ターボを積んで「じゃじゃ馬」と呼ばれたり、ヨーロッパ意識したお洒落なデザインで海外でも大ヒットしたり、カエルの様な顔で登場したりと、コンセプトを変えながら、「可愛いキャラクタ」を生かしてファンを獲得し続けてきた、日産「マーチ」。
4代目となる現行型マーチの登場は2010年、すでに11年が経過している。初代K10マーチは約11年、K11も約11年、K12は約9年と、歴代モデルが長寿であったので、K13の11年目というのは、マーチとしてはさほど珍しいことでもないが、次期型マーチの噂は聞こえてこず、生産終了もささやかれている。
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日産のエントリーカーとして、長年日産を支えてきた名車マーチ、その全盛期とはいつ頃だったのだろうか。
文:吉川賢一
写真:NISSAN
[gallink]
スポーツモデルからおしゃれなモデルまで!! 様々な姿をみせてくれた初代マーチ
K10型初代マーチの登場は1982年のこと。3760×1560×1395(全長×全幅×全高)mm、ホイールベース2300mm、日欧市場に向けた小型FFハッチバック、といった立ち位置だった。現代のマーチ(全長3870mm×全幅1690mm×全高1500mm、ホイールベース2450mm)と比べると、ひとまわりほどコンパクトで、日産が軽を持たない時代のエントリーカーとして、人気を得た。
K10型初代マーチの特徴としては、単なるエントリーコンパクトカーにとどまらず、これをベースとしたスポーツバージョンが続々と誕生した、ということだ。3ドア車にターボを設定した「マーチターボ」、ターボとスーパーチャージャーという2つの過給機を持つ、全日本ラリー選手権向けのレース車両「マーチR」、そのマーチRを一般ユーザー向けとして内外装を仕立て直した「マーチスーパーターボ」などが登場、当時人気のあったモータースポーツで大活躍していた。
特に、「マーチスーパーターボ」は、「じゃじゃ馬」とよばれるほど、エンジンパワーが高いことで起きるトルクステアや、コーナーでアクセルオフした際のタックインが強いなどのクセのある運転感覚が、運転好きにとっては「乗りこなす楽しさ」として、熱烈なファンが多くいた。
また、K10型初代マーチは、パイクカーシリーズの3台「Be-1」 「パオ」 「フィガロ」など、いま人気が再燃している派生車が多く誕生したモデルでもあり、様々な姿を魅せてくれていた。
ターボとスーパーチャージャーのツインチャージャー仕様のマーチRをベースとして、一般向けに化粧直しがなされたマーチスーパーターボ
平成に最も成功したコンパクトカー 2代目K11型マーチ
2代目のK11型マーチにフルモデルチェンジしたのは1992年。初代モデルが直線基調のスタイリングだったのに対し、2代目では曲線を用いた優しい雰囲気のデザインで登場。どことなく古きヨーロッパの香りが感じられる「タイムレス」なデザインは当時、高く評価された。K11型では、ホイールベースが初代の2300mmから2360mmに伸ばされたが、全長は逆に40mm短縮された。
ボディは3ドアと5ドア、エンジンは1.0Lと1.3Lの2種で登場、ターボやスーパーチャージャー搭載車はなくなったが、実にしっかりとした走りをしていた。決してパワーのあるクルマではなかったが、ちょうどよいボディサイズと、使い勝手の良さ、そして価格の安さと、バランスがとれたモデルだった。
このK11型マーチのよさは、日欧で1992年のカー・オブ・ザ・イヤーを同時受賞(日本車では初)したことでも、証明されている。「ホットハッチ」という姿ではなくなったが、長く愛されたK11型マーチは、「平成に最も成功したコンパクトカー」といえるだろう。
エントリーカーとして極め、販売も成功した3代目K13マーチ
日産が、倒産の危機を耐え抜いて復活を遂げた2002年、マーチは3代目がデビューする。新開発の1.0L、1.2L、1.4Lの4気筒エンジンを投入、4ATと5速MTの組み合わせで、ほどほどの出力と低燃費実現しており、堅実な走りの良さは先代を引き継いでいた。
