国産最強2.0L頂上バトル
最強のスバルWRX STIタイプSとニュル最速のシビックタイプRを徹底比較
「EJ20よ、お前は最高のエンジンだった!」WRX STIとシビックタイプRを徹底比較!
WRX STIが「AWD」に対してシビックタイプRは「FF」という違いはあれど、オーバー300psの2.0Lエンジン&マニュアルトランスミッションを搭載した2台。レカロシートを身に委ね、小気味よいマニュアルミッションを操作しみながら、アクセル全開の両車は怒涛の加速Gと切れ味鋭いドライブフィールを創出する。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の岡本幸一郞がこの2台を鋭くチェック!
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2.0L縦置きAWD 対 2.0L横置きFF!
同程度のサイズと価格で、パワフルな2.0L 4気筒ターボエンジンを搭載したAWD車として、WRXにとって直接のライバルがランサー・エボリューションだったのは言うまでもないが、残念ながら戦線離脱してしまったため直接的なライバルが不在となって久しい。そんな中、AWDではないものの、キャラクター的に相通じる気になるクルマが現れた。ホンダ・シビックタイプRではないだろうか。
もともとはあまり接点がない印象だったシビックタイプRだが、最新モデルは5世代目となる。初代の誕生は97年。当時、大人気を誇ったインテグラタイプRの弟分として6代目のEK型シビックに設定されたのが事の始まりだ。
続く2世代目のEP型タイプRは、日本での販売が危ぶまれたものの英国で生産された車両が輸入され、次の3代目FD型では逆に日本専用車両が用意されたが、やがてシビックそのものが日本での販売終了を迎えた。その後、英国生産のシビックタイプRユーロというモデルを限定販売された4代目タイプRが、モデルライフ終盤に500台限定で再び英国生産車両が日本に導入されるといった具合に、ずいぶんと数奇な運命を辿ってきた経緯がある。
そして2017年、セダン/ハッチバックを含めたシビック全体が日本市場に復活する運びとなり、タイプRについても限定ではなく通年モデルとしてハッチバックともども英国生産車両が輸入されることになり現在に至る。世界的に好評で、初期段階では納車に約8カ月を要していたほどだ。
一方のWRX STIは、現行のVAB型が登場したのは2014年。これまで何度か改良を実施してきているが、2019年末での生産終了をスバルがついに発表。まもなく伝説の幕が閉じるわけだ。今回試乗したWRX STIタイプSは、2017年5月のビッグマイナーチェンジを受けたモデル。エクステリアはもちろん、足まわりやブレーキ、駆動系などにも手が加えられた熟成スペックだ。
どちらもタダモノではない雰囲気を漂わせている姿は見ての通り。とりわけシビック・タイプRは、かなり目立つ。コクピットも鮮烈な赤を各部に配してスポーティなムードを引き立てているのは共通している。なお、シビックタイプRの乗車定員は4人となる。
WRX STIの室内空間はどちらかというとシックな印象で、マルチインフォメーションディスプレイ付ルミネセントメーターやマルチファンクションディスプレイなどを装備。レカロ本革シートに赤いシートベルトがスポーティな気分を高める。
心臓部に同じく300psオーバーの2.0Lターボエンジンを搭載するが、縦置きした水平対向エンジンをもとに左右対称にパワートレインをレイアウトし、特徴的なDCCDを介して4輪を駆動するWRX STIに対し、シビックタイプRは直列4気筒エンジンを横置きして前輪を駆動しており、基本的な部分がだいぶ異なる。
正確なパワーは、EJ20が最高出力308ps/6400rpm&最大トルク43.0kgm/4400rpm、K20Cが最高出力320ps/6500rpm&最大トルク40.8kgm/2500~4500rpmだ。
両車の車両重量は、車検証によると1510kg対1390kgと120kgの差があり、前後軸重はWRX STIが前900kg、後610kg、シビック・タイプRが前860kg、後530kgと、やはりちょうどAWD機構がないぶんシビックタイプRが軽い計算になる。
