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試乗 アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリント ハンドメイドの不完全さもそのままに

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試乗 アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリント ハンドメイドの不完全さもそのままに

もくじ

ー 極めて貴重なハンドメイド・ジュリエッタ・スプリント
ー スウェーデンに送られたシャシーナンバー00024
ー アルファ・ロメオの虜にしたジュリア・スプリントGT
ー ハンドメイドモデルを手に入れる巡り合わせ
ー 手作りならではの不完全さも残す
ー ガラスやエンジンの補記類まで、徹底したこだわり
ー ナンバープレートも当時ものをチョイス
ー 交換用部品がいまでも手に入るという奥深さ
ー アルファ・ロメオの歴史を受け継ぐ記念碑

アルファ・ロメオ・ジュリエッタ 100台だけの限定車「ヴェローチェ・カーボン」

極めて貴重なハンドメイド・ジュリエッタ・スプリント

古いクルマのレストア作業は概してかなりチャレンジングな場合が多い。しかし本格的な量産前の、プリプロダクション・モデルとなると、更に作業は複雑になるのだった。今回ご紹介する、アルファ・ロメオのエンスージャストであるポール・グレゴリーが見つけたクルマは、ハンドメイドの特別な1台。クルマの成り立ちと、グレゴリーのこだわりが、作業を一層難しいものにした。

まずは歴史を振り返ってみよう。アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリントのプロトタイプが発表されたのは、1954年のトリノ自動車ショー。発表当時、1290ccで65ps足らずの小さなグランドツアラーが大きな反響を呼ぶことを、アルファ・ロメオは予想していなかった。何しろ発表から数日後には、注文の受付を中断しなければななかったほど。


想像以上の注文に応えるため、急ピッチで量産モデルの準備が進められた。一方で、量産に至るまでのプリプロダクション・モデルの制作は、ボディ周りをベルトーネ社が、インテリアと電気系統をギア社とが、協働して進行させた。ベルトーネ社はその後の大量生産を視野に入れており、グルリアスコへ新しい量産ラインを準備していたが、完成するまではトリノ近郊の職人へボディ制作の下請けを出すことになった。

追加資金を調達するために、社債を発行するなど様々な手段が講じられたが、具体的な生産台数までは分かっていなかった。量産ラインが完成するまでの間に、ハンドメイドのジュリエッタが何台作られたのかも明らかになっていないが、200台から1000台の間程度だと考えられている。

スウェーデンに送られたシャシーナンバー00024

ターコイズ・ブルーが美しいこの個体のシャシーナンバーは00024で、残存している最も初期のジュリエッタ・スプリントだと考えられている。ボディナンバーは16が刻まれており、インナースキンのあちこちに刻印されていたそうだ。一見すると普通のスプリントの初期型にも見えるが、低いルーフラインやホイールアーチのカーブ、エンブレムが付いていないことなど、詳しく観察してくと特徴が見えてくる。

このクルマは、若いスウェーデン・レーサーのジョー・ボニアが注文したものだった。当時25歳のボニアは、印刷会社を営む裕福な家庭に生まれた青年。英国オックスフォードで学んだ後、スウェーデンでスポーツカーの販売会社を営む傍ら、モータースポーツの世界でキャリアを積むことを決める。実はその時点ですでに、ボニアはアルファ・ロメオとの関係性を築いていた。


雪上レースやラリーなどに参戦していた彼は、空飛ぶ円盤、アルファ・ロメオ・ディスコ・ボランテのドライブ経験も持っていた。また1956年にはジュリエッタ・スプリント・アレジェリータを駆って、ミッレ・ミリアにも参戦しているだけでなく、F-1にも参戦している。

しかし、このクルマの記録ははっきりわかっていない。ボニアがジュリエッタ・スプリントの注文を決め、納車されると、5月までは彼のメカニック、カゲ・カンレルが運転したようではある。まばゆいボディに、ミラノのナンバーを付けてスウェーデンまで自走してきたのだろう。

澄みきったブルーに染められたコンパクトなクーペは、スウェーデンに上陸した初めてのジュリエッタ・スプリントだったはず。その後ボニアは、スウェーデンでは有名な企業家、イワン・ブロムへ売却するが、それまでの間ストックホルムでは注目を集めていたと思う。

