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伯爵が愛したトポリーノ フィアット500 ブルー/ブラックのレーシングカラー 前編

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伯爵が愛したトポリーノ フィアット500 ブルー/ブラックのレーシングカラー 前編

トポリーノを3台所有したハウ伯爵

英国貴族、第5代ハウ伯爵の肩書を持つフランシス・カーゾン氏は、貴族院の国会議員を務めたが、第二次大戦時は海軍指揮官として自ら戦闘にも加わった。さらに、レーシングドライバーとしても小さくない活躍を残した。

【画像】伯爵が愛した フィアット500 トポリーノ ヌオーバとアバルト、ジャンニーニ 600も 全132枚

1884年生まれの彼にとって、3台目となったフィアット500「トポリーノ」は、1955年にロンドンの豪奢な自宅へ届けられた。10月に新車登録されているが、結果として右ハンドル車として作られた最後の車両となったようだ。

当時の英国価格は575ポンド。より安価な量産車がグレートブリテン島には存在し、イタリアからの輸入車は販売数を伸ばしにくい状況だった。生産開始は1936年で、既に20年近くが経過していたことも影響していたはず。

ハウ伯爵のような人物が、小さなフィアットを3台も購入したという事実は興味深い。モータースポーツへ積極的に参加するようになったのは、40歳を過ぎてから。ル・マン24時間レースにはドライバーとして6度も参戦し、1931年に総合優勝を掴んでいる。

ブルックランズやドニントンパークといった英国のサーキットで開かれたイベントを、アルファ・ロメオやブガッティで競った。愛国者だっただけに、1920年代に充分なワークス体制が整えられていたら、ベントレーを駆っていたかもしれない。

英国モータースポーツの中心的な人物

生まれながら貴族階級にあったハウ伯爵だったが、楽観的な遊び人ではなかった。国を牽引する立場として、社会的な義務感や奉仕的な精神を備えていた。自らの影響力を活かし、市民に対する自動車の普及を推進した。

貴族院では、1935年から実験的に導入された市街地の速度制限へ異議を唱えた。時速30マイル(約48km/h)にするという、今としては真っ当な内容だったが、当時の価値観は現在と異なっていた。

第二次大戦後は、すべての車両へ道路税を導入する政策に対し、小型車のドライバーを保護するよう求めた。小排気量のクルマに乗る一般市民へ、不当な負担を課すことになると訴えた。

さらに、ブリティッシュ・レーシング・ドライバーズ・クラブ(BRDC)を賛同者とともに設立。1945年以降、英国におけるモータースポーツの中心的な人物にもなった。

終戦で使われなくなった飛行場を、サーキットへ転用するというアイデアも広めた。彼の発言力がなければ、1948年の英国グランプリは開かれなかったかもしれない。英国空軍のシルバーストン空港を借り、サーキットへ仕立てて開催されたのだ。

複数の名車を所有し、実際に運転もした。彼のコレクションで最も有名な1台といえるのが、2007年に発見されたブガッティ・タイプ57S アタランテだろう。

ほかにアストン マーティンDB2/4や、ACアシーカ、メルセデス・ベンツ300SLなども維持していた。これらはグランドツアラーとして、長距離の自動車旅行に乗られていた。

ミニチュアサイズの大きなクルマ

ロンドン中心部、カーゾン・ストリートに住んでいたハウ伯爵は、短距離の移動には小さなクルマを好んだ。オースチン・セブンやMGなどが普段の足になっていた。渋滞でも大きなスポーツカーより速く移動できると、主張したという。

彼がフィアット500 トポリーノへ乗り始めた時期はわかっていない。だが、第二次大戦が始まる前には、最高水準の小型乗用車だと認識していたようだ。オースチン・セブンに並ぶ、普通車の設計のマイルストーンだと考えていただろう。

1940年にイタリアが大戦へ加わるまでに、フィアットの工場から8万3000台のトポリーノがラインオフしていた。フランスのシムカと、ドイツのNSUがライセンス生産した車両を除いて。

英国では、毎週60台というペースでトポリーノが売れた。走りの良さから、レーシングドライバーのチャールズ・ブラッケンベリー氏やロブ・ウォーカー氏もステアリングホイールを握った。1938年には、ブルックランズでワンメイクレースも開かれたとか。

設計を手掛けたのは、フィアットに在籍していたアントニオ・フェシア氏。先進的な油圧ブレーキと、電圧12Vの電気系統、3速と4速に変速時のギアの回転数を調整するシンクロを備えた4速MT、独立懸架式のフロント・サスペンションなどを採用していた。

優れた技術から、ミニチュアサイズの大きなクルマとして、国内外から多くの称賛を集めた。実際、その頃は格上のモデルでも、これらの装備をすべて搭載する例は限られた。しかも、現地ではお手頃でもあった。

ブルーとブラックのツートーンがお決まり

車内空間を確保するべく、低いボンネットの前方へ搭載されたエンジンは、水冷サイドバルブの569cc直列4気筒。ラジエーターの位置が工夫され、巧みなパッケージングが実現されていた。

全長は3181mmで、全幅は1276mmしかない。それでも、身長180cmの大人が2人乗れる車内空間が存在した。トランクリッドはないが、シートの後方には充分な荷室も設けられていた。

当初の最高出力は13psで、最高速度は80km/h。燃費は17.7km/Lと優秀で、車重を減らすため、シャシーには軽量化のための穴が開けられていた。

ハウ伯爵が所有した3台のトポリーノはすべて、ソフトトップを後方に折りたためるロールバック式のコンバーチブル。そのうちの1台は、英国仕様に限定された4シーターだったようだ。

ボディーカラーは、落ち着いたブルーとブラックのツートーン。彼のお決まりのレーシングカラーになっていた。

2台はロンドンでの足として、国会へ出席するための移動手段になった。もう1台はロンドンの北、バッキンガムシャー州に構えた別荘付近で乗られていた。1964年に80歳でこの世を去るまで、いずれも大切に維持されたという。

ハウ伯爵の死後、3台はロンドンで暮らすダグラス・リデル氏へ売却。1969年にはジョン・ヘンリー・クラーク氏が購入し、その後はジョン・ローン氏がオーナーになった。1977年までは、走れる状態にあったようだ。

この続きは後編にて。

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