BMW初、Mの名を持つスーパースポーツバイク
BMW Motorradが2020 年9月23日に発表したM1000RR。車名の冒頭につく、見慣れない「M」の文字はBMWグループのなかでスポーツカーのチューニングを手がけてきたブランド「BMW M」に由来するものです。
M3やM5など、四輪スーパースポーツの世界でBMWのハイパフォーマンスモデルの代名詞として知られてきた「M」ですが、同じBMWグループであってもこれまでBMW Motorradには「M」の名を冠したモデルは存在しませんでした。
【関連写真18点】カーボン製ウイング、Mロゴ入り専用ブレーキなどM1000RRとS1000RRの違いを写真で解説
「M」の名が初めて登場したのは2018年のイタリア・ミラノショーでの現行型S1000RR発表時であり、「M Performance」と呼ばれるオプションパーツや、それを装着したオプションパッケージ「M Performance Package」が設定され、ついにMブランドがBMWの二輪にも……そんな期待感を匂わせるものでした。それから約2年、満を持してM1000RRが発表となりました。
では、BMWのスポーツスピリットの象徴とも言える「M」の称号を持つモデルとなったM1000RRとは一体どんなモデルなのか、ここから詳しく紹介していきましょう。
サーキットでの速さを追求しつつ、公道走行も可能なロードゴーイングレーサー
1000ccスーパースポーツの現行型S1000RRをベースにしながら、エンジンやシャーシ、外装など車体すべてをサーキットでのハイパフォーマンスのために磨き上げたモデルがM1000RRです。
S1000RRから派生した同様のコンセプトを持つマシンとしては、BMW Motorradが2016年に発表したカーボンフレームとカーボンホイールを採用したモデルHP4 Raceを思い出す人もいるかもしれませんが、HP4 Raceは公道を走れないサーキット専用モデル。
しかし今回はサーキットと公道の両方で楽しめるモデルとして開発されています。つまり、M1000RRは「ロードゴイーングレーサー」なのです。
2本リングの新設計ピストン、チタン製コンロッド&バルブの採用などで、最高出力212馬力、最高回転数1万5100rpmに!
量産市販車で競われるレース「スーパーバイク」「スーパーストック」で勝てるマシンを──そんなコンセプトを持つM1000RRだけあって、エンジンには大幅な仕様変更が入り、パフォーマンスアップを図っています。
最大トルクは11.5kgm(113Nm)/1万1000rpmでS1000RRと同じですが、最高出力は212ps(156kW)/1万4500rpmとして、S1000RR比で出力は5psも向上。
レブリミットも1万5100rpmと500rpm上乗せされています。そんなパワーを絞り出すエンジンの中身はもはや別物と言っても良いかもしれません。
ピストンはMahle(マーレ)製の新設計アルミ鍛造でクロスリブが入る作り。ピストンリングはフリクションロス低減と軽量化のために2本リングという仕様です。この結果、S1000RR比でピストン1個あたり12gの軽量化を実現。
また燃焼室形状も見直されて圧縮比は13.3→13.5とハイコンプ化が進んでいます。さらに新設計の吸気ポートは切削によって成形。そこに可変バルブタイミング機構BMWシフトカム(排気側はバルブリフト量が0.4mm増大)と新設計の吸気ファンネルを組み合わせることで、吸気効率と充填効率の最適化が図られています。
エンジン内部パーツのチューニングはこれだけにとどまりません。
吸排気バルブはもちろんチタン製に、そしてDLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)コート済みのロッカーアームは、幅を8mm→6.5mmと狭めて形状を見直しながらロッカーアーム1本あたり0.45gの軽量化を実現。さらにS1000RRでは焼き入れ鋼を使用していたコンロッドはショットピーニング済みのチタン製へと変更されています。
M1000RRでは、シリンダーへの側圧を減らすためにコンロッド長をS1000RRより2mm長い101mm(クランクジャーナール中心~ピストンピン中心)としているものの、素材にチタンを用いることでコンロッド1本あたりの重量はわずか85gと、驚異的な数値に。
(*ちなみにこのコンロッドを製作しているのはオーストリアのPankl社で、HP4 Raceのコンロッドを作っていた実績もあるレース系パーツブランドです)
このようにエンジン各部で0.1g単位の軽量化が敢行されていますが、そもそもスタンダート状態でも207psを発生するS1000RRのエンジンのポテンシャルを引き上げるためには、あらゆる動的パーツの慣性重量を軽減することがいかに重要であるかがわかると同時に、BMW Motorradの執念とも言えるその作り込みには、M1000RRにかける本気度もひしひしと伝わってきます。
ついに装着されたウイングレット、エンジンパワーを効果的に使う役割も
近年MotoGPやSBK(スーパーバイク世界選手権)のマシンに採用され、ドゥカティ パニガーレV4Rやホンダ CBR1000RR-Rファイアブレードなどにも市販スーパースポーツにも採用が進んでいるウイングレットが、ついにBMWにも。
その名もMウイングレット! M1000RRが装着しているのはクリアコート済みカーボン製ウイングレットで、アッパーカウルの真下のセンターカウル前縁に装着されています。
ウイングレットは車体の安定性向上に大きな効果があるパーツですが、今回その目安となる数値が発表されていたので紹介します。
イメージとしては特に超高速域での効果が期待できそうなウイングレットですが、実際には時速50kmなどの低速域でも一定のダウンフォースを生み出していることがわかります。
