ノア/ヴォクシー/エスクァイア、ポルテ/スペイド、86/BRZ、ルーミー/タンク、パッソ/ブーン、デイズ/eKなどの兄弟車(姉妹車)ですが、OEM車を含め、日本車には多いですよね。
なぜ兄弟車が多いのでしょうか? そもそも兄弟車って必要なのでしょうか?
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そんななか、トヨタは2022~2025年までに、現在ある60車種を30車種まで半減させると明言しています。
また2019年4月1日から東京地区のトヨタディーラーが4系列から1系列に統合されるという新たな動きが出てきています。
しかしトヨタの販売店統合で、バッヂの付け替えのみの兄弟車は減るけど、メーカー間のコラボは増えそうで……。
プラットフォームやエンジンを共有する兄弟車は欧米でも多々見られるが、同一市場に機能や装備、グレード構成まで、バッジを除いてほとんどが一致するほどの兄弟車は日本自動車界に見られる特徴。善し悪しは置いておいて、まさに文化といえる。
そうした日本の文化である兄弟車は今後、どうなっていくのでしょうか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説します。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部
■兄弟車が生まれた背景
左からヴォクシー、エスクァイア、ノアの3兄弟
「姉妹車」とか「兄弟車」と呼ばれるクルマがある。ここでは兄弟車といわせていただくが、実に曖昧な表現。車名は異なるものの、機能がほぼ同じクルマのことをこのように呼ぶ。
例えばアルファード&ヴェルファイア、ヴォクシー/ノア/エスクァイアなどが兄弟車だ。ひとつのメーカーが複数の販売系列を持つために生み出された。
アルファードはトヨペット店、ヴェルファイアはネッツ店が扱う。同様にヴォクシーはネッツ店、ノアはカローラ店、エスクァイアはトヨタ店とトヨペット店という具合だ。
■日産やホンダにも兄弟車は多かった!
1986~1987年にかけて誕生した日産の兄弟車、パルサー、ラングレー、リベルタビラ
以前はトヨタ以外のメーカーにも販売系列があり、日産ではパルサー(チェリー店)/ラングレー(プリンス店)/リベルタ(日産店)、ホンダならアコード(クリオ店)&アスコット(プリモ店)などの兄弟車があった。
兄弟車は販売系列の都合で開発されたから、今でも4系列をそろえるトヨタが圧倒的に多い。
上記のほかにもポルテ(トヨタ店/トヨペット店)&スペイド(カローラ店/ネッツ店)、プレミオ(トヨペット店)&アリオン(トヨタ店)などがある。
兄弟車は基本的に同じクルマで、フロントマスクなどの外観を変えているが、エスクァイアは上級車種を多く扱うトヨタ/トヨペット店の販売車種だから、ヴォクシー&ノアに比べて内外装が上質だ。
価格も少し高いが、ヴォクシー&ノアのようなエアロパーツを備えたスポーティグレードは用意していない。
プレミオは、アリオンが装着しないカラードサイドプロテクションモールなどを備えて、価格も若干高い。その理由を開発者に尋ねると「プレミオはコロナ、アリオンはカリーナの後継車種とされる。
以前のコロナはスポーティなカリーナよりも上級に位置付けられたから、プレミオを販売するトヨペット店は、今でもアリオンに比べて上質なクルマを希望する。そのために内外装と外観を上級化した」とコメントした。
ただし2016年のマイナーチェンジで、現行プレミオとアリオンの共通化が進んだ。以前はフロントマスクやリヤビューの違いが明確で、全長もプレミオが45mm長かったが、改良後は5mmの差に縮まった。
このプレミオ&アリオンの変更は、トヨタと販売会社の関係が変化したことを象徴している。2007年に現行プレミオ&アリオンを発売した時のトヨタは、トヨペット店やトヨタ店を尊重して、両車を明確に異なるクルマに仕上げた。
それが2008年末にリーマンショックが発生して、景気が世界的に悪化した。しかも将来的な環境技術、安全技術、自動運転技術などの開発も行わねばならない。この影響で2010年に発売された現行ヴィッツ、2012年のアクアなどは、コスト低減のために質感を大幅に下げた。
プレミオ&アリオンも、この頃からフルモデルチェンジはもちろん、目立った改良も行われていない。2016年になって、ようやく前述のマイナーチェンジが実施され、緊急自動ブレーキを装着した。
