2020年のスーパーGT300に参戦するSUBARU BRZ GT300のマシン詳細がわかってきた。チーム体制については東京オートサロン2020で発表されているが、マシンの変更、改良点についても見えてきたのでお伝えしよう。
BRZ GT300のマシンは、R&Dスポーツのオリジナル設計、製造のシャシーにSUBARU/STIのパワートレーンを搭載するという従来の方法から変更なく、今季もJAF GTのレギュレーションの下、GT300クラスに参戦する。
今季のマシンはキャリーオーバーされるマシンではあるが、各部の剛性解析などをスバル/STIで行ない、4ヶ所ほどの局部剛性を上げている。さらに2020年シーズンはボディカラーを一新し、新鮮な気持ちで戦うことになった。ちなみに、これまでのBRZのシャシーは2年ごとに新車へと変更してきたが、今季は流用年となり、異例の3シーズン目に突入するが、変形など無いことを確認済での判断だ。
全領域での見直し
今季の目標は、トラブルを出さず、得意レースでは表彰台、厳しい環境でもポイントを取るといったメリハリをつけたシーズンとし、総合チャンピオンを目指していくと渋谷真総監督は言う。
そのためには、全領域での見直しがあり、戦略、マシンのハード、チーム体制など、このシーズンオフにシミュレーション、メーカーテストなどで熟成を重ねている。渋谷真氏が総監督に就任しての過去2シーズンでは、初年度はトップスピードの追求から、空力とマシンパフォーマンスの戦いがあった。2年目は、数々のデータを蓄積するシーズンとなり、シーズン後半ではマシンのセットアップの選択肢が増え、熟成度も高まってきたシーズンになったと言えよう。
ただ、これまでの2シーズンでは優勝もあるが、ノーポイントのレースも多く、またマシントラブルによるリタイヤもあった。そうした反省から総監督就任3年目の2020年シーズンは、全レースをリタイヤせず、得意とする鈴鹿、SUGO、オートポリスでは表彰台を獲得し、1回は優勝する。もてぎや富士のようにエンジンの差が出るようなレースではできるだけ上位でポイントを稼ぐという戦略が必要になってくる。
車両諸元変更
2020年シーズンの大きな変更点として、エンジンとミッションの搭載位置を下げたことがある。もちろんレギュレーションの範囲の中で、可能な限りフレームのギリギリまで搭載位置を下げ、水平対向エンジンが持つシンメトリーで低重心という特徴を最大限活かせるようにした。重心高とロールセンターの関係が従来と変わるため、このオフシーズンはそうしたセットアップにも注力したテストになっている。
重心高を下げることで、渋谷総監督は「デメリットになることは何もないと思います。これまでと同じバネでもロールが小さくなるのは、メリットですから、ドライバーは乗りやすくなると思います。シミュレーションでは500マイルレースを想定しますと8.4秒縮まる結果になりますが、それ以上にドライバーのフィーリングに貢献するだろうと思ってます」
さらに、オルタネーターを従来エンジン近くにレイアウトしていたが、これをリヤのミッション側へ移動している。これは熱対策という予防的な意味と、前後重量配分を少しでもバランス良くするための施策として変更を行なっている。そしてオルタネータの制御では、加速しているときなどに稼働しないよう最新の制御も盛り込んでいる。
少なからずエンジン関係でのトラブルでリタイヤしたレースがあったため、実は、2020年シーズンはパワーユニット関連の組織変更を行なっている。チームリーダーに過去、WRC、スーバーGT、ニュルブルクリンク、そしてアメリカでのレースにもパワーユニット開発として携わっていたベテランエンジニアがチームリーダーとして復帰している。
GT-3のFIAパフォーマンス・ウインドウ規定を見れば、レクサスRC-F GT3のピークパワーは609psもある。リストリクターで抑えられても550ps程度の出力が予測でき、そうしたエンジンと戦うEJ20ターボには厳しさがある。WRCで世界を席巻した当時のEJ型の出力はせいぜい370ps付近が想像でき、また現在のニュルマシンのWRX STIのEJ20も似たような出力なのだ。そこでスーパーGTではGT3と同様なパワーウェイトレシオにする必要があり、最低でも500ps以上発揮しなければレースにならないわけで、その厳しさは、乾いたタオルを絞っているのが想像できる。