M1000RRでは、Mウイングレットによってダウンフォースを発生させることで、車体を安定させながら各速度域に応じた最適なホイール荷重を得ています。最高速を出すようなシーンやブレーキング時、コーナーリング時にも車体を安定させる効果があるだけでなく、たとえばコーナーを立ち上がってシフトアップしていくようなシーンでもダウンフォースによって車体の浮き上がりやウイリーを抑制することができるので、標準装備されているウイリーコントロールなどのトラクションコントロールの介入も少なくなります。
つまり、エンジンパワーをより効果的に使えることとなり、最終的にはラップタイム短縮に繋がるというわけです。
その証拠に、STK(スーパーストック選手権)で活躍するマーカス・ライテルベルガー選手によるテストライドでは、BMW Motorrad WorldSBKチームのエースライダー、トム・サイクス選手が走らせるファクトリーマシンと比較しても、M1000RRはわずか2.101秒落ちのラップタイムに。ユージン・ラバティ選手との比較でも1.590秒落ちのラップタイムだったとのこと。SBKのファクトリーマシンは、M1000RRよりも最高出力が15ps高く、車重が15kgも軽いことを考えると、いかにウイングレットの効果が絶大なのかが分かります。
M1000RR専用品の「Mブレーキ」を採用、足まわりも専用のセットアップに
M1000RRが装着するブレーキは「Mブレーキ」と名付けられた専用パーツです。このMブレーキはSBKのファクトリーマシンのブレーキシステムを担当するニッシンの協力により新たに設計された4ピストンキャリパーで、S1000RR比で約60gの軽量化を実現。
ブレーキピストンは制動力向上と熱的な安定性を確保するために亜鉛ニッケルコート済み。ブレーキパッドのコンパウンドは公道用とエンデュランスレース用の2種類を用意し、そのいずれもABSプロに対応するものです。また、レースでの想定を考慮してリヤキャリパーは構造を最適化。クイックリリース化に成功しているのも大きなトピックです。
前後のホイールはカーボン製の「Mカーボンホイール」として約1.7kg軽量に。そこに組み合わせる前後サスペンションも独自のセットアップとされています。フロントフォークはインナーチューブ径45mmのマルゾッキ製でブラックアルマイト加工済みのトップブリッジとアンダーブラケットはアルミ削り出しとしてS1000RR比で20g軽量に。スプリングトラベルは120mmでダンピング・リバウンドともに10クリックの調整機構が付属しています。
また、「フルフローター・プロ・キネマティック」と呼ばれるのリヤサスペンションも新設計でこちらも調整機能付きでスプリングトラベルは117mm→118mmに。さらにスイングアームピボットは−2mm、−1mm、0、1mm、2mmの幅で調整が可能、スイングアーム本体も606.6mm→618.3mmと10mm以上延長されています。
電子制御もレース&ストリートの両方に対応する充実ぶり
ライディングモードはレイン、ロード、ダイナミック、レース、レースPro1~3が用意され、IMU(慣性計測装置)は最新の6軸センサーを搭載。
そのほかに、ローンチコントロール、ウイリーコントロール、ヒルスタートコントロール、クルーズコントロール、ピットレーンリミッターなど、サーキットだけでなくストリート向けの最新電子制御も数多く盛り込まれており、BMWらしさが際立つ部分と言えるかもしれません。
バッテリーやエキゾーストも軽量化。だが、USBソケット、グリップヒーターなど実用装備は欠かさない!
車重192kgのM1000RRではバッテリーやエキゾーストも軽量化が敢行されています。5Ahのバッテリーは重量1.2kgで、エキゾーストシステムはS1000RRがフロント&リヤ合わせて11.4kgなのに対し、M1000RRではフルチタンエキゾーストとして7.7kgと大幅に軽くなっています。
ただこうした軽量化を行いながらも、USBソケットやグリップヒーターなども装備しており、公道走行もしっかり考慮した作りとしていることはBMWらしいポイントでしょう。
FIMのホモロゲーションにも対応
レースでの使用も前提としたM1000RRは生産台数の最小ロットを500台とするFIMのSuperstock、SBKのホモロゲーションにも対応しており、キットエンジンやSTK&SBK用の電装パーツ、レース用エキゾーズトシステム、タンク&シートキット、ボディキットが用意されています。
ここまでM1000RRの主な特徴について解説してきましたが、S1000RRがベーツモデルとはいえ、その中身はサーキットでのハイパフォーマンスに特化した内容であることがお分かりいただけたと思います。
しかしながら、M1000RRはBMW Motorradの従来モデル同様にストリートでも安全・快適なユーティリティも備えていることも忘れてはならないポイントです。
ロードゴイーングレーサーでありながらストリートを切り捨てない──そんな車体作りは、まさにBMWの4輪Mシリーズにも通じるものであり、これこそが今回「M」を名乗った理由なのかもしれません。デビュー以来、そのパフォーマンスと洗練された装備によってスーパースポーツの世界でベンチマークであり続けたS1000RR。このM1000RRも、新しいスーパースポーツモデルの在り方を指し示すマイルストーンとなりうる1台と言えるでしょう。
BMW M1000RR 主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク80.0mm×49.7mm 圧縮比:13.5 総排気量999cc 最高出力156kW<212ps>/1万4500rpm 最大トルク113Nm<11.5kgm>/1万1000rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2073 全幅:848(ミラー除く) 全高:── ホイールベース:1457 シート高832(各mm) 車両重量:192kg タイヤサイズ:F120/70ZR17 R200/55ZR17 燃料タンク容量:16.5L
【発売日&価格】
2021年初夏、予価500万円で発売予定
レポート●土山 亮 写真●BMW 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
これならV4Rの方がいいかなぁ