ロンドンと日本の差異
「ブラックキャブ」と呼ばれるロンドンのタクシーは、世界で最も有名なタクシーである。その歴史は古く、1897年に馬車に代わるものとして登場した世界初のライセンス式認可タクシーである。
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ドライバーは“東大入試よりも難しい”と例えられるような難関試験を突破しなければならないため、当然ながら優秀な人材が集まる傾向にある。結果、ロンドンのタクシーは世界一安全だといわれ、市民から高い評価を得ている。
一方、日本でタクシードライバーになるには、旅客運送を目的とした運転ができる「第二種普通自動車運転免許」を取得し、さらに講習を受け続けなければならない。さらに地域によっては試験に合格する必要もあり、デビューまでにクリアしなければならない課題は多い。
しかし、「タクシードライバー募集」の求人広告が多いことからもわかるように、「運転さえできれば誰でもできる仕事」と誤解されがちで、社会的地位が特に高い仕事ではない。日本のタクシー会社もドライバーの教育には力を入れているが、ロンドンのタクシードライバーのように尊敬されているとはいいがたい。
ということで、本稿では、日本のタクシー業界の問題点を掘り下げ、その解決策を非・業界ライターである筆者(小島聖夏、フリーライター)の視点から考えてみたい。
受験費用と資格要件
ロンドンのタクシードライバーになるには、「ロンドンの知識(The Knowledge of London)」という資格試験に合格することが不可欠だ。
受験資格は18歳以上で、普通免許を持ち、
・英国に居住/就労できること
・犯罪行為を犯していないこと
・健康であること
・税金を納めていること
を証明する書類を提出しなければならない。これらの書類、受験料、登録料、証明書などを用意し、申請するだけでも最低1000ポンド(約20万円)はかかるといわれている。
また320のルートを覚え、約2万5000の道路と入り組んだ地図を暗記し、多くのランドマークを覚えなければならない。勉強期間は通常4年間といわれており、この試験に合格するとブラックキャブの個人タクシードライバーになることができる。
ブラックキャブのルーツは、1958年に登場したタクシー専用車両「オースチンFX-4」までさかのぼることができ、伝統的なデザインを守りながら年々進化を続けている。ブラックキャブの料金はメーター制で日本と同程度だ。
日本の免許取得条件
ここで、日本のタクシーとドライバーの特徴を見てみよう。日本では使用される車両が統一されておらず、色や車種など各社が独自の仕様を持っている。
2022年3月末現在、日本では20万3910台のタクシーが運行されている。ドライバーになるためには、普通自動車第二種運転免許を取得する必要がある。条件として
・普通自動車免許取得から3年以上経過
・年齢が満21歳以上
・視力は裸眼で0.5以上、両眼で0.8以上
・信号の3色が判断できる
・深視力検査で誤差が平均2cm以下(眼鏡、コンタクトレンズの使用可)
・聴力は10mの距離で90デシベルの警報音が聞こえる(補聴器の使用可)
などがある。
これらのテストに合格した後、筆記試験と技能試験を受ける。筆記試験では1種免許で得た知識に加え、旅客自動車の運転に関する知識が問われ、技能試験は1種免許よりも厳しく採点される。そのため、合格率は35~40%とそれほど高くない。
さらに、2015年10月1日から「タクシー運転者登録制度」が全国に拡大された。これにより、運輸局長が認定する講習(法令、安全、接遇及び地理)を受講・修了し、タクシー運転者登録を受けなければ法人タクシーに乗務することができない、と国土交通省が発表している。
また、地域によっては「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」(法令、安全、接遇及び地理)に合格する必要がある。ロンドンのタクシードライバーになるための条件は異なるが、日本でタクシードライバーとしてデビューするには、乗り越えなければならない課題が多い。
高い料金とサービスの期待
では、日本のタクシーにはどのような問題があるのだろうか。
世界中の空港送迎のオンライン予約サイト「Taxi2Airport.com」の2019年調査によると、日本のタクシー料金は5kmで15.64ユーロ(当時1920円)で、1位のスイスの22.68ユーロに次いで高い。ドイツは13.80ユーロで3位だった。そのため、求められる「運転技術」「土地勘」「ホスピタリティ」のハードルが高くなり、「サービスがよいのは当たり前」と思われてしまう可能性がある。