それでも現行型を含めて歩行者を検知できず、安全機能は軽自動車よりも低い。プレミオ&アリオンに対するトヨタの姿勢は、以前に比べて冷やかになった。
セダンが売りにくくなった結果ともいえるが、プレミオ&アリオンやマークXがもっと綿密な改良を行っていれば、セダンの売れ行きはここまで下がらなかったかも知れない。
実際、トヨタの各販売会社は、系列化によって限られた車種を大切に売ってきた。そのために「セダンが売れない」といわれるようになっても、トヨタだけは売れ行きをあまり下げなかった。
車種を限ることでユーザーは手厚いサービスを受けられ、メーカーは粗利が比較的高いセダンの需要も維持できる。ユーザー/販売会社/メーカーの間に、好ましい関係が築かれた。
■プリウス全店併売が流れを変えた
ところがリーマンショックを経て、2009年に先代の3代目プリウスが4系列の全店併売になると(初代はトヨタ店、2代目はトヨタ&トヨペット店だった)流れが変わった。2011年のアクア、2015年のシエンタなど売れ筋車種が軒並み全店併売になり、4系列の区分を急速に形骸化させた。
これに伴ってトヨタ車の販売格差も拡大している。プリウス、アクア、シエンタといった全店併売の車種が売れ行きを伸ばし、マークX、プレミオ、アリオンなどのセダンは登録台数をさらに下げた。
■トヨタは2022~2025年にかけて全車を全店で併売に移行
そしてトヨタは2022~2025年にかけて、全店が全車を併売する体制に移行する。これは系列化の実質的な廃止を意味する。
全店が全車を扱えば、販売系列による店舗の違いも消滅するからだ。トヨタ店には高級セダンのクラウン、ネッツ店にはコンパクトカーのヴィッツという専売車種があるから、店舗の個性化も図れる。全店併売は、系列を維持する上では致命的な痛手だ。
トヨタの場合、メーカーの資本に頼らない地場資本の販売会社が多いから、4系列がそれぞれ異なる資本で構成されている地域もある。
同じ地域に併存するトヨタ店とトヨペット店の資本が異なれば、簡単には統合できないが、取り扱い車種が同じであれば真っ向勝負の販売合戦に発展する。
力の強い販売会社は全車を扱える強みを生かして売れ行きを伸ばし、そうでない販売会社は顧客を減らしてしまう。
長い歳月を費やして築き上げた販売系列を、全店併売によって廃止に向かわせるねらいのひとつは、この淘汰だ。
今のトヨタがパートナーとして求めているのは、クルマを売る販売会社ではなく、いろいろな業態に対応できる強い資本なのだろう。全店併売にすれば、生き残りを賭けた厳しい競争にさらされ、必然的に強い資本だけが残る。
全店併売にする2つ目の目的は、メーカーの都合に基づく車種の削減だ。トヨタは車種数を減らして効率を高めることを考えており、まずは先に述べた兄弟車を廃止したい。そのためには全店併売にすると好都合だ。
そして全店併売にすれば、兄弟車以外の車種を大幅に減らすことも可能になる。仮に4系列あって、各系列が専売車種を2つ持てば、それだけで8車種が必要になる。そこを全店併売にすれば、4車種とか5車種でも構わない。スバルやマツダは、もともとそういう売り方をしてきた。
3つ目の目的は店舗の削減だ。取り扱い車種が系列化されていると、例えばトヨタ店を閉鎖すれば、その地域でクラウンやランドクルーザーを販売できなくなる。しかし全店が全車を扱えば、周囲の店舗で補える。
このようにしてトヨタは車種と店舗数を減らして効率を高め、過当競争を生き抜いてきた強い資本と手を組む。
地域別の営業体制にするのもそのためで、全店が全車を併売した後は次第に4系列もなくなり、トヨタと組む資本は新車の販売会社のほかにもカーシェアリング、新しいリースなどを幅広く手掛ける。
この先にあるのが、移動のすべてをまかなえるモビリティカンパニーだ。少子高齢化も視野に入れて車種を減らし、販売系列も撤廃して店舗数も削減する。
その代わり新しいビジネスも手掛けるから、各地域の資本も従来の販売会社ではなく、時代の変化に柔軟に対応できるモビリティカンパニーでなければダメだ。トヨタは自社がモビリティカンパニーになるだけでなく、地域別の資本にもそれを求めている。この前段階に前述の過当競争がある。
■4月1日からトヨタの東京地区のディーラーは4系列が1系列に統合
4月1日からスタートしたトヨタモビリティ東京のディーラー
ちなみに東京地区の東京トヨタ/東京トヨペット/トヨタ東京カローラ/ネッツトヨタ東京の4系列は、2019年4月1日から「トヨタモビリティ東京株式会社」という新会社になった。
