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奇抜な理由は1100mm制限 ワイラ・プロネッロ・フォード 南米のプロト・レーサー(1)

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奇抜な理由は1100mm制限 ワイラ・プロネッロ・フォード 南米のプロト・レーサー(1)

奇抜なプロトタイプマシンを生んだレース

世界中のモータースポーツ熱が今よりずっと高かった時代、様々な国で独自規格のレースが開催されていた。特に個性的な内容で競われていたのが、アルゼンチンで開催された「スポーツ・プロトティポ・アルヘンティーノ」だろう。

【画像】南米のプロト・レーサー ワイラ・プロネッロ・フォード 同時代クルマたち パガーニ・ウアイラも 全172枚

1969年から1973年という短い期間で終わったが、奇抜な見た目を持つプロトタイプマシンの創出に繋がった。不自然に高い全高制限が設けられ、それを満たすため、ボウル状のキャビンがボディから突き出ることになった。

フェンダーラインは流線形を描き、低いボンネットにV8エンジンが搭載された。少し離れると、アメリカの派手なミニカー、ホットホイールを拡大したようにも見えた。

それでも、レベルは低くなかった。オレステ・ベルタ氏など、後に活躍するデザイナーも関わっていた。彼は自らのレーシングチームを立ち上げ、オリジナルのプロトタイプでニュルブルクリンク1000kmレースにも招待されている。

空気力学を専門とした、技術者のヘリベルト・プロネッロ氏も参画。最高速度が300km/hを超えるマシンも誕生した。

国内での人気は高く、プロトタイプマシンが自動車雑誌の表紙を飾ることも少なくなかった。しかし、アルゼンチンの外では殆ど報じられなかった。F1ドライバーへ後年にステップアップした、カルロス・ロイテマン氏の経歴の中で触れられた程度といえる。

2023年のグッドウッドで集めた高い注目

モータースポーツへ関心の高い、英国のカーマニアでも認知度は極めて低かった。だが、2023年7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに大胆なマシンが登場し、にわかにその歴史へ注目が向けられた。

グッドウッドのコース上でセンセーショナルに披露されたのが、今回ご紹介するワイラ・プロネッロ・フォード・クーペ。見事なレストアを受けたオーシャン・ブルーのボディは、イベント内での注目車両投票で多くの票を集めた。

スポーツ・プロトティポ・アルヘンティーノ開催のきっかけとなったのが、アルゼンチンの自動車メーカー、IKA社が販売したトリノというスポーツクーペ。アメリカのAMCから協力を受け、ピニンファリーナのスタイリングをまとい、自国で生産されていた。

南半球のフォード・マスタングとも呼ばれたトリノには、直列6気筒エンジンが搭載され、国内のツーリスモ・カレテラ(TC)・シリーズへ参戦。レースの規定は緩く、ボディにも大幅な改造が認められていた。

そこでIKAはワークスチームを立ち上げ、デザイナーのオレステと、技術者のヘリベルトを招聘。自由度の高いレギュレーションのもと、マシンの性能は大幅に高められた。

ところが、危険性も上昇し死亡事故が発生。IKAは、最終的にファクトリーチームを解散させてしまう。

安全性を求める声を受け、TCシリーズは量産車ベースの内容へ変更。同時に、過激なマシン開発に対するモチベーションも高く、アルゼンチン自動車クラブは新しいレースをスタートさせた。

スケールモデルで風洞実験を重ねたボディ

それが、1969年に初戦が開かれたスポーツ・プロトティポ・アルヘンティーノ。これには、IKAも非公式ながら関わった。独自マシンを開発する意向を示した、ヘリベルトを後ろから支えるという態勢で。

彼がドライブトレインとして選んだのは、320馬力以上を発揮するフォードのV型8気筒エンジンと、ZFの4速マニュアル。これらを最適な位置へ搭載できる、強固なスペースフレームが設計された。

サスペンションは前後とも独立懸架式で、ブレーキはディスク。市販車のトリノとはまったく異なる構成といえた。

最大の特徴といえたのが、流線型でグラマラスなグラスファイバー製ボディ。スケールモデルで風洞実験を重ね、形状が煮詰められた。

レギュレーションに含まれた、高さ1100mmというルーフラインを満たすため、キャビンは丸く膨らんだ。フロントガラスは飛行機のようにカーブを描き、ガルウイングドアが取り付けられた。

高くそびえるリアウイングや、後方へ伸びるカムテール状のエクステンションなど、複数のバリエーションも検討されたという。ボディ後半は一体成型で、いずれも車内から専用工具で固定する構造が取られていた。

滑らかなフェンダーラインと呼応するように、ボンネットは低く伸びやか。中央から突き出たクワッド・ウェーバーキャブレターを、ラム圧を利用したエアインテークが覆った。

数年後、バルケッタボディの参戦が認められるなど、レギュレーションは緩和。エアインテークが切り取られ、吸気トランペットがむき出しになった。

のっけから速かったワイラ・プロネッロ

このプロトタイプマシンを、ヘリベルトはワイラ(Huayra)と命名。これは、ハリケーンをもたらすアンデス地方の神の名を由来としている。ちなみに、アルゼンチン出身のオラチオ・パガーニ氏も、現代のハイパーカーへ同じ名前、ウアイラを与えている。

開発は遅れ、ワイラがスポーツ・プロトティポへ参戦できたのは1969年シーズンの4戦目。アルゼンチン・コルドバ州のサーキット、アウトドローモ・オスカー・カバレンでデビュー戦に挑んだ。

美しくカーブを描くブルーのクーペに、観衆は魅了された。しかも、ステアリングホイールを握ったドライバー、カルロス・ロイテマン氏とカルロス・パスカリーニ氏は、のっけから速かった。

予選でポールポジションを掴んだのは、ライバルマシンのベルタ・トルネードだったものの、ワイラも同タイムでフロントローを奪取。本戦ではパスカリーニが序盤からレースをリードし、フォード・ファンを湧かせた。

しかし、10周目にブレーキトラブルが発生しリタイア。3位を走っていたロイテマンも、リタイアに沈んでいる。

不発に終えたデビュー戦の後、ヘリベルトたちはワイラを改良。2戦目は西部のサンタフェ州ラファエラ郊外にある全長4.6kmのオーバルコースで、高速域での性能が求められた。

予選では、パスカリーニとロイテマンが他チームを圧倒。周回速度は、平均で300km/hに達していた。その速度域ではサイドウインドウが風圧で外れそうになり、テープで固定し対応したという。

この続きは、ワイラ・プロネッロ・フォード 南米のプロト・レーサー(2)にて。

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