土地勘のない外国人観光客にとっては、目的地まで直接連れて行ってくれるタクシーは強い味方だ。しかし、現段階では外国語を話せるドライバーは限られている。
MKタクシー(京都市南区)では、同社に所属する1000人のドライバーのうち、外国語を話せるドライバーは50人前後と少ない。そのため、観光ガイドとしての知識はあっても、言葉の壁で物足りなさを感じることもあるという。
また、近年はセダンに加え、トヨタのプリウスαがタクシー車両として人気となっており、2017年10月にはトヨタ型タクシー専用モデル「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」の販売も開始された。
その他、メルセデス・ベンツやアウディなどの外車も使われ始め、車種が増えている印象もあるが、それ以外の特別仕様のタクシーや、地域ならではのデザインの提案はほとんどないのが実情だ。
業界全体の印象改善への取り組み
日本のタクシーのイメージをよい方向に変えていくためには、ドライバーひとりひとりの意識も大切だ。強引な運転やマナーの悪さ、接客態度の悪さなどで目立つドライバーがひとりでもいると、タクシー業界全体の印象が悪くなってしまう。
日本のタクシー業界において、ドライバーだけでは解決できない問題を改善するにはどうすればいいのだろうか。
まず、日本のタクシー料金が高いという問題だが、日本のタクシー料金は運輸局長が決めた運賃適用地域(運賃ブロック)ごとに設定されているため、タクシー会社やドライバーの技量によって変更することはできない。
運賃が統一されていないと、タクシー会社間の値下げ競争などでサービスの質が低下する可能性があり、それを防ぐためだ。そのため、今後自由に変更することは難しい。
しかし、日本でもライドシェアが始まったことで、数々の困難を乗り越えてきたプロのタクシードライバーの地位が向上し、高い運賃に価値が見いだされる可能性もあるかもしれない。
外国人観光客向け英語研修の効果
タクシーの業務適正化事業などを行う東京タクシーセンター(東京都江東区)は、タクシードライバーの外国人観光客との接し方を改善するための研修を行っている。また、研修終了者を対象に、接客の向上と研修の成果を確認するための「外国人旅客接遇英語検定」を実施している。合格者にはEDC(English Certified Driver、英語認定ドライバー)認定証が授与され、外国人旅客に英語でサービスを提供できるドライバーとして認定される。
このような取り組みはインバウンド対策としては有効だと思うが、残念ながら業界外にはあまり知られていない。もっと広く知られるようになれば、タクシードライバーの地位向上にもつながるのではないだろうか。
車両においては、ブラックキャブのような特徴的な外観ではないため、特別感がないのかもしれない。しかし、日本人にとっては当たり前のタクシーのドアの自動開閉は、世界的に見ても珍しいシステムだそうで、外国人観光客を驚かせている。
これを体験するためだけにタクシーを利用する人もいるほどだ。乗客の安全を確保し、乗り降りの負担を軽減する、まさに日本的なシステムである。乗客のことを考えて、適切なタイミングでドアを操作するドライバーがいることも忘れてはならない。
求められる行政と業界の連携
今回、素人なりに考えてみたが、今後、行政やタクシー会社がさまざまな問題を改善していけば、タクシードライバーのイメージも変わっていくのではないかと感じた。なお、試しに生成AI「ChatGPT」に同様の質問を投げたところ、
●文化的な違いと認識の違い
日本ではタクシードライバーはあくまでドライバーとしてのイメージが強く、社会的な尊敬を受ける職業とはされていません。一方で、ロンドンのタクシードライバーは、その試験の難易度や専門性から、一種の専門職として尊敬される傾向があります。
●認知度とマーケティングの違い
ロンドンのタクシードライバーは、その伝統や特徴が国際的にも認知され、観光客に人気です。一方、日本のタクシードライバーは、その存在やサービスの魅力が海外に向けて積極的にアピールされていないことがあります。
との視座を得た。運転技術とマナーの差、サービスの質とホスピタリティだけでない、こうしたさまざまな要因が重なり合っているのかもしれない。
ただ、日本のタクシードライバーは、多くの条件をクリアし、資格を取得し、研修を受けたプロである。その上で、乗客を安全に目的地まで送り届け、世界最高水準のサービスを提供している。これは尊敬に値することだ。
あなたは、両者の「尊敬」の差についてどうお考えだろうか?
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