也氏/シャーシ設計・西村壮貴氏/LPL(開発責任者)代行・大山翼氏/LPL(開発責任者)・清野浩司氏/動力研究・結城伸介氏/燃料吸排気系研究・飯干慎也氏/車体設計・林敬済氏 [写真タップで拡大]
NT1100は「日常では毎日の通勤に、週末は郊外へのツーリングに。さらに長期休暇では、国境を越え、数日にわたるロングツアーに…」というライダーをターゲットに開発しました。メイン市場となる欧州では、そんな使い方をするお客様が多いのです。また、実はNC750Xからステップアップする方々も想定に入れております。クロスオーバーのNCから上に行く際に、アドベンチャー志向ならアフリカツインで満足いただけると思いますが、オンロード志向であれば、このNTがもっとも満足いただけるだろうと。
我々が作るオンロードツアラーとして、アフリカツインや他社のライバル(ヤマハ トレーサーやBMW F900XRなどを想定しているそう)と差別化するうえで、狙ったのは優れた快適性。特に防風性能には重点を置きました。また、ベースとなるアフリカツインのよさを活かし、エンジンの出力特性やDCTによる操作性による扱いやすさはもちろんのこと、車体の基本部分を継承。オンロードといっても、単にアスファルトの上と言うだけではなく、雨天や荒れた道など、様々なシチュエーションに応えられる懐の広さもある車両です。
エンジンについては、本体をアフリカツインと同一のまま、吸排気系を専用設計とすることで、我々の求める特性を実現できました。アフリカツインのようにIMU(車体姿勢センサー)を搭載していないのは、装備が増えることによる車重の増加と、販売価格の高額化を避けたかったからです。その結果、フルカウルでありながら、最終的に車重も価格もアフリカツインと肩を並べられる競争力のあるものになったと思います。
日本のライダーにもぜひ一度乗っていただき、毎日でも乗れる扱いやすさと快適なツーリング性能を体感してほしいと考えています。
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