時代によってブランドのカラーが転変してきたマセラティ
いつの時代にもマセラティは通好みの存在だ。その歴史は古く、アルフィエーリ(四男)、エットーレ(六男)、エルネスト(七男)というマセラティ3兄弟が、1914年にイタリアのボローニャで創業した。
クルマはトンガってればカッコイイ時代があった! 幻のスーパーカー「マセラティ・ブーメラン」のトンガリっぷりがスゴイ
優秀なエンジニアであり、無類のモータースポーツ好きでもあったマセラティ兄弟は、すぐさま自分たちの名を冠したクルマを造り始め、1926年のタルガ・フローリオ(往時にシチリア島で行われていた公道レース)で「マセラティ・ティーポ26」がクラス優勝。その後、さまざまなレースで常勝を誇り、1939年と翌年のインディアナポリス500マイルレースも制している。
マセラティ兄弟が創業しモータースポーツで名を馳せる
1950年代からはF1グランプリやスポーツカー世界選手権においても幾多の優勝カップを獲得し、マセラティはモータースポーツの世界で一躍尊敬されるブランドとなった。名門の風格はこの時代に養われたといえる。そして、その真価が分かる少数のユーザーのために流麗かつ高性能なクーペ、セダン、コンバーチブルを製造し、ロードカーの世界においても高評価を得た。
とはいえ、それらは社史における初期の話で、長きにわたり同一のキャラクターを守り通してきたフェラーリなどとは異なり、時代に翻弄されたマセラティは目まぐるしく主力モデルの路線を変えることになった。その華やかさの裏で困難な経済状況が続いた、マセラティのヒストリーを紹介しよう。
オルシ家に経営権を譲りF1で活躍
特許を取得した航空機エンジン用の特別なスパークプラグの設計、製造も手がけていたアルフィエーリが1932年に44歳で早世し、兄弟のひとりであった次男ビンドがイソッタ・フラスキーニを退社してマセラティ社に合流した。ちなみに、トライデントのエンブレムは、これまた兄弟のひとりであり、アーティストでもあったマリオ(五男)が作成したものだ。ボローニャのもっとも特徴的なシンボルで、力強さと活力の象徴でもあるマッジョーレ広場のネプチューン像のトライデントがモチーフとなっている。
アルフィエーリを失い、ビンド、エットーレ、エルネストという顔ぶれとなったマセラティ兄弟は、1937年にイタリア人起業家であるアドルフォ・オルシにマセラティ社の経営を委ねる。経営権を譲渡した際の契約条件から、マセラティ兄弟はスパークプラグの生産のためのファブリカ・カンデーレ社と、マセラティおよびレースカー生産のためのオフィチーネ・アルフィエーリ・マセラティの経営を担うことになった。
コンサルタントとして10年間会社に在籍するという契約を終えた3兄弟が1947年に退職し、その後、マセラティはF1グランプリやスポーツカー世界選手権において活躍したが、1957年を最後にワークスとしてのモータースポーツ活動を休止した。
シトロエン、デ・トマソと経営が変わりながらも数々の名車を輩出
ロードカーを積極的に開発するようになったマセラティは、高級スポーツカーの3500GTを1958年にリリースし、1963年のトリノ・モーターショーにおいて初代クアトロポルテをデビューさせた。このクアトロポルテはラグジュアリースポーツセダンという新しいカテゴリーを市場にもたらすことになり、その系譜は現在まで脈々と続いている。
60年代にクアトロポルテのほか、ミストラル、ギブリ、メキシコ、インディなどをリリースしたマセラティは、シトロエンの傘下に入った1968年以降、スーパーカーも生産するようになる。1971年にボーラ、その翌年にメラクやカムシンを発表した。ジョルジェット・ジウジアーロがデザインしたコンセプトカーのブーメランやメディチも有名だ。
1975年にシトロエンと決別し、デ・トマソの傘下に入ってからは、ロンシャンをベースとしたキャラミを1976年にリリースし、1981年から発売したビトゥルボがヒット作となったことで、日本でもクルマ好きの間で馴染み深い存在となった。カリフ、228、2代目ギブリ、シャマルといったクルマたちがビトゥルボ系だったので、いかに数多くのファンを獲得したのかを窺い知れるだろう。
いまは「ステランティス」内で高級スポーツカーを受け持つ
その後、1993年にフィアット傘下となり、1997年にフェラーリの子会社となってからはふたたび骨のあるGTカーをラインアップするブランドとしての地位を取り戻すことになった。だが、2005年にフェラーリと離れてからは、スポーティなラグジュアリーブランドを目指すようになった。
現在の新車ラインアップは、グランドツアラーのギブリ(3代目)、パフォーマンス・ラグジュアリーサルーンのクアトロポルテ(6代目)、ハイパワーSUVのレヴァンテ、新型コンパクトSUVのグレカーレ、スーパースポーツカーのMC20、快速スパイダーのMC20チェロという6モデルとなっている。
スーパーカーを手がけてからのマセラティが、過度にインテリアを豪華にした高性能パーソナルカーばかりを生産するメイクスへとその姿を変えたこともあり、レーシングフィールドでの実績や高性能GTカーブランドとして名を馳せたことなどを想起させない時期が存在したのは事実。しかし、フェラーリのコントロール下に置かれてからのマセラティはふたたびかつての威光を取り戻し、見事にセンスのいい人々にチョイスされる誇り高きクルマへと変貌を遂げたのであった。
アモーレ(愛)、カンターレ(歌)、マンジャーレ(食)に彩られた甘く楽しい生活=ドルチェ・ヴィータを愉しみたければ、イタリア車らしさが満載状態となっているマセラティをチョイスするといいだろう。なお本稿で言及した歴代マセラティ車はすべて画像ギャラリーに収録してあるので、ゆっくりご覧いただきたい。
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