今後半年から1年ほどを費やして、店舗の外装も白と赤を基調にしたデザインに変わり、店舗の違いはなくなる。取り扱い車種も変わり、すでに全店が全車を販売している。
これら東京の4つの販売会社は以前からトヨタの直営だったため、トヨタモビリティ東京に統合するのも容易だった。ほかの地場資本の多い地域は事情が異なるが、東京を前例にすることはできる。
今後、トヨタモビリティ東京の運営で生じた問題点を解決していけば、ほかの地域の統合にも生かせるだろう。要はトヨタ直営の東京地区でテスト的な運営を行うわけだ。
問題はユーザーにとって「そういうトヨタの生み出すクルマ社会が楽しいのか?」ということだろう。最近はカーシェアリングが話題になるが、レンタカーと同様、自分で所有するクルマでないから愛着を持ちにくい。
「愛車」として大切に運転したり、洗車をするのは、愛車が自分のためだけに存在するからだろう。
兄弟車と販売系列は、この延長線上にあった。例えば愛車がプレミオであれば、それを扱うトヨペット店は、日頃から愛車の面倒を見てくれる主治医だ。クルマに関する相談相手でもある。
トヨタという大きな枠組みではなく、トヨペット店に落とし込むことで、親しみやすさも沸いてくる。1950年代から1970年代にかけて、トヨタをはじめとする各メーカーの系列化を築いた先輩達は、そういう暖かいカーライフをサポートしながらクルマを確実に販売できる系列を築いた。
それを「系列がなくなれば、全店で全車を買えるから便利」といった見方をするのは、早計であり浅はかに思える。系列を築いた先輩達にも失礼だ。
■軽やコンパクトカーのOEM車、共同開発による兄弟車は今後も残る
2015年1月にデビューしたアルファード。2017年12月のマイナーチェンジでさらにコワモテになった。2022年のフルモデルチェンジで、ヴェルファイアより売れているアルファードに統合されるのか?
以上のような道筋を考えると、アルファード&ヴェルファイア、ヴォクシー&ノア、プレミオ&アリオンといったトヨタの兄弟車は、2022~2025年の全店併売をめざして、兄弟車は消滅していく。
具体的に言うと、現在アルファードはトヨペット店、ヴェルファイアはネッツ店の専売車種だが、これを2020年1月から、アルファードはトヨペット店とトヨタ店、ヴェルファイアはネッツ店とカローラ店という各2系列で併売され、2020年予定のフルモデルチェンジで、1車種に統合される見込みだ。
一方、ヴォクシー/ノアはフルモデルチェンジする2021年頃に1車種に統合される予定。
しかし軽自動車やコンパクトカーを中心にしたOEM車、あるいは共同開発による兄弟車は今後も残る。低価格で主に日本国内向けとなれば、薄利多売でひとつのメーカーだけでは採算が成り立たないからだ。
例えば先ごろ新型にフルモデルチェンジされた日産デイズ&三菱eKシリーズは、基本部分を共通化する兄弟車だが、2つのメーカーで販売するから売れ行きも伸びる。開発費用なども償却しやすいが、1社だけでは成り立たない。
そのためにさらに薄利多売の軽商用車ではOEMが活発だ。日産と三菱は軽商用車の開発を行わず、スズキのエブリイ&キャリイを仕入れて販売している。
マツダも同様だ。そのために製造メーカーのスズキを含めれば、4社が同じ軽商用車を扱う。
自社で開発や製造を行わないなら、取り扱いをやめる判断もあるが、そうなると車検や点検、保険などの業務まで失ってしまう。
またマツダがスクラムバンの販売をやめてユーザーがスズキエブリイに乗り替えると、そのユーザーが併用していたマツダデミオまで、スズキスイフトに変わる可能性が生じる。
スズキのセールスマンが有能なら、デミオもスイフトに乗り替えさせようと考えるのは当然だろう。販売会社は顧客を囲い込む必要があり、そのためにはOEM車が不可欠だ。
ちなみに4月19日から始めるニューヨークショーで発表されるデミオベースのヤリスは北米専用モデルで日本には販売されない。
4月19日から始まるニューヨークショーで発表されるデミオベースのヤリス(上)。北米市場専用だがぜひ日本でも発売してほしい。マツダ顔が飽きてきた人にはウケるかもしれない……
以上のように兄弟車は、メーカーや販売会社の思惑が錯綜する中で生み出された。同じクルマを違う車名で販売するのは、一見すると商業主義的に見えるが、ユーザーのメリットに結び付くことも多い。
車種構成も販売系列も、シンプルにすれば良いという話ではない。メーカーはお客様が常に販売会社の先にいることを忘れないでもらいたい。
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