50代のクルマ好きが見る夢は?『GQ JAPAN』エディターのカワニシが、憧れと現実の狭間で真剣に悩んでいる愛車選びについて。
スーパーカー少年は大人になった
僕が小学生のとき、突如巻き起こったスーパーカー・ブームは、クラスの男子を“ランボルギーニ・カウンタック派”と“フェラーリBB派”に二分した。僕が“BB派”だったのは、特にフェラーリが好きだったからというわけではない。その派手なルックスで、より大きな勢力を誇ったカウンタック派に対し、野球なら巨人より阪神、キャンディーズならランちゃんよりミキちゃん……という判官贔屓というか、二番手好きというか、そんなちょっとだけひねくれた性格が作用したものだった。
その後、ブームは潮が引くように終わりを告げ、“スーパーカー少年”たちはみなふつうの子どもに戻っていったのだが、僕がいまこうしてクルマに関わる仕事をしているのに、あのブームの影響がないとは言えない。
とはいえ不思議と、「スーパーカーやフェラーリを所有したい」と真剣に思ったことはなかった。子どもの頃、プロ野球選手になりたかったり、パイロットになりたかったのと同じで、スーパーカーへの情熱は、あくまで一過性の“憧れ”に過ぎなかったのだ。僕はそう思っていた。いや、たしかにそのはずだったのだが……。
フェラーリ308との出会い
数年前のこと、知人が所有するフェラーリ308を運転させてもらう機会があった。1979年型の欧州仕様、キャブレター車だ。それまで仕事で最新のフェラーリに試乗したことはあったが、古いモデルは初めてだった。
むろんその“速さ”は現代のスーパースポーツとは比べるべくもない。だが剥き出しのゲートに沿ってシフトレバーを操り、想像以上に軽く吹け上がる8気筒エンジンを歌わせるのは楽しく、僕は夢中になって走らせた。
諸々の事情により、308を2週間ほど預かることになり、その間ちょっとしたオーナー気分で、その黄色いフェラーリをドライブした。個体の調子のよさゆえトラブルを心配することなく、快適に運転を愉しむことができたのは幸いだった。
ネイビーのレザーシートに身体が馴染みはじめ、クラシカルな意匠のコンソールまわりが、あのBBの面影を色濃く残しているのに気づくと、さらに愛着が増した。
2週間後、知人に308を返したとき、僕は寂しいような、でもどこかホッとしたような、ちょっと複雑な気持ちだった。それは心のどこかで、この黄色い308が「ほしい」と思いはじめていたからなのかもしれない。胸の奥にしまっていたあの頃の“夢”が、思いがけずコロンと飛び出してきてしまったような、そんな気がした。
53歳、夢を叶えられるのか?
残念ながらそのときの僕に、フェラーリをポンと手に入れられるほどの甲斐性はなかった。とはいえ308のような70、80年代の“スモール・フェラーリ”は、僕ら世代のオトコにとって、絶対に、まったく手の届かない存在というわけでもない。もしそのために真剣に努力すれば、必ずしも叶わぬ夢ではないだろう。だからこそ、むしろ始末が悪いとも言えるのだが……。
ふと運転したフェラーリに恋してから数年が経ち、僕は50代になった。「いつか」という言葉の意味が、若い時とは決定的に違っていることを強く感じ始めている。人生の中で、あと何台の車を所有するだろう? 少なくとも、漫然と思い描いている「いつか」は、きっとやってこない、ということはわかっている。
いま僕は52歳。6月が来れば53歳。諸事情により貯えは……ない。こんなオトコでも“憧れ”を手にできるのか。やはり見果てぬ夢なのか? 焼けぼっくいに火がついた、五十路男の行方は……、また機会があれば報告させていただきます。
河西啓介
『GQ JAPAN』コントリビューティングエディター。クルマ、オートバイ、自転車、“車輪付き乗りもの”なら何でも好き。愛車はアルファロメオ・スパイダー・ヴェローチェとベスパとブロンプトン。
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
日産の「和製スーパーカー」!? 斬新「3人乗り」仕様&目がバグる「幅狭」仕様! “後輪駆動”でめちゃ楽しそうな「ブレードグライダー」とは
[N-BOX]が[スペーシア]に負けるなんて…絶対王者 N-BOXに何が起こったのか!?!?!?
日産「“ミニ”ケンメリGT-R」実車展示に大反響! “全長3m級”ボディの「斬新スポーツカー」がスゴい! 幻の「ちびメリ」とは?
5速MT搭載! 三菱が新型「軽トラック」を発表! ワイルドな「角張りボディ」採用した商用モデル「新型ミニキャブ」に反響続々!
異形の新型「“完全フルオープン“スポーツカー」初公開に反響多数!?「もはやF1マシン」「美しすぎる」 爆速2シーター「ピュアスポーツ」”地中海の宝石”に登場
みんなのコメント
乗らなかった後悔はいつまでも引きずるぞ