今回の東京オートサロンでもっとも話題となり、もっとも刺激的だったのは、TOYO TIRESがサポートするケン・ブロックのデモランだった。その模様を体験レポートを交えてお伝えする。TEXT◎中三川大地(Daichi Nakamigawa)PHOTO◎中島仁菜(Nina Nakajima)/篠原晃一(Koichi Shinohara)
助手席に備わるタイトなフルバケットシートに腰を下ろし、フルハーネスのシートベルトでギュウギュウと締め付けられる。Youtubeを通してさんざん見たあのMoTeC製のディスプレイロガーと、長いシーケンシャルシフトノブ、サイドブレーキレバーが視界に入る。何よりもドライバーズシートに座っているのはケン・ブロック張本人だ。
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2018年、東京オートサロン。TOYO TIRESのブースでケン・ブロックは、彼と同じくエクストリームなムービーを制作するトロフィートラックドライバーのBJバルドウィンと共にトークショーを繰り広げたほか、持ち前のドライビング技術を特設コースで披露してくれた。ジムカーナシリーズでおなじみフォード・フィエスタST RX43で、会期中、何度もコースを走り回ったほか、快く同乗走行まで受け入れてくれる大盤振る舞いだった。
ドラッグレースのごとくバーンアウトからロケットスタートし、瞬時にサイドターン。そこからはドリフトにドーナツターンに――。と、いかにもケン・ブロックらしい技の多くを実体験させてくれた。
それでも僕がまだ冷静でいられたのは、相当にマージンをとってくれたからだろう。ほぼタイヤが流れているがゆえ、そこまで強烈なGを感じることなく、意外なほど身体に負担は少ない。「これがあのムービーで見たテクニックか」と思いながら、次の瞬間「でも今、本気で壁すれすれだったよな」と頭をよぎったり、冷静と恐怖が行き交うほんの数十秒だった。
そのうち、彼がオーディエンスのためにグルグルとターンをすると、後輪から発せられるタイヤスモークで車内は真っ白に。視界なんてほぼゼロで、これでも臆せずスロットルを踏み込めるなんて、と感心した。自分が操るマシンと、そして路面との接点であるタイヤに絶大な信頼を置くからこそ為せる技だろう。
荒野の果てから街中までを駆け抜けたジムカーナシリーズに続き、クライムカーナと銘打って1400馬力もの出力性能を持つHOONICORN_RTR(1965年式マスタング改)でパイクスピークを全開で駆け抜けたケン・ブロックが、笑顔で同乗走行に応じてくれている。それは、究極のマシンで誰も成し得ない究極のムービーを撮り続けてきた男のサービス精神だった。かねてより日本が好きで、メイド・イン・ジャパンの製品や技術に多大なる敬意を払う男だからこそ、日本を代表するカスタムカーショーである東京オートサロンの場で、持ち前の技を披露できることに喜びを感じていたようだった。
「パイクスピークは子供の頃から憧れていた場所。1400馬力に最初は手こずったし、山を登るに連れて過酷な環境が増えてきたけれど、結果としてこれだけのムービーが完成したのをとても嬉しく思う。僕の走りを支えてくれた全員に感謝したい。TOYO TIRESの性能を含めて、最高のチームだった」
ムービーを撮るときだけじゃない。たとえデモランでも、ケン・ブロックは可能な限り本気で攻め立てる。そうじゃなければ観客の心は掴めないと己に課している。だからこそ、ほんの数分でタイヤは丸坊主となり、デモランの最中は幾度となく新品のTOYO PROXES R888Rに交換されていた。まるでタイヤのライフを早送りしているような光景には、あらためて驚かされた。件のクライムカーナの撮影中は、10回もタイヤ交換をして合計で40本近くを消費したという。
こうしたケンブロックの走りで表現されるように、TOYO TIRESはタイヤを使いまくるイベントや作品を積極的にサポートする。タイヤの基本性能であるグリップ力に加えて、昨今はロングライフとか低燃費ばかりが訴えられるタイヤ業界にあって、まるで真逆をいくかのようなプレゼンテーションだ。ケン・ブロックやBJバルドウィン、D1グランプリでおなじみプロドリフト選手の川畑真人のサポート活動が何よりの証拠だろう。
それが己のタイヤを鍛える開発現場だと認識しているからか。いや、TOYO TIRESは、「モータースポーツの楽しさ」や「クルマの可能性」を世に訴えたいと願う気持ちのほうが大きいのかもしれない。
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