「10年ひと昔」とはよく言うが、およそ10年前の国産車は環境や安全を重視する傾向が強まっていた。そんな時代のニューモデル試乗記を当時の記事と写真で紹介していこう。今回は「ホンダ S2000」だ。
ホンダ S2000(2009年)
FFスポーツのイメージが強いホンダにあって、S2000とNSXはホンダがあらゆるクルマ作りとセパレートさせて開発した生粋のスポーツカーだ。残念ながら今年(編集部註:2009年)6月で生産を中止するというS2000を、最後に思う存分味わってみよう。ホンダのスポーツスピリットが再燃する時まで忘れないように。
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エンジンフードを開けると、横置きエンジンが当たり前のホンダ車らしくなく、縦置きの2.2L直4エンジンが鎮座する。その搭載位置は前後重量バランス50:50を考慮して、1番シリンダーがちょうどフロントアクスル上に位置するくらい、可能な限り後退している。
2座席のスポーツカーだから、コクピットはタイト。FF車のようにスペースユーティリティに配慮などしていない。すべては走りのために、贅沢にスペースを使うことができる。
フードをオープンにして、箱根から西伊豆の海風を身体に染み込ませて走ると、もうそれは爽快なことこのうえない! 風を知る2輪メーカーだからこそ、適度な巻き込みが心地良い。峠道に入りステアリングを切り始めると、ダイレクトに路面の感覚を伝えてくる。ノーズが俊敏に向きを変え、サスペンションがタイヤへの荷重を変化させながら、しっかりとした減衰の張りによって路面を掴みながらロールしていく。
硬さのレベルからいえば、乗り心地はハードな部類だろう。しかし、ただ硬いだけではなく路面への追従性がきちんと研究されていて、ギャップをなぞるように動いてくれるし、ロール速度も適切。とくに高速コーナーでのしっかりとした踏ん張り感覚は、安心感とともにアグレッシブな気持ちにさせてくれる。
以前のS2000を思い起こせば、前期型の中でもとくに2003年のマイチェン前のモデルは気難しさもあった。パワーソースには超高回転型の2L「F20C」が与えられ、レブリミット9000rpmギリギリまで回すことを要求してくる。トランスミッション直付けタイプのシフトユニットは、剛性感あるギアチェンジで操ることができた。けれども、速く走らせようとすればするほど、その挙動を制することは難しかった。
その後、2005年から現行の2.2Lエンジンが搭載されたが、後期型はレブリミットを1000rpm引き下げトルクを増強するなど、どちらかというと間口を広げる進化を遂げた。さらに2007年には空力とサスペンションを洗練させて、より扱いやすくしたタイプSを追加。スポーツカーファンのニッチマーケットに訴える手法を忘れていないところがホンダらしい。
スポーツカーにはドライバーを寄せ付けないようなカリスマ性を持ち、運転する者を試すかのようなハンドリングを持つモデルと、誰もが気軽にスポーツドライブを楽しめるモデルの2つのタイプがあると思う。しかし、S2000はこのどちらにも当てはまらない。後者寄りではあるが、前者のようにある程度のスキルを持つドライバーにも喜びを与えるようなハンドリング特性を持ち合わせている。
タイプSで走るS2000のラストインプレッション。快晴の駿河湾に浮かんだ富士山の力強さとともに、その爽快感を忘れることはないだろう。
■ホンダ S2000 タイプS 主要諸元
●全長×全幅×全高:4135×1750×1285mm
●ホイールベース:2400mm
●車両重量:1260kg
●エンジン種類:直4 DOHC
●排気量:2156cc
●最高出力:178kW<242ps>/7800rpm
●最大トルク:221Nm<22.5kgm>/6500-7500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●タイヤ:前215/45R17、後245/40R17
●当時の車両価格<税込み>:399万円
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