「ボニアがデモンストレーション用に走らせていたと思うのですが、レースに参戦した証拠までは残っていません」 と情報をまとめる現オーナーのグレゴリー。残念なことにこのクルマの登録記録は1955年以降残っていなかったが、現地のアルファ・ロメオ・フリーク、いわゆるアルフィスタによって、所有履歴を辿ることができたそうだ。

アルファ・ロメオの虜にしたジュリア・スプリントGT

1963年にシャシーナンバー00024は、ストックホルム在住のアルフィスタ、ボー・ダールストロムが買い取る。彼は複数台のアルファ・ロメオを所有していたようだが、この00024は北欧の冬の雪道で走らせて、ぶつけてしまったらしい。それほど大きな損傷はなかったようだが、ボディの修復に合わせて異なるブルーで再塗装され、ボディの装飾トリムも変更されている。

それから長い時間をかけて、この00024は様々なアップグレードを受け、後期仕様に変更をされていった。1980年ごろまでの間にエンジンも載せ変えられ、フロアから伸びるマニュアル・シフトノブはコラムシフトに変更されていた。そんなジュリエッタ・スプリントを、いくつかのレストア車両をすでに抱えていたグレゴリーが偶然手に入れることになる。


この、アルフィスタから一目置かれるエンジニア、グレゴリーがアルファ・ロメオの虜になったのは1971年。1964年式のアルファ・ロメオ・ジュリア・スプリントGTを手に入れた時からだ。「私が通勤用の実用的なクルマを個人売買で探していたときに、たまたま見つけたのがスプリントGTでした。手に入れた後、台所でエンジンを組み直しました。他の多くのアルファ・ロメオと同様に、このクルマもメカニカル的にはとても素晴らしかったのですが、ボディの傷みはひどいものでした」


「その後、わたしの友人のニック・サベージが初期のジュリエッタを譲ってくれて、それ以来、アルファ・ロメオに夢中です。わたしにとっては、ジウジアーロがデザインした、段付きボンネットの105シリーズより良いクルマだと思います。程々のスピードで楽しむには不満のないグリップ力があり、パッケージングも完璧だと思います」

「エンジンも素晴らしいし、ブレーキも良い。ステアリングフィールも優れていて、何よりボディが美しい。排気量はたったの1290ccですが、160km/h以上までクルマを引っ張れますし、130km/hくらいの巡航でも問題ありません」 と話すグレゴリー。そのほとばしる情熱から、オーナーズクラブの情報誌の編集を手がけるだけでなく、オーナーズクラブの会長に選出されたことが、ハンドメイド・スプリントが舞い込んでくるきっかけとなった。

ハンドメイドモデルを手に入れる巡り合わせ

会長へ選出されると、スウェーデンを含む、世界中のメンバーから電話がかかってきたそうだ。「2006年にスウェーデン・ヨーテボリに住むアレックス・リンドから電話をもらいました。極めて初期のスプリントを所有していて、どういうクルマなのか査定をして欲しい、という内容でした。わたしの見立てはかなり甘かったと思いますが、それから1年後に、再びアレックスが電話をくれて、クルマを売却したいと話してくれたのです」

話を聞いたグレゴリーは、アルファ・ロメオに詳しいクリス・ロビンソンと友人のサベージへ連絡し、現物を見るためにスウェーデンへと飛んだ。「クルマはアレックスの話していた通りのコンディションでした。1970年代に誰かがレストアに手を出したものの、クルマの価値を下げるようなことはされていませんでした。わたしは自他ともに認めるアルファ・ロメオ・フリークですが、このクルマの経歴を調べることはとても楽しい作業でした」


ボディの塗装を剥離すると、初期のハンドメイド・モデルだということは直ぐにわかったという。「ボディの鈑金加工を行っていた職人の技術はとても高く、しっかり時間も割かれています。ボディパネルは美しく整形され、滑らかに溶接されていました。ボディパネルはきれいに叩きだされているのがわかりました。記録として、すべてのボディパネルにマーキングをして、組み立てた手順も写真で撮影てあります」


