ウラカンの最高峰はいまだ「ペルフォルマンテ」というべきなのだろう。最新モデルの「EVO」には、クローズドコースで圧倒的な空力パフォーマンスを発揮するハイテクエアロの数々が、装備されていない。けれど、こと公道にシーンを変えてみるなら、スタイルも走りも実にエレガントで洗練された味わいに満ちている。その進化ぶりは、まさに画期的というべきだろう。(Motor Magazine 2020年1月号より)
常に未来を見据え先端技術を追い続けるランボルギーニ
あれからもう20年以上もの時間が過ぎ去ったのか。ランボルギー二がウラカンのビッグマイナーチェンジ版ともいうべきニューモデルとして発表した、「ウラカンEVO」の姿を眺めながら、改めて時の流れの速さに驚いた。
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それは1998年のことだ。現在の生産台数から考えれば細々と……、と表現してもよいほどの数の12気筒ミッドシップ、ディアブロを1990年から生産し続けていたランボルギーニが、アウディ傘下に再編されるというニュースが飛び込んできた。それまでも頻繁に親会社が変わってきたランボルギーニ。アウディもまた一時の興味から、このスーパースポーツブランドを手中に収めたのでは、とも最初は考えた。
だがそこからアウディとともに見せたランボルギーニの躍進ぶりは、どうだ。躍進の原動力となったのは、2003年に誕生したV型10気筒エンジンをミッドに搭載するガヤルドである。ガヤルドは2003年から2013年まで、シリーズトータルで1万4022台が生産され、後継車のウラカンにその市場を譲った。ところがウラカンは先日、わずか5年でこの台数をクリア。仮にガヤルドと同様に10年ほどのライフスパンが計画されているのならば、最終的な生産台数はガヤルドの倍にも達する計算になる。
高級ブランドたるスーパースポーツには、過去にも未来にも魅力的なストーリーが必要なのだと思う。ランボルギーニというブランドは、かつては過去のストーリーが語られることが多かったが、前CEOのステファン・ヴィンケルマン、そして現在のCEOであるステファノ・ドメニカリの両氏は、未来のストーリーを積極的に語り、そしてそれを確かに実行することで、カスタマーやファンの心を魅了してきた。
たとえばランボルギーニが、すでに世界のリーディングカンパニーであると広く認識されているカーボンファイバー複合素材技術においては、その研究開発はアメリカのヒューストンメソジスト研究所と共同でISS=国際宇宙ステーションを実験室とするに至っている。マサチューセッツ工科大学と共同開発が進められたスーパーキャパシタの技術基盤となる新素材に関する特許も、先日それが申請されたとのリリースが世界に向けて発信されている。
ランボルギーニは常に革新的であり、最先端の技術をロードカーの世界へと惜しむことなく導人していく。2017年に発表されたボディそのものをスーパーキャパシタとするエレクトリックスーパースポーツコンセプトの「テルツォミッレニオ」。あるいは先日のフランクフルトモーターショーで発表された、初の12気筒ハイブリッドカー「シアンFKP37」。
現在と未来を繋ぐモデルの存在やストーリーを改めて思い浮かべながらハンドルを握ったウラカンEVOの走りには、やはり驚くべき進化があった。
エアロマッチョ感は控えめだがトルクベクタリングが効く
まず触れておきたいのは、先に誕生したウラカン ペルフォルマンテとの違い、ということになるだろうか。ALA=エアロダイナミカ ランボルギーニ アッティーバと呼ばれる左右可変式のウイングを採用することで、いわゆるエアロベクタリングを可能にして話題となったモデルだ。
EVOはその機構を持たない代わりに、LDS=ランボルギーニ ダイナミック ステアリング(可変ステアリング)+LRS=ランボルギーニ リアホイールステアリング(後輪操舵)と、トルクベクタリングシステムを新採用。空力効率もマイナーチェンジ前のスタンダードモデル比で6倍に高められるなど、技術面でのトピックスは多い。
5.2Lの排気量を持つV型10気筒エンジンのスペックは、最高出力が640ps、最大トルクは600Nmと、ペルフォルマンテのそれと共通。大排気量の自然吸気エンジンらしく、スムーズかつリニアなトルクの盛り上がりや独特のサウンドは大いに魅力的だ。
組み合わせられるトランスミッションは7速DCT。そのシフトプログラムやサスペンション、そしてトルクベクタリングやESPなどの制御は、ステアリング上のスイッチ、「ANIMA」を使用することで、「ストラーダ」、「スポーツ」、「コルサ」という3モードに変更することができる。やはり忘れてはいけないウラカンの頂要なメカニズムである、電子制御クラッチをセンターデフに用いたAWDの設定も制御することが可能だ。
実際にウラカンEVOのハンドルを握って、もっとも感動的だったのは、そのトラクション性能とスタビリティの高さだった。ビークルダイナミクスの核となるLDVI=ランボルギーニ ディナミカ ヴェイコロ インテグラータにハンドルやアクセルペダル、ブレーキペダルなどの操作から姿勢変化などを予測し、あらかじめ各デバイスの制御を行うフィードフォワード制御を採用実際に走らせてみると、その効果が確実に表れている。
その名のとおりストリート走行用ともいえるストラーダモードでは、ワインディングでも姿勢がオーバーステアに転じるようなシーンは皆無で、かつ乗り心地もスーパースポーツのそれとは思えないほどに快適だ。ここからスポーツ、コルサヘとモードを切り替えていくと、シフトやサスペンション、そしてハンドルのフィールやエキゾーストサウンドはハードに、また勇ましくなってくる。
サーキットなどでもっともダイナミックな走りを楽しみたいのならば、スポーツを選択するのがベスト。コルサはタイムアップのために、常にニュートラルな方向へと車体の姿勢を制御するからだ。
未知の領域にある実力。インターフェイスは現代的
かつて海外で試乗したペルフォルマンテは、ワインディングロードで確かにALAの恩恵を感じさせてくれた。しかし日本の公道では、ALAを採用したウラカンペルフォルマンテと、それを持たないウラカンEVOのエアロダイナミクスの違いなど、ほとんど感じることは不可能だ。当然のことながら高速コーナーであればあるほどに有効なデバイスということになる。逆に考えれば、あらゆる速度域で確実に最適なトルクベタリングが行われるEVOは、シャシ制御そのものに若干のアドバンテージがあるように思う。
精悍な、そして洗練されたエクステリアを得たウラカンEVOだが、インテリアもまた最新のスーパースポーツらしく、機能的で快適な空間へと進化している。センターコンソール上には8.4インチサイズの縦型タッチパネルがわり、ここでLDVIの状態などさまざまなインフォメーションを得ることができる。
EVO世代に進化したこの先には、果たしてどんな未来が待つのか。これからのエボリューションが早くも楽しみになってきた。(文:山崎元裕)
■ランボルギーニ ウラカン EVO 主要諸元
●全長×全幅×全高=4520×1933×1165mm
●ホイールベース=2620mm
●車両重量=1422kg
●エンジン=V10DOHC
●排気量=5204cc
●最高出力=640ps/8000rpm
●最大トルク=600Nm/6500rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=3282万7602円
[ アルバム : ランボルギーニ ウラカン EVO はオリジナルサイトでご覧ください ]
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