ところで、ホンダといえばSH-AWDが思い浮かぶが、かつてインプレッサWRX STI対ランサーエボリューションのバトルが全盛期を迎えていた当時、ホンダもタイプRで名乗りを上げればよいのにと思ったことを思い出すが、ホンダとしては、このクラスは軽さが大事と考えている旨を開発関係者より聞いた。
スペックは最高出力ではシビックタイプRが、最大トルクではWRX STIが上回っているが、ドライブすると逆の印象を受ける。シビックタイプRのK20Cは、過給圧を緻密にコントロールできる電動アクチュエーターを採用したターボチャージャーにより極めてレスポンシブであることにまず驚かされる。さらには、どの回転域でもついてくる全域がパワーバンドのような性格に仕上がっていて、特に低中速トルクが力強く盛り上がる感覚は、なかなかインパクトがある。また自動的にブリッピングしてエンジン回転数を合わせる機構も付く。
一方のWRX STIのEJ20ユニットは、低回転域で物足りない感があるのは否めないものの、上まで回して本領を発揮させた時の痛快な吹け上がりは、これまたインパクト満点だ。
無論、シビックタイプRのK20Cもレッドゾーンのはじまる7000rpmまでよどみなく回るのだが、EJ20はさらに1000rpm高い8000rpmまで、回すほどに勢いが増していくように感じるほどよく回る。いまどきこれほど高回転型を極めたエンジンは、他に心当たりがない。今やスバルの中でも搭載しているのはこのクルマのみとなってしまったが、EJ20が“名機”として名高い理由が伺いしれる。いずれも、それぞれに印象深いエンジンフィールを味わせてくれる。
フットワークの味付けも両車では用いられた技術やアプローチの違いが垣間見える。とりわけシビックタイプRは注目すべき新しいことを色々やっていて興味深い。先代モデルで採用して効果的だったフロントのキングピン独立式のストラットを受け継ぐほか、この類いのクルマとしては珍しく減衰力可変機構の付くダンパーを採用したのも特徴のひとつなのである。
なお、WRX STIタイプSに標準装備される19インチアルミホイールはダークガンメタリック塗装に塗られ精悍なイメージを演出。ちなみにタイヤサイズは245/35R19を装備する。シビックタイプRは、軽量・高剛性20インチアルミホイール+245/30AR20タイヤを完備。さらにブレンボ社製フロント大径ベンチレーテッドディスクブレーキにアルミ対向4ポッドキャリパーを武装し最高の脚に仕上げている。
シビックタイプRは、近年ルノー・メガーヌRSとともに独ニュルブルクリンクにおけるFFの市販車として世界最速の座をかけて競っていることがしばしば話題となるが、ニュルのように荒れた路面で接地性を確保するためには欠かせないとの判断から採用に踏み切ったのだ。
さらに、ホンダの開発関係者が「現行の日本車でこれ以上はない」と胸を張るエアロダイナミクスについても相当に凝ったことをやっている。WRX STIを凌ぐ大きなリアウイングをはじめ、整流効果を高めるボルテックスジェネレーターがいたるところに配されているが、この独特のデザインのひとつひとつにも理由があるわけだ。
これらにより、路面に吸いつくかのような接地性を実現していることを乗ると体感する。フロントだけでなくリアも、まるでAWDのように粘ることにも驚く。かつてはFFで200ps以上は無意味といわれたものだが、このクルマに乗ると、その定説は全く過去のものであることがよく分かる。
ただし、雨足の強い中で乗り比べると空力効果の期待できない低速のタイトコーナーでは、ニュートラルステアを維持できない状況も見受けられたシビックタイプRに対し、WRX STIは終始安定していることも改めて確認できた。やはりスバルがシンメトリカルAWDに拘るのは、まさしく条件を問わず高い性能を発揮するために違いないが、前輪駆動ながら極めて高い性能を実現したシビックタイプRには見習うべき点が多々あったことは認めねばなるまい。
問い合わせ:スバル お客様センター TEL:0120-052215/ホンダお客様相談センター TEL:0120-112010
●REPORT:岡本幸一郞/PHOTO:松村岩男
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