ロンドンから南西に下がったオーバー・ウォロップという街にある、オールド・コーチワーク社のジョン・ホールデンが、ボディのレストアを引き受けた。しかし、オーナーのグレゴリーは腕の立つホールデンへ、当時の職人以上にボディをきれいに仕上げないよう依頼をした。また塗装を剥離するのに薬品に浸すのを嫌ったグレゴリーは、サンドブラスト処理(細かい砂を当てて表面を研磨する方法)を指定したそうだ。

「機械での量産モデルのスプリントとは違って、構造用メンバーが付いておらず、ボディは少し剛性が足りていませんでした。しかし、カロッツェリア・ベルトーネが仕上げたとおりに、可能な限りオリジナルの状態に近づけることを当初から決めていました。いま振り返ると、そのレストア作業は楽しくもあり、ストレスが溜まるものでもありましたね」

手作りならではの不完全さも残す

復活させる作業を通じて、ハンドメイド・モデルが持つ製造品質の特徴も明らかになった。表からは見えない部分、例えばフロントバンパーのブラケットやフロアパネルなどに、かなりの手抜きと思われる場所が散見されたのだ。また、整形されたシャシーの構造材や、バルクヘッド後ろに用いられていた鉄板、フロントフレームまで、手作りならではの秘密も知ることができた。

「補強用の部材はほとんどなく、ショックアブソーバーのアッパーマウント付近も折り畳まれた鉄の板が用いられていたんです。トランクルームの内側は小さな部材が組み合わされており、まるでパッチワーク。シンプルなドアの内部構造は、折り紙のようなボックスセクションで成り立っていました。プロペラシャフトが通るトンネル部分は、ひと組のシートが適正な位置に収まるようにはなっていますが、かなり手荒くハンマーで叩き出されています。ドアの内張りを作り直すさなか、ドアの長さが右と左とで10mmも違うことに気付いたのです。あえて不完全なオリジナリティをそのまま残すということは、ジョンを悩ませたようです」


一通り板金処理が終わると、オールド・コーチワーク社の別の場所にある塗装工場へボディシェルは運ばれた。グレゴリーが手に入れるまでにスプリントは青と赤に全塗装されていたが、オリジナルのボディカラーがブルー・チアリッシモ(クリアブルー)だっということが、グローブボックスの内側から判明した。

「オリジナルのカラーコードを辿って、AR310番が緑がかったかなり鮮やかな青だということがわかりました。初めはその色調がクルマに似合うのが心配でしたが、純正と変わらないセルロース塗料でスプレーされ、シルバーのボディトリムで引き締められた姿を見たら、直ぐに気に入ってしまいました」

「インテリアの特徴的なディティールが、作業を難しくさせました。ドアの内張りは新しいものに置き換わってしまいましたが、オリジナルのシートフレームとシートカバーは、張り直されたシートの内側に残っていました。このシート形状は、初期の100台だけの特徴的なものなんです」 とグレゴリーが説明する。


「初めに生地のサンプルを英国東部のサドベリーにある、ハンフリーズ・ウィービング社へ送りました。小さなサンプルから生地を織り直してくれる、素晴らしい工場です。フロアカーペットも残っていなかったので、古い写真を参考に作り直しました。天井のヘッドライナーとサンバイザーは、グレーのクロスで張り替えてあります」

ハンドメイドとなるモデル初期だけの特徴的なデザインに、ボディと同色に塗られたダッシュボード。ヒンジが下側に付いたグローブボックス・リッド。その仕上がりはかなりスタイリッシュだ。1954年の4月、トリノ自動車ショーのアルファ・ロメオブースに並んだ、プロトタイプのスプリント。そのクルマのドアを初めて開けて乗り込んだ来場者の反応が目に浮かぶ。

ガラスやエンジンの補記類まで、徹底したこだわり

フロントガラスの形状も、初期のクルマはルーフラインが低くウエストラインも高いため、後期の量産モデルとは形状が異なっている。入手した時にはフロントガラスがなく、英国東部のシェピー島にあるピルキントン・オートモーティブ社のクラシック部門で、いちから製造してもらった。「とても親切にしてもらいました。初めに届いたガラスはボディに上手くはまらなかったのです。何度かピルキントン社へ送り返しました。その度にガラスのエッジを削って、成形用のオーブンで焼いてくれたのです。さほど待たされることもなく」