一方、パドルシフトの圧力センサーのトラブルでリタイヤした第7戦SUGOの経緯から、ハーネスのサプライヤーを変更するなど電装系も一新し、その新メンバーの体制下で新しいパワーユニットがつくられている。
2017年のもてぎでは、ブレーキトラブルでリタイヤした過去がある。そのため18年の初頭からブレーキ容量をアップしてきたが、19年シーズンのデータを詳しく見ると、ブレーキ容量が不足したのはもてぎに限られることも見えてきた。つまり、他のサーキットでは従来の容量でも問題ないという結果だ。それは、ブレーキ容量の拡大イコール重量増になるわけで、今季はレースによってブレーキ容量を変更し軽量化してく計画となった。
さらに、ABSの制御変更も行なわれている。タイヤがタレてグリップが落ちてきたときのABSの制御が不安定になるという。そのため、ブレーキ容量の変更と合わせてABS制御の見直しも行なっている。
じつは、このブレーキ制御は空力も影響していることが分かっている。つまり、ブレーキングした時のマシンの姿勢変化によってダウンフォースが変わり、結果ABSの作動に不安定さが生まれてくるというものだ。そのため今季のエアロでは、そうしたことも念頭におき、ハードブレーキでもダウンフォースが抜けないように配慮されたものになっている。
そのエアロでは、流体解析を行ない、シミュレーションを繰り返しておりベストを探す研究が続けられている。とはいえ、18年シーズンのようにダウンフォースを削りドラッグも削りトップスピードを上げるという過去の挑戦から得た経験を活かし、19年シーズンはほぼエアロの問題は起きていない。もちろんダウンフォースは多ければ多いほどドライバーは安心するが、抵抗も増えていくわけだからバランスの取れたスペックが必要になるわけだ。
今季ではそうした流体解析からフロントのフロア下にあるスプリッターの形状変更で、フロントのダウンフォースとリヤのダウンフォースが良くなるデータを見つけている。しかし、渋谷総監督によると、流体解析で得たデータは、やはり机上のデータであり実際のレースで正解になるか?の確率は100%にはならないという。そのため、解析データをもとにしたサンプルを製作し、テスト、実戦投入という手順になるが、そのテストが勝手にできないスーパーGTのレギュレーションのため、難しさも残るという。
さらにリヤのディフューザーの解析結果では、現状の形状を変更したほうが良い結果になるデータも見つかったという。バンパー上面のディフューザーは不要だろうというのだ。その分、ガーニーの追加でダウンフォースとドラッグのバランスがよくなることがわかったということだ。
タイヤ戦争
そして、タイヤだ。各タイヤメーカーの争いの部分でもあり、19年シーズンは300kmレースでは4本無交換作戦にトライしていた。ブリヂストン、ヨコハマの無交換作戦は常套化しているため、ダンロップを履くBRZ GT300も挑戦した。しかし、実際4本無交換のレースもあったが、好結果とはいえないものだった。それは、まず予選で上位にいけない、そのため下位からの追い上げになるが、パフォーマンスは低く追い上げはできず、順位を落とさないレース展開になってしまうものだった。そのため20年シーズンでは、従来の得意な分野を伸ばす作戦に切り替えて戦う戦略変更をする。
つまり、ピークグリップを上げ1スティントでタイヤを使い切る。ピットストップでは4本交換を基本とする作戦だ。予選では得意なコースはポールポジションを狙い、厳しいコースでもできるだけ上位を狙う。そうすることで、決勝レースは上位で展開できることになり、2スティント目は各車タイムを上げられない中で、新品を履くBRZが上位を目指すという作戦だ。
理想を言えば、得意なコースではポールを取り、トップでドライバー交代をし2スティント目で、ピットストップで抜かれたマシンを抜き返す。悪くても3位までに入る。厳しいレースでも同様にできるだけ上位で決勝を走り、2スティント目は新品タイヤで追い上げてポイントを稼ぐという理想だ。
こうした戦略の変更、マシンの変更、スタッフ組織の変更を行ないSUBARU BRZ GT300はシリーズチャンピオンを狙っていく。
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