Zは諸説あるが…じつは開発の秘匿記号だった
発表から50年以上経過してもなお、光彩を放ち続けるクルマ、フェアレディZ。新型のプロトタイプも登場したということで、今回はZの1文字に迫ってみたい。
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『「Z」はXYとともに未知数の一つで、アルファベットの最後の文字でもあります。フェアレディZ・シリーズは「未知なる可能性と夢を秘めた車」「究極をめざした車」というそのイメージを象徴して命名されたものです』(ニッサングラフ1969年12月号)
なぜフロントグリルが四角?なぜヘッドライトが「こ」の字? 新型フェアレディZへの疑問
以上が模範解答だが、じつはZの名前はもともと開発の際の秘匿記号だった。昭和30年代から40年代初頭にかけて、日産では設計管理部に届け出た正式な開発符号として、◯の中に文字を加え「マル×××」と読ませ簡略した記号を使用していた。フェアレディZの開発符号は「Ⓩ」だった。
日産のスポーツカーとして1962年に国内発売されたダットサンフェアレディは初代ブルーバードのフレームがベース。主力の北米市場では居住性や快適性、特に幌に対する苦情が多く、モデルチェンジを望む声が上がった。そこで1965年ごろから設計部門では新型車を模索。並行する形でデザイン部門でも独自にZにつながる新型のスポーツカーのスタイリングを検討していた。
首脳陣はフェアレディとシルビアの2台のスポーツカーがあるし、そもそもスポーツカーの収益性はあまりよくない・・・といった具合に、新型のスポーツカーの企画には消極的だった。
当時、第一設計部第三車両設計課長だった鎌原(かんばら)秀実氏は、自らの課が担当するスポーツカーのカテゴリーで大量に売れる収益性が高いクルマを考えていた。北米での駐在経験もあり、アメリカにフォーカスして居住性と快適性が高いクルマが必要不可欠と考えていた。Zのコンセプトはじは鎌原氏によるところが大きい。
提案は受け入れられ、第一設計部の原禎一部は新型スポーツカーの開発を決意。水津 肇次長が主査(チーフエンジニア)となり、64年4月以降、新型スポーツカーの企画が動き始める。鎌原氏は技術的な責任者だった。
フェアレディのモデルチェンジ版として、1.6L直列4気筒車をメインに、高性能仕様の2L直列6気筒も設定。北米で2546ドルの小売価格とし、日産車体で月産1000台(設備能力は2000台)の計画を立てた。
英文字に空きがない!
67年6月8日に、第1回次期型SP車(スポーツカー)連絡会を開催。設計やデザイン、生産側などから20人ほどが集まり、新型車の基本構想や日程の説明、レイアウト図の配布が行われた。2座のクーペを主体に、2座のコンバーチブル、2+2クーペの3種類のボディを設定し、最高速は200km/h以上を考慮すること、1969年8月の船積みに間に合わせることなどが周知された。
開発符号が決まったのもこの会議の席上だった。当時、設計統括として鎌原課長のもとでこのクルマの開発をとりまとめた植村 齊(ひとし)氏は命名について次のように語っている。
『当時プロジェクト名はアルファベット1文字を◯で囲んでいたのですが、すでに使われていて空いている文字がなかなか見つからなかったのです。そこで水津次長が、いっそこのと最後のZにすればよいのではと鶴の一声によって決まってしまったのです』
以後、月1回10日ごろに開催される新型スポーツカーの連絡会は「ⓩ定期連絡会」の名前になった。
企画を承認させた策略
さてⓩのプロジェクトは、この時点では会社首脳部の承認は得られていなかったので、いわば見切り発車状態だった。第一設計部の原 禎一部長は、タイミングをうかがっていたのだろうが、その好機が訪れる。その内容は、原 禎一氏の自叙伝に詳しいが、以下に簡単にご紹介したい。
日産の首脳部が集まる常務会でR380-II型のプロトタイプレーシングカーが積むG8B型エンジンをスカイラインに搭載する企画(後のGT-R)が持ち上がる。スポーツカーのフェアレディより先にGTに積むとはいかがなものか、というわけで、2気筒分ボンネットを延長したフェアレディの模型を設計部で造って見せた。いかにも不格好だったが、あらかじめ用意しておいたスポーツカーのデザインモデルのシートカバーを外すと・・・その端正な姿から企画が認められ、デザイン承認も受けてしまうという見事な戦略だった(参考文献:原 禎一著『ダットサン開発の思い出』)
ⓩに(G8Bの市販版)S20型エンジンが設定されたのは、この常務会での承認があったためで、搭載が企画の前提条件だった。また、この時点で従来の4気筒車の併売が決まったため、1.6L車の設定はなくなり、クーペ型だけのボディ体系になった。
多くの由来が誕生!?
車名は直前の69年7月にようやく決まった。フェアレディZの名前は、もともとフェアレディのモデルチェンジ版ということで企画が始まった経緯や、川又克二社長自らがフェアレディと命名したことから、変更に難色を示して引き継ぐことに。また、従来のオープンタイプのダットサン フェアレディも普及版として並行販売することが決まり、区別するために新型にサブネームを導入することになった。開発符号に使われたZの文字を気に入っていた営業部門では、車名を決める際に、市販車のペットネームに生かすことにして「フェアレディZ」としたという。
車名はZenith(頂点)のZ、第三の未知数のZ、究極を意味するZ、Z旗のZ・・・など諸説が生まれた。一部は営業部門がカタログや広告宣伝に取り入れてアピールしているが、本来の起源は開発符号なのである。人気のスポーツカーだけにさまざまな思いが車名ストーリーを生んでいるのかもしれない。
〈文=ドライバーWeb編集部〉
※本稿は「車名博物館PART1」(八重洲出版)をもとに再構成しています
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みんなのコメント
大分前のプロジェクトXでそのような説明があったと記憶しているのですが・・・
未だにその人気は衰えない