日産「マーチ スーパーターボ」
日本列島がバブル経済に湧き立っていたころ、おのずと自動車業界も空前の好景気に踊っていました。自動車メーカーは、旺盛な好爆力に応えるために、次々と魅力的なモデルを開発しました。するとどのモデルも爆発的に売れたのです。
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たとえば、今回取材した日産「マーチ スーパーターボ」は1989年式ですから、華やかなバブル経済の最中にデビューしました。こんな超個性的であり、常識的な発想では生まれえなかったであろう特異なモデルですが、バブル期の中ではそれでもバカ売れしたのです。
当時の日本は、「ホットハッチ」と呼ばれるコンパクトスポーツカーも人気でした。5ナンバー枠の小柄なボディに、小排気量ながら強烈なハイパワーエンジンを搭載し、激辛な走り味を披露するこんなモデルをホットハッチとして若者が崇め奉ったのです。
マーチ スーパーターボのベースはK10型のファミリーカーです。全長は3735mm、全幅は1590mm、全高は1395mmです。現在のモデルと比較するならば、ノートよりもはるかに小さく、軽カーよりもわずかに大きいに過ぎないサイズです。そんなコンパクトボディに日産は、驚くほど強烈なエンジンを押し込んでしまいます。
排気量は930ccですが、ターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせていました。スーパーターボとは、そこからのネーミングなのです。
最高出力は110ps、最大トルクは13.3kgmです。当時の技術では、排気量1リッターで100psを絞り出すのは困難とされていました。とても高性能な一部のパワーユニットだけに許された称号です。それをスーパーターボは軽々と達成したのです。
ちなみに、ベース車の排気量は987ccでした。それを930ccまで下げたのは、モータスポーツに積極的に参戦していたからです。
当時のFIA車両規則では、ターボチャージャー付きには係数1.7が課せられていました。すると987cc×1.7=1677ccになり、排気量1.6リッター未満のクラスに参戦できません。そのために排気量を930ccまで下げることで、930cc×1.7=1581ccとしたのです。モータースポーツで勝利するために、日産はそこまでこだわったのです。
という意味でマーチスーパーターボは、モータースポーツの世界から舞い降りたスペシャルマシンと呼ぶことができますね。
さらにいうならば。スーパーチャージャーで低回転域のトルクとレスポンスを稼ぎ、高回転域はターボチャージャーで補うというスーパーターボの考え方も、ドライバビリティを考慮してのことです。
当時のターボチャージャーは、低回転のトルクとレスホンスに難を抱えていました。一方スーパーチャージャーは、低回転のトルクとレスポンスには優れていましたが、高回転機のパンチに欠けていました。つまり、ターボチャージャーとスーパーチャージャーの欠点を補い合うためにスーパーターボとしたのです。
ボンネットの大きな力コブやインタークーラー冷却用のダクトなどは、その強靭なパワーの証ですし、オリジナルの状態ですでに大きなフォグランプが組み込まれています。ラリーフィールドでの活躍を期待していたからです。
さすがにここまで過激なパワーを押し込むと、コントロール性は激辛になりました。駆動方式はFFです。パワーオンでは強烈なトルクステアが発生します。強烈なアンダーステアにも陥りました。スーパーチャージャーとターボチャージャーを合体させたことで、エンジンルーム内にパワーステアリングを組み込む場所がなく、ノーパワステだったのです。
ドライバーは強烈なキックバックに耐え、激烈なアンダーステアを抑え込み、湧き上がるようなパワーをねじ伏せたのです。それはドライビングというよりも、格闘と表現したほうが相応わしいものでした。
ただし、それでもマシンを捻じ伏せることがドライビングの楽しみでもあり、それかホットハッチとして崇め奉られる理由になったのです。
超激辛ラーメンやカレーをヒーヒー言いながら完食するような、真夏の炎天下にフィールドスポーツをするような、ややマゾステックな感覚を満たしてくれたのです。
こんな激辛ホットハッチは、今後デビューすることはないのだと想像します。現代に残されたバブルの遺産、ホットハッチを味合う最後のチャンスかもしれませんね。
◾️日産「March Super Turbo」<エンジン>形式:MA09ERT種類:水冷直列4気筒SOHCスーパーターボ使用燃料:無鉛レギュラーガソリン総排気量(cc):930圧縮比:7.7最高出力(ps/r.p.m):110 (81kW)/6400最大トルク(kg-m/r.p.m):13.3 (130.4N・m)/4800燃料供給装置:ニッサンECCS燃料タンク容量(リットル):40<寸法・定員>全長(mm):3735全幅(mm):1590全高(mm):1395ホイールベース(mm):2300車両重量(kg):770乗車定員(名):5
※ ※ ※
カワサキは1989年に同社の750ccバイクである「GPX750R」をベースとした初のフルカウル大型レーサーレプリカ「ZXR750」を一般行動向けバイクとして発売します。
前方のアッパーカウルからは、ZXRシリーズの特徴でもあるホースでフレッシュエアーを直接ヘッドに送り込むK-CASを採用。また、アルミE-BOXフレームなどを採用し、レースで活躍できるマシンに仕上げられていました。
そして1993年には、ZXR750がベースのZXR-7が念願の鈴鹿8耐のタイトルを獲得します。
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