日産が満を持して送り出した「ルークス」だが、2020年7月の販売台数は1位 N-BOX:1万6222台、2位 スペーシア:1万3338台、3位 タント:1万3108台というトップ3に対して、7958台で6位という結果になっている。「デイズ」はそこからさらに落ちる格好となっている。
また、三菱の「eKワゴン/クロス」「eKスペース」も、三菱としては頑張っているが、ライバルと比べてしまうと及ばないという状態だ。
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軽に力を入れた日産三菱連合が、軽人気ランキングの3強を崩せず、またスズキ、ダイハツという会社規模で見ると、大きく差があるメーカーにも及ばない理由は何なのか?
文/御堀直嗣
写真/NISSAN、編集部
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■ルークス/eKスペースの仕上がりは上々だが 販売が伸びない日産三菱連合
コロナ禍により新車販売が落ち込んでいたが、2020年4~5月を底に、7月には持ち返してきたようだ。そのなか、軽自動車ではスーパーハイトワゴンのホンダ「N-BOX」人気が衰えない。販売がもっとも落ち込んだ4月でも、1万1000台を大きく超える台数を販売している。これに対し、4月の2番手はダイハツ「ミラ」で、半分以下の約4500台だ。
N-BOXの販売力は、ここまでくると尋常ではないといえる。1990年代の、「オデッセイ」や「ステップワゴン」のミニバン旋風を思い出す。そしてN-BOXは、軽のミニバンを目指して初代は開発されたのであった。
ちなみに、他社のスーパーハイトワゴンの7月の販売台数は、スズキ「スペーシア」が1万3338台で2位、ダイハツ「タント」が1万3108台で3位となり、スペーシアとタントはほぼ横並びといえるだろう。
そのあと、ダイハツ「ムーヴ」(ハイトワゴン)とスズキ「ハスラー」(SUV)が続いて、6位に日産のスーパーハイトワゴンである「ルークス」が7958台となる。
スーパーハイトワゴンがトップ3を固めるなか、順位だけでなく台数でもルークスの伸び悩みが感じられる。NMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)での開発により、ルークスと基本を同じとする三菱自の「eKスペース/eKクロススペース」の台数を加えても9327台で、1万台超えの上位3車に及ばない。
車名を変更した「新型ルークス」(写真はハイウェイスター)。パワートレーンからプラットフォームまで一新した。NA、ターボともにマイルドハイブリッドの「S-HYBRID」を搭載する
写真はSUVスタイルの「eK X(クロス) スペース」。このほかフロントマスクの異なる「eKスペース(NA)」「eKスペース(ターボ)」を設定している
一方、商品性においては、ことに操縦安定性と乗り心地の調和の面で、ルークスおよびeKスペース/eKクロススペースはスーパーハイトワゴン随一である。
2020年3月からの発売なのでもっとも新しく、競合他車に比べ進歩していて当たり前ともいえる。だが、それ以上にルークスとeKスペース/eKクロススペースの走りは格別の仕上がりなのである。
理由はひとつではないだろうが、日産で「スカイラインGT-R」の開発に携わってきた実験担当の技術者が、デイズとルークスの開発ではじめて軽自動車に関わり「軽自動車だからといって、登録車と開発の仕方が違っていいということにはならない」との姿勢で、走行性能にこだわった。ことにルークスは、デイズでやり切れなかったことを徹底的に作りこんだと、彼は言っている。
試乗をしてみると、もはや軽というより登録車の乗り味であり、なおかつ登録車でもコンパクトカーの域は超えていると感じられた。
それであるのに、販売台数では上位3台に迫れなかった理由はどこにあるのか。
■圧倒的強さのN-BOXだが タント&スペーシアは乗り換え需要をしっかり掴む
N-BOXは2代目で、初代N-BOXの投入に際しては〈Nシリーズ〉と銘打ち、N-ONE、N-WGNを順次発売し、Nという頭の名称について「New Next Nippon Norimono」という意味を与え、大々的に宣伝した。一台の新車を売るだけでなく、ホンダが提案する新しい軽自動車の姿を強く打ち出したのだ。これに、かねてからのスーパーハイトワゴン人気が加わり、初代から圧倒的人気を得た。
2017年8月にフルモデルチェンジした「現行型N-BOX」。シートバリエーションは、ベンチシート仕様、スライドシート仕様、スロープ仕様の3種類を用意している
