オフロードを楽しむためのクルマ
わたしは今、新型スズキ・ジムニーに乗っている。これはわたしのお気に入りだが、みなさんもそうだと思うので今回取り上げてみた。非常に楽しい小さなオフローダーだ。今回はその先祖にもご登場願った。同じ苗字を持つスズキSJだ。
ジムニーの過去と未来を見るのにぴったりだろう。ホンダのインテグラ・タイプRとシビック・タイプRの企画と同様だ。もしまだご覧になっていなければチャンネル内で探してみてほしい。
ジムニーの良い点のひとつは小型車のルーツを守っていることだ。コンパクトなオフローダーで、日本の軽自動車の厳しいサイズ規制に合わせている。欧州仕様は違うが、日本仕様はホイールアーチのエクステンションがなく軽規格に適合する。これにより一部の都市でもクルマを保有しやすいのだ。
新型ジムニーは最高のロードカーではないというひともいる。素晴らしいオフローダーだが、独立したシャシーと車軸懸架のリアサス、それに小さなエンジンとたった5速のギアボックスではたしかに公道では世界最高のオフローダーではないだろう。しかしその評価は厳しすぎるのではないだろうか。
今64km/hで走っているが、確かにギア比はショートだ。この速度でもすでに2000rpmなので97km/hでは3000rpm、113km/hでは3500rpmといったところだ。したがって巡航時にはやかましくなるだろう。
ステアリングは少々あいまいで、乗り心地は少しごつごつしている。硬すぎはしないが、落ち着きがない。車軸懸架によりバネ下が重く、ボディが軽いため影響されやすいのだろう。理由はいろいろあるが、空気の多いタイヤと柔軟なサスペンションにより不快な突き上げではない。
スポーティな走りをするクルマではなく、ホイールの心配などをする必要もない。これを踏まえると、世界最低の洗練度というわけではないだろう。たしかにノイズは大きく疲れる。高速道路でも113km/hではなく97km/hで走りたくなる。多少は楽だからだ。
もし高速道路を年間3万km以上も走るなら、このクルマは選ばない。目的が違うのだからそれで良いのだ。こんな風に田舎道を流すのが似合っている。しかしオフロードではこのクラスで右に出るものはいない。
小型軽量なボディゆえの高い走破性
さてここはパブリック・バイウェイ。海外からご覧の方のために説明すると、グリーン・レーンやBOAT(全交通開放間道)とも呼ばれる道だ。リストリクテッド・バイウェイというのもあり、これは自動車の通行はできない。これがパブリック・バイウェイとの違いだ。もしオフローダーをお持ちならぜひ試すべきだ。
そのクルマの本来の能力を試すこともできる上、こんな道を使ってあげないと4×4を嫌うひとびとが道を潰してしまうだろう。これは昔からあるれっきとしたクルマのための道であり、ちゃんと使ってあげるべきだろう。
さっきまで舗装路を走っていたので今は2Hモードだが、4WDの4Hモードや、険しい路面では4Lも試してみる。走っているうちによりぬかるんだ所に出るだろう。とりあえず4WDモードにする。走行中でも切り替え可能だ。ダンピングは柔らかくオフロード向きだ。分厚いサイドウォールのおかげもあるだろう。
そこそこの速度でオフロード走行をしているが、多少揺さぶられる程度だ。最低地上高は非常に良好だ。非常に短いオーバーハングのおかげでアプローチアングルやディパーチャーアングルは大きい。そしてジムニーは1200kg程度の非常に軽いクルマだ。
SJや先代ジムニーがオフロードで今だに活躍する理由も同じだ。軽さのおかげで障害物を乗り越えられ、高回転型の4気筒NAをそれほど回さなくてもこの100psのパワーと小さなトルクで特に問題はない。車重が軽いから十分に楽しめる。
オフロード走行も慎重かつ責任を持って行えばクルマに大きなダメージは与えない。ひとに迷惑をかけることもないはずだ。サーキットに行かなくても運転を楽しみながらクルマの限界を試せる。国内を見てまわる良い機会だろう。
いったんこの新型車から乗り換えよう。1日中このグリーンレーンを走り続けられるが、旧型にも乗ってみよう。わたしはこの新型ジムニーと非常に長い時間を過ごしている。今のお気に入りの1台だ。この2台にも家族らしい類似点が見られるだろう。
旧型からコンセプトは変わらず
これは欧州ではSJと呼ばれる2代目ジムニーだ。このクルマはスペインでサンタナが製造した。この血統は見た目以外にも引き継がれているのだろうか。1972年、スズキは軽量コンパクトな軽規格のオフローダーを欲していた。LJ(ライトウエイト・ジープ)10がその答えだ。