淡いグリーンのティントガラスが用いられたリアウインドウは磨く程度で済んだが、サイドガラスは傷がひどく、こちらも作り直した。そして最後の仕上げとして、オリジナルのガラスメーカー、「Vitrex(ビトレックス)」のロゴが新しいガラスにエッチングしてある。

ボディが当初の美しさを取り戻したところで、次の難題はエンジン。オリジナルのエンジンはとっくの昔に違うユニットへ置き換えられていたからだ。こちらもまた量産モデルとは異なり、初期の750シリーズエンジンは、鋳物の型から異なっている。垂直方向の補強リブは細く、フロントカバーのボルト部分には不自然なスペースが空いており、ブロックのバックプレートも目立つ。

「ジュリエッタには様々なバージョンが存在していますが、顧客からの苦情に合わせる形で変更が加えられていったのです。イタリアのクラウディオ・ジョルジェッティという人物を通じて、ありがたいことに初期のブロックを入手することができました」 さらにグレゴリーの完璧主義は、補機類などメカニカルな部分にも及んだ。


ソレックス製の32PAIAT型ツインチョーク・キャブレターを用意することは当然だったとはいえ、インテークマニホールドは、写真を元に設計図を引き、新しく作り直した。「エンジンのパフォーマンスが低下することは明らかでしたが、正確に再現したかったのです。ソレックス32キャブレターの部品もいまでは入手困難なので、独自に混合気を作るジェットを制作しています」

「エンジンルームの中も完璧なものにするべく、エアクリーナーの形状にも、後期型の円筒形のキャニスタータイプではなく、コーラル・スカットルと呼ばれるタイプに拘っています。そこでスウェーデンの友人に助けを求めました。クリス・ロビンソンにエンジンの組み立てをお願いすることで、わたしはオリジナルの部品を探すことに専念できました」

ナンバープレートも当時ものをチョイス

初期型のジュリエッタ・スプリントには、ダッシュボードの下にケーブルを引っ張ってエンジンを始動できるスターターも備わっていた。グレゴリーは、もちろんこの部品も取り付けている。しかしスターターのピニオンギアを、エンジンのフライホイールに組み合わせる作業は難しい作業だった。「こんな部品は普通は付いていません。とても慎重に調整を加える必要がありました。なぜすぐに装備されなくなったのか、よくわかりましたよ」


またハンドメイドのジュリエッタには、ダイナモやディストリビューター、コイルやスターターモーターに、英国のルーカス社製のパーツが選定されている。「マグネッティ社など、イタリアのサプライヤーをアルファ・ロメオが選ばなかったことには驚きます。おそらく納品のタイミングなどによるのでしょう。極初期のクルマの写真を見ると、点火コイルがエンジンヘッドの前側に付いているのですが、熱や振動の影響で不具合が発生することに工場は気付きました。しかし対応策として、なぜか燃料ポンプの隣に、点火コイルが付けられてしまったのです。現代の気化しやすい燃料へ火花が散ると、出火する恐れもあるので、エンジンの後ろに現代的な燃料ポンプを取り付けてあります」

続いてはホイール。当時と同じフェルガット・トリノ製のものが復元されている。ちなみに1955年まで装備されていたホイールだが、腐食が進むという理由で、アルファ・ロメオは違うものに置き換えてしまったもの。また、直径72mmの初期型のハブセンターキャップを見つけることがてきたことも、レストアの精度の良さを高めている。


さらに雰囲気を完璧なものにするため、当時の風合いを持ったカンバス製のツールバッグを制作。かなりの費用をかけて、純正の車載工具セットも入手した。「クルマ自体は安かったんですけれどね」 とグレゴリーは冗談交じりに話す。「ジュリエッタのオーナーズクラブのメンバーが親切にもオリジナルの暫定マニュアルを入手してくれました。また別のひとは純正のジャッキを見つけてきたんです」 最後の仕上げは、当時物のイタリアのナンバープレート。フロリダに拠点を置くパーツメーカーから取り寄せた。

