ワゴンブーム前のエステート&バンを紹介
これは実話だが、幼少の頃からクルマ好きだった息子を育ててくれたくらいだから、筆者の母親は、まんざらクルマのことを知らない人ではなかった。そんな母親だったが、ある日、自宅に持ち帰った広報車のメルセデス・ベンツ(S124)を見て「ベンツなのにバンなんて勿体ないねえ」と言ったのだった。確かに形の上でバンとワゴンの区別はつきにくい……というか、詳しくなければ同じに見えるだろう。昔はさまざまなカタチ(車種)のバンが街中を走っていたから、なおさらT124もその中の1台に思えたのかもしれない。
「コロナバン」「カリーナバン」「クラウンバン」! どうしてそんなにバンだらけ? 懐かしすぎるトヨタの「商用バン」
少し前に日本車のバンの記事を何度かお届けしたが、今回は少し視野を広げて、日本でワゴンブームが起こった時期よりも前の年代のエステート(ワゴン)をメインに取り上げてみたい。
トヨタ・クラウン
まずはクラウンとセドリック(&グロリア)。どちらもかつての日本の乗用車のフラッグシップだった車種で、セダンのほかにハードトップが人気を集めたのはよく知られているところ。クラウンには初代(マスターライン)からクラウン・バンが設定され、“カスタム”の名でワゴンが設定されたのは2代目(1962年)から。
以降、4代目(1971年=クジラクラウン)、5代目(1974年)を経て、6代目(1979年)、7代目(1983年)ではワゴン、8代目(1987年)、9代目(1991年)にステーションワゴン、そして最後の10代目(1999~2007年)でエステートワゴンと呼称が変更されてきた。
写真はそれぞれ1975年(5代目)、1979年(6代目)、1985年(7代目)のもの。5代目は最初のピラードハードトップが登場した世代で、さすがに古式豊かな雰囲気を漂わすも、前席ベンチシート仕様であれば8人乗りにできるサードシートを備え、いかにもゆとりのあるこのクラスのステーションワゴンらしい実用性を備えていた。6、7世代は、次第により乗用車的な装備が充実していき、7代目ではルーフがキックアップし、スカイライトウインドウと呼ばれた天窓を備えるなどしている。
日産セドリック(&グロリア)
セドリックの写真は1981年のカタログから。1979年登場の5代目、430系で、4ドアハードトップには初のターボ車が登場した世代だ。
ワゴンには2Lのガソリンと2.8Lの6気筒ディーゼルを設定。サードシートを備えた8人または7人乗りで、Cピラー部のオーナメントに隠されたキーシリンダーにキーを差し込んで操作することで、左リヤクォーターウインドウが開閉できた。
マツダ・ルーチェAPワゴン
そのほかに、ロータリーエンジン(13B型)を搭載するユニークな存在だったのがルーチェAPワゴン。
写真のカタログは1976年のもので、“ステアリングホイール、シフトノブ、サイドブレーキノブはグリップ性の良い木製。運転席はWoodyで、落ち着いた高級感を抱かせます”などと説明が書かれている。
三菱ギャラン・エステートバン
もう1台、こちらはバンながら、当時の流行を反映したボディサイドの木目張り(オプション)まで用意されていた三菱ギャラン・エステートバン。
写真は1979年のエステートバン専用のカタログからだが、乗用車のワゴンの役割も担っていたため装備は充実しており、とくに上級グレードの2000スーパーエステートには、AM・FMマルチラジオ、電動式リモコンミラー、フロント合わせガラス・ジェードバンド(ボカシガラス)といった装備が標準に。ラゲッジスペースも“フル内張り”にループカーペット(スーパーエステート)仕様になっている。
日産サニー・カリフォルニア
さて木目パネルというと、アメリカのステーションワゴンを範として広まったスタイルのひとつだったが、日本車でも多くのモデルが採用した。1979年に日産から登場したサニー・カリフォルニアもそんな中の1台だった。
といっても当初の打ち出しは“5ドアスポーツセダン”ではあったが、明るいイエローのボディ色に木目パネル(当時のカタログ写真によくあるパターンで、ウッディサイドパネル、ラジアルタイヤ、アルミホイールは注文装備と小さく注釈が付いている)の若々しいスタイリングは、スポーツ、レジャーなど多用途性をアピール。サスペンションタワーの張り出しはあったものの、フラットで広いラゲッジフロア、最大で1250mmのバックドア開口幅など、使い勝手のよさも確保されていた。
ホンダ・シビックカントリー
サニー・カリフォルニアが登場した翌年の1980年に登場したのが、ホンダ・シビックカントリー。2代目スーパー・シビックの世代に誕生したモデルで、2320mmのホイールベースは当時のハッチバック(2250mm)よりも長く、4ドアセダンと共通のもの。
木目パネルはテールゲートには標準、ボディサイドはオプション扱い(となればボディサイドのオプションを選ばないオーナーはいたのだろうか?)。ベースのシビック同様の集中ターゲットメーターやロータリーチャンネル式ラジオ、電磁式テールゲートオープナー、4段階の角度調節ができたスーパーバリアブル・リヤシートなど、当時のホンダ車らしい斬新な機能が盛り込まれていた。エンジンは1.5LのCVCCで、5速MTと★(スターレンジ)付きのホンダマチックの用意があった。
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