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【夢に描いた2ドアクーペを現実に】シトロエンDSクーペ・グラン・パレ 前編

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【夢に描いた2ドアクーペを現実に】シトロエンDSクーペ・グラン・パレ 前編

開発当時の夢を叶えたデザイナー

text:Jon Pressnell(ジョン・プレスネル)

【画像】シトロエンDSクーペ・グラン・パレ 全28枚

photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


誰もがそれぞれ、大きさは違っても、自分なりの夢を持っているはず。もしこんなクルマがあったなら、と夢想している読者もいるだろう。

計画には上がりながらも、自動車メーカーとして量産できなかったクルマも少なくない。エンジニアやデザイナーの夢に終わったプロジェクトたち。

かなり数は少ないながらも、その夢を現実するための熱い魂と才能を備え、必要な資金や人材を準備できる人がいる。そんな人物の1人が、ノルマンディーを拠点に活動するジェラール・ゴドフロイだ。

彼が生み出したのは、ピラーレスの美しいシトロエンDS 2ドアクーペ、グラン・パレ。華麗なボディラインに見惚れるだけでなく、まるでシトロエンの生産ラインから出てきたかのように、完成度も高い。

写真を見ていただければ分かる通り、このDSグラン・パレを手掛けたのは、アマチュア・レベルの人間ではない。ジェラール・ゴドフロイ自身も、業界では名の通った自動車デザイナー。クルマ以外の工業製品も数多く生み出している。

若かりしゴドフロイは社会人になると、2年半をプジョーで過ごし、プジョー205の初期デザインに関与。その後フランスのコーチビルダー、ユーリエ社に入り、5年ほど経験を積んだ。

アルピーヌV6のデザインを仕上げる責任者となったほか、シトロエン・ビザIIのフェイスリフトを担当。コンパクト・モデルの延命に貢献している。

同僚との能力を合わせて独創的に

1983年になると、ゴドフロイはベンチュリー社へ転職。11年間在籍した。ほかにも、水陸両用レジャービークルなどのプロジェクトにも関わっている。

彼が関わった工業製品の中で今も広く目にするものの代表といえば、フランス・マニトー社の建設用機械。赤く塗られたクレーンやフォークリフトなど、旅行先で目にした読者もいるのではないだろうか。

DSグラン・パレを生み出すきっかけはシンプルだったと、ゴドフロイは振り返る。長年のコーチビルダーとして同僚でもあるクリストフ・ビアーが、DSのサルーンを、シャプロン社の工場で作られていたカブリオレのレプリカにしたいと考えていたからだった。

「わたしは、お互いの能力を合わせれば、もっと独創的なクルマを作れると話しました。DSをカブリオレに改造する人は少なくないので、クーペにしようと、彼を説得したんです」 と話すゴドフロイ。

「シトロエンはDSのクーペを正式に作ることはありませんでした。シャプロン社のハードトップとは異なるものを生み出したいと思いました。DSのデザイナーだった、フラミニオ・ベルトーニのアイデアに近い、ほかとは違う何かをしたかったのです」

「クーペなら、オリジナルの良さを尊重しながら、もっと個性を出せると考えました。大きくカーブを描くリアウインドウや、丸く柔らかなリアエンドなど」

個性は残しつつより高いレベルへ

さらに続けるゴドフロイ。「サイドウインドウを完全に下ろせる、ピラーのない大きなグラスエリアが良いと思いました。開放的で、オープンカーより快適に運転できます」

初期のデザインは2012年に描かれた。それをコンピューターで展開した。細いパイプでフレームを組んで基本的なボディ形状を生み出すと、細かな造形を詰めていった。

最終的なデザインは、手作業で丁寧にポリウレタンフォームを削り出して仕上げた。DSのデザイナー、ベルトーニが石膏を削り出してデザインした手法に合わせるように。

「わたしは彫刻家でもあると実感しました。リアセクションの造形作業がとても楽しかったのです。2つのボディ面が、美しいカーブでつながっています」 ゴドフロイが作業時を思い返す。

「わたしとしては、もっと大きなカーブをリアフェンダー周りに与えたいと思っていました。丸みを持たせたリアセクションにすれば、滑らかなラインでエレガントな光の反射を生み出せます」

「シャプロン社が手掛けていたカブリオレは、フェンダーの造形がずっとフラットです。このDSグラン・パレは、ウエストラインが大きく絞られています。DSオリジナルの個性は残しつつ、より高いレベルのデザインへ引き上げることを目的としました」 造形への思考がプロらしい。

ドアから後ろのボディはFRPで一新

DSグラン・パレはリアデッキが長く伸びるが、コンパクトなグラスエリアを生み出すために、必然的に生まれたもの。新たに造形されたボディデザインは、オリジナルと完璧なマッチングを見せている。

デザインが決定すると、クリストフが1968年製のDS21キャブレター・サルーンからクーペへとコンバージョンさせる作業を進めた。フロントフェンダーから後ろのボディパネルは、グラスファイバーで完全に作り直されてある。

新しいボディは、1963年に導入されたスチール製のフロントエンド部分と結合。ドアもスチール製の補強材入りで10cm延長し、グラスファイバーで造形してある。

ドアヒンジとキャッチャーは、作りの良い現代的な部品を用いている。ゴドフロイは、ドアが閉まる時のドシンと重みのある質感に、誇りを感じている。

ボディを支えるシャシーも補強され、サイドシルも強化。ドア開口部の後ろ部分には、スチール製のA型フレームが入り、ボディ中央とルーフを支持する。長いトランクリッドのクロージングパネルも、スチール製だ。

グラスエリアはオリジナルのDSより低められ、形状はまったく新しい。フロントピラーとリアピラーは強度が高められ、ルーフの内側にはボディ剛性を高めるため、鋼管フレームが仕込まれている。

この続きは後編にて。

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