交換用部品がいまでも手に入るという奥深さ

こうして40年ぶりに復活を果たした、シャシーナンバー00024を持つジュリエッタ・スプリントのお披露目として、ヒストリックカー・デイに参加したグレゴリー。「点火系とソレックス・キャブレターのジェットの調整がうまくいき、快走できました。直径の小さいエグゾーストからは、素敵なサウンドが溢れてきます。クリスはサスペンションに手を加えたいようですが、わたしはこの柔らかな乗り心地が気に入っています。コラムシフトの感触が少しゴムのように緩いのですが、距離を重ねている内に良くなってきました」


オーナーのポール・グレゴリーと友人のクリス・ロビンソンは、クルマの調整を加えながら、ハンプシャー州の道をこれまで640kmほど走っている。クルマをシャシーまで当時のままに仕上げたいという追求心は、ここでも課題を突きつけた。

「走行中に発生する気になる振動は、プロペラシャフトのサポート部分から来ていることがわかりました。初期のものはアルミニウム製だったのですが、後により頑丈なスチール製に置き換わっています。代替品への交換は簡単なのですが、驚いたことにイタリアのパーツメーカー、AFRA社から当時の交換用部品を手配できたのです」 レアな部品を入手できたこと自体が奇跡のようでもあるが、ミラノに拠点を置くAFRA社のホームページには、素晴らしいことに1930年代にまで遡るアルファ・ロメオの情報が載っている。


レストア仕立てのアルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリントだが、エンジンも組み上がったばかりということで、回転数の上限を3500rpmとしている。そのため走行パフォーマンスも、本領までは充分にテストできていない。「3500rpmというのは、カムに乗ってくる回転数なので、もどかしいですね。量産モデルと比較しても、初期のハンドメイドモデルはかなり軽量なので、計測台で車重を量るのが楽しみです。リアデフの減速比はいまのところ10/41なのですが、66psのエンジンとの相性を考えて、9/41のものも一応用意はしてあります」

アルファ・ロメオの歴史を受け継ぐ記念碑

ジュリエッタ・スプリントが完成以来、RAC(ロイヤル・オートモービル・クラブ)のロンドンにある会員施設、ポールモール・クラブハウスに誇らしげに展示されていたが、たくさんの賞賛を集めることになった。またハンプトンコート宮殿でのコンクールデレガンスにも赴いたそうだが、グレゴリーはノミネート車両としてではなく、移動手段として走らせたという。

「日常的にクルマを走らせるということは、コンディションの維持に重要なことです。アルファ・ロメオの博物館に展示されても良いとは思いますが、クルマのことを考えると二の足を踏んでしまいますね」

冒頭のとおり、この00024のシャシーナンバーを持つジュリエッタ・スプリントは、現存する中で最も初期のクルマだと思われる。「このクルマが誕生する前に、10台のスプリントが販売されているはずです。しかし、まだ発見されていません。もしかするとイタリアのどこかの納屋にひっそり眠っている可能性もありますが」


イタリアでは最も有名なアルファ・ロメオのコレクター、コラード・ロプレストは、シャシーナンバー002のクルマを所有しているが、実際はシャシーナンバーが刻まれたプレートのみ。1958年にイタリアのエンジニア、エドゥアルド・ウェバーのためにヴェローチェ仕様へと作り変えられているのだ。一般的には税金対策だったと考えられている。

この究極的に美しく仕上げられたジュリエッタ・スプリントの将来はまだ決まっていない。しかし少なくとも、グレゴリーと、このレストアに協力した優れた仲間たちが成し遂げた偉業は、非常に誇り高いものだ。レストア作業を通じて明らかになった、シャシーナンバー00024が秘めたハンドメイドの痕跡や、当時の所有者の歴史までも、われわれは鮮明に知ることができた。

グレゴリーが持つジュリエッタに対する深遠な情熱が、この貴重なクルマとエピソードを、次の世代へとつなぐことを可能にした。およそ10年間に及んだプロジェクトとなったそうだ。オリジナルモデルのデザイン・設計チームやエンジニア、板金職人と、アルファ・ロメオの歴史に対しての、記念碑的な素晴らしい存在となったといえる。

自動車が単なる工業製品以上の価値や文化性を持っていることを表す、素晴らしいエピソードだと思う。

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