またその乗車感覚や使い勝手は、従来のダイハツやスズキのスーパーハイトワゴンとは違った感触があった。ホンダ流にいえば、軽のミニバンだ。登録車のミニバンを経験した人にとって、すぐに馴染めるスーパーハイトワゴンだったのである。
その人気が、2代目となる現行N-BOXを牽引している。台数でほかを引き離す数となっているのは、乗り換え需要もあるせいだろう。乗り換え需要が支えている点においては、スペーシアやタントも同じはずだ。
スペーシアは、N-BOXと同様にまだ2代目だが、車名を変更する前のパレット時代を含めると、タントの競合として競い合ってきた経緯がある。したがって、タントとともに堅実な販売台数が続いているのも、乗り換え需要があるからだろう。乗り換え時期は、必ずしも新車登場時とは重ならないので、年月を経て需要が継続される。
2019年7月にデビューしたタント。11月にN-BOXを抜いて5年ぶりに販売トップに躍り出たが、王者N-BOXの牙城は切り崩せていない
2017年11月にフルモデルチェンジした「スペーシア」。現行モデルに切り替わったが、エクステリア、コンセプトとも先代モデルからガラリと変わって人気となっている
ルークスも前型はデイズルークスとして、またeKスペースも、振り返ればミニカトッポ時代へさかのぼり、タントと変わらぬ永い歴史を積み上げてきている。だが、その価値が継続的な人気を維持するまで至らぬまま今日を迎えている。
しかも両車は前型で、燃費偽装問題もあり、車種としてもメーカーとしても傷を負った状態からこの2代目で巻き返す段階にある。そこを考えれば、手ごたえのある販売台数といえるのではないか。これから消費者の信頼を得つつ、最新のスーパーハイトワゴンとして、走行性能や商品価値が認められ、浸透してゆけば、販売台数を伸ばす余地はあると思う。
■盤石のN-BOXに影 店舗数に差があるスズキ&ダイハツの強さ
ところで、盤石に見えるN-BOXの販売も、対前年比という統計を見ると影が見えてくる。
7月の集計では、対前年同月比が67.5%となっている。これに対し、スペーシアは105.1%、タントは90.3%なのだ。スペーシアは1年前より販売台数が増えており、タントも減ってはいても同等に近い数字を確保しているのに対し、N-BOXは30%以上の販売減なのである。
2019年の7月の販売台数は2万4049台で、2020年7月は1万6222台だから、7827台減ったことになる。その減った台数は、7月のルークスの7958台に近いといえる。そこから想像すれば、N-BOXからルークスへ乗り換えた消費者がいるかもしれないとの見方もできるのではないか。
単純すぎる想像ではあるが、2代目N-BOXは初代の価値をそのまま改良したにとどまり、その価値観は、一部で飽きられているかもしれないのである。
また、ホンダの販売店は2200店舗ほどだが、スズキは約640店舗、ダイハツは約720店舗であり、7月のそれぞれの販売台数を店舗数で割ってみると、ホンダが7.3台強/店であるのに対し、スズキは20.8台、ダイハツは18.2台であり、1店舗当たりの販売台数がホンダの2.5~3倍近い。それだけ、来店者数が多いわけだ。
ちなみに日産は2100店舗ほどで、1店舗当たりの販売台数は3.8台弱、三菱は約570店舗で2.4台だが、こちらは先に述べたようにこれからの成長に期待するということになるだろう。
販売店の数は劣るが、1店舗当たりの販売台数で勝るダイハツ、スズキ。日産三菱連合ではその強さに及んでいない
N-BOXの2019年7月の2万台超えの時でも、1店舗当たりの販売台数は10.9台なので、スペーシアとタントに対する消費者の信頼や期待は、なお相当に大きなものがあるといえそうだ。
数字を並べてきたが、以上をまとめると、人気のスーパーハイトワゴン市場は、軽自動車とコンパクトカーに主力を置くスズキやダイハツが実は強く、販売店数の差もあって実は消費者から圧倒的支持を得ているといえる。
N-BOXはなお強みを発揮しているが、同時にまた減少傾向に転換しており、2021年あたりには何だかのテコ入れが必要かもしれず、次のモデルチェンジでは新たな価値の提案がないと苦戦を強いられるかもしれない。
ルークスとeKスペース/eKクロススペースについては、発売から1年を迎える2021年3月時点で、その評価が改めて問われることになるだろう。まだ上位3強に大きく負けているわけではないものの、消費者の選択肢に入るための浸透策が、もっと必要かもしれない。
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