欧州フォードは、かつて日本でも販売された「モンデオ」の生産終了を発表した。初代と2代目に愛着のあった小川フミオが別れを惜しむ。
“なんとなくさびしい”理由
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英国のフォードが「モンデオ」の生産を、2022年をもって終了する、と今年3月下旬に発表した。4代つづいたモンデオの後継モデルの予定はない、ということが、どうやら英国人にショックを与えているようだ。
日本でも1993年の初代と、2000年の2代目が販売されていたモンデオは、「ミドルクラスのセダンとはかくあるべし」とでもいうべきパッケージのクルマだった。特徴がないことが特徴というか。好き嫌いが分かれない個性に乏しいスタイルと、けっこう広い室内空間と、容量の大きな荷室を持ち、走りも、とくによくもなければとくに悪くもない。
大衆車のことを英語で“ブレッドンバター(Bread and Butter)カー”と表現するように、パンのような、日本だったら白飯のような存在とでもいおうか。
食事でいえば主食のようなクルマで、乗るひとが副食、つまり、どう使うかによって味わいを深くするのだった。このあたりが、今回の生産中止の報に接して、英国の自動車ジャーナリストが“なんとなくさびしい”と、書く背景なのかもしれない。
初代&2代目の思い出
私にはフォードの日本法人が輸入していた初代の印象が強い。キンキンと金属音を響かせるようなエンジンルームからの透過音と、少々ダルなハンドリング、それに回転半径の大きさによる取りまわしの悪さは、はっきりいってかなりネガティブな印象だった。
いっぽう、走らせればそれなりに応えてくれるし、室内は広くておとな4人にも充分いじょうのスペースがある点では、200万円を中心とした価格(当初は200万円を切るモデルまで設定)への投資への見返りがちゃんとあった。
4.6mの全長に対して広大な荷室をもつステーションワゴンは、実用性じゅうぶん。日本車にはここまでのパッケージングのクルマはなかった。ドイツ車で同等のモデルを探そうと思うと、価格はうんとはねあがった。
2001年の2代目も日本で発売された。当時フォードが標榜していた“ニューエッジデザイン”と呼ぶデザインテーマがスタイリングに採用されたのが特徴だ。シャープなキャラクターラインと、めりはりのついたボディ面の表情は、「フォーカス」など当時の欧州フォードのモデルに共通するデザインアイデンティティである。室内も質感があがった。
「インサイドアウト」(中を外に)が、2代目のパッケージングにおけるテーマだった。ステーションワゴンの荷室は、あいかわらず大きく、「こういうフツウのクルマを使い倒す生活こそ本当の意味でゆたかと言えるんじゃないかなぁ」と、思ったのをおぼえている。
いっぽう2005年にはスポーツモデル「ST220」がセダンに設定されて日本でも限定発売された。226psの3.0リッターV型6気筒ガソリンDOHCユニットを搭載した前輪駆動で、変速機は6段マニュアル、と、ヤル気じゅうぶんなモデルだった。
サスペンションシステムなど専用のチューニングが施されていて、操縦性は(モンデオとは思えないほど)スポーティ。価格は、標準モデルが300万円台だったのに対して450万円。それでも、初回の20台はすぐに売れて、2006年にはカタログモデルに”昇格”したほどだ。
縮小するセダン&ステーションワゴン
その後、2007年に3代目に、2013年に4代目へ、と、モデルチェンジを繰り返してきた。現在のモンデオは、米国フォードのスポーツモデル「マスタング」を彷彿させる精悍なフロントマスクを備えており、ハイブリッドモデルの設定もある。
それでも生産中止に至ったのは、セダンとステーションワゴンという車型が、SUV全盛の現代のニーズに応えきれていない、と、フォードが判断したせいだろう。
2016年、フォードは日本から撤退。欧州フォードの現在のラインナップには、日本で成功まちがいなしと太鼓判をおせるほどの個性をもったモデルはない。でも米国には「マスタング」(EVの「マックE」もある)やちょっとレトロなスタイルのSUV「ブロンコ」など、ほかにないキャラクターをそなえたモデルもある。
こういうモデルでもって、もういちど、日本市場にトライしてみてくれないだろうか。モンデオの生産中心の報をきっかけに、そんなことを思った。
文・小川フミオ
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