2気筒の2ストロークエンジンを搭載し、最高速度は80km/hも出ないが、それは問題ではない。テストにおいてスズキは競合をビーチに集め、砂に埋もれる様を横目にケータハム7と同等の車重のLJ10は走り続けた。
そして3代目は軽いフェイスリフトを受けながら20年にわたり販売された。1998年の登場だが、それほど古さを感じない。当初は評価も芳しくなく、悪く書かれることもあった。当時の普通車と比べて不自然に車高が高く見えたのだ。しかし20年経つ頃には世間はSUVで溢れジムニーのような乗り味は普通になった。
とは言えそのオフロード性能は健在だ。このチャンネル内でも泥の中で活躍する姿をご覧いただける。しかし今回はSJ410に乗っている。これは初代ジムニーではない。初代は日本国外ではそれほどの知名度がなく、当時はこのクルマをスズキ・ジープと呼んでいたが、ジープはもちろん他社の商標だ。
しかし1980年代に英国で人気となり、世界中で生産されはじめた。これはスペインのサンタナ製だ。SJと名付けられているが、ジムニーの一種だ。英国ではジムニーという名称は1980年代後半から使われている。
この個体はわれわれのカメラマンが所有するものだが、長い間私有地のオフロードで使われており、車検を取得したのは最近のことだ。敷地外に乗り出さないよう小さく注意書きがされている。およそ12万kmの走行距離の大半がオフロードなのだとしたら、32km/h以上でステアリングが壊滅的な曖昧さを見せる理由だろう。
しかも32km/h以上でその速度を知るのは困難だ。スピードメーターは48km/hから72km/hの間を指している。両者の間を頻繁に行き来するのだ。もちろん進路を変えようと思えばちゃんと曲がってくれる。このクルマの行く先を邪魔するものはない。
1Lまたは1.3Lのエンジンが用意される。これは1Lモデルで、たったの45ps程度しかない。しかし車重はわずか900kgだ。パワーは45ps程度でトルクはおよそ7.6kg-mだ。しかし走行に支障はなく、ギアボックスも素晴らしい。初期モデルは4速だったが、この1989年型は5速だ。非常に良く入るギアでエンジンも甘美だ。キャブレター式だが良くできている。
オフロードでの走りを第一に設計
ジムニーらしい乗り味は変わっておらず、最新型のジムニーにも引き継がれているが、確かに古さを感じる。構造的には大きな違いはなく、短く軽いクルマでシャシーとボディは独立している。ジムニーは長距離向きではなく公道では頼りないというひともいる。SJに乗ってみれば新型がいかに進んでいるかわかるだろう。
しかしこのクルマはまず第一にオフローダーであり、公道での走りは二の次だ。英国のユーザーの多くは適切な使い方をしていない。1980年代にはコーナリング中の横転事故が発生した。不思議なことではない。これはスズキが送り出した都市部で使われるようになった初めての小型オフローダーであり、普通車のようにハードなコーナリングをすれば横転することもあるだろう。これはオフローダーなのだ。
さて、ステアリングが合わない道を離れ、走りを試そう。しなやかさが少しだけこのSJは最新のジムニーに劣ると思う。今は2Hモードだが、後ほど4Hを試し、もし必要なら4Lにも入れてみる。この1L自然吸気エンジンは溢れるトルクとはいかないが、こんな傾斜したオフロードでも手を離してアイドルで進める。少し速めだがしっかりと進む。
このクルマの良さは非常に小さいことだ。しかし車内は十分に広い。クルマをぶつけることもなさそうだ。素晴らしいクルマだ。視界は良好で四隅が完全に見えるばかりか、手が届きそうだ。
ガタガタとガイコツが箱の中で暴れているような音がする。わだちの中を狙い通りに進め、楽しい。現行ジムニーと比べるとどうだろうか。もちろん2世代も前のクルマだが、今のジムニーを定義づける主なキャラクターである小さく軽いボディに良く回るエンジンと優れたギアシフトなどはすべて揃っている。
毎日使える繊細なクルマではないが、それは今も昔も変わらない。しかし休日用のクルマとして所有し、晴れた日に屋根を開けてグリーンレーンをドライブしてどこかで昼食をとり、また走って帰る。そんな所有スタイルで走りを楽しむクルマだ。バスや電車では得られないクルマがもたらす自由さと素晴らしさを味わえる。
素晴らしいクルマだが、欠点も多い。洗練されておらず、公道での性能も低く、緻密さにも欠けている。しかし非常に楽しく実力もあり、とにかく終始魅力的なのだ。どの時代のジムニーも自動車史における愛すべき一台だと言わざるを得ない。
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