キャビンや前後フェンダー周りまでを覆う丸みのあるボディスタイルに、「クリクリ」とした可愛らしいヘッドランプ、やさしい風合いのボディカラーを増やすなど、女性ユーザーをターゲットにした姿へと進化した。
とくに、「パプリカオレンジ」や「サクラ」といった外装色や「カカオ」内装色といった、色味でクルマを選ぶたのしさが評価され、K12マーチは、財団法人日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードを、2002年、2005年、2007年と、三度も受賞。
こうした戦略がヒットし、デビュー直後の2002年は13万9332台、2003年は12万3709台、2004年は10万2792台と、日産の販売を支える重要なコンパクトカーとなった。
一転、スポーツモデルのマーチ12SRも2003年に追加。エンジンはチューンされた1.2Lの直4エンジン(108ps(79kW)/6900rpm、最大トルク13.7kgm)を搭載、5速MTのみとし、ボディ補強や専用スポーツサスペンション、専用エキゾースト、エンケイ製15インチアルミホイールにポテンザRE-01を装着するなど、相当な力が入っていた。
エントリーカーとしての役割を全うし、販売的にも成功を収めた、それが3代目K12型マーチだった。
2002~2010年まで販売された3代目マーチ。2003年時点で平均月1万台ほど売れていた。2003年10月にはスポーツモデルの12SRがラインナップに加わった
放置されながら、いまも一定の需要のある 4代目K13マーチ
現行である4代目K13型マーチは、2010年7月に登場。先代K12型マーチの大成功を元に、「エントリーコンパクトカー」としての地位を盤石なものにするため、価格を限界まで安くしてより多くのお客様の手に届くように、と開発されたモデルだ。タイで生産して日本へ輸入するという、「キックス方式」をいち早く導入したモデルでもある。
登場から11年が経過しているK13型マーチだが、小改良は定期的に施されており、昨年の7月にもアップデートされている。この改良で「インテリジェントエマージェンシーブレーキ」(車両や歩行者との衝突回避・衝突被害を軽減)や、「踏み間違い衝突防止アシスト」が全車標準装備となった。
他にも「ハイビームアシスト」や、「LDW(車線逸脱警報)」などの先進安全技術も標準装備。その結果、「セーフティ・サポートカーS<ワイド>(サポカーS<ワイド>)」の対象となり、サポカー補助金(65歳以上の登録車購入で最大10万円)の対象車となっている。
とはいえ、「クルーズコントロール」や「レーンキープアシスト」といった、ライバル車ならば当たり前に搭載している運転支援装備は、残念ながら設定すらされていない。しかし、それでもマーチは2021年度上半期で4133台(月平均では689台)、日産車の中では、リーフに続いて6番目に売れている。だが、もう限界は近い。
ちなみに、かつてマーチとモデル共用であった欧州の「マイクラ」は現在、新型のK14型となって販売されている。フォルクスワーゲン「ポロ」をライバルとして、スタイリッシュに成長したK14マイクラは、日本市場への導入が熱望されているモデルではあるが、ワイドなボディとなったことで、日本市場で求められるボディサイズを越えてしまった。また、コストやロジスティクスの問題、さらには、ノートとの顧客の食い合いなどの問題があり、おそらく実現は難しい。
マーチの全盛期は「2代目K11型」
新車登録台数で見ると、初代K10型は約60万台、2代目K11型は約100万台、3代目K12型は約60万台、4代目K13型は、現時点約25万台。バブル崩壊を経た平成初期、強いライバルに負けずにこれだけの台数を登録した、という意味では、2代目K11型マーチの時代がマーチの全盛期だった、といえるだろう。
サニー、ブルーバード、セドリック、プリメーラ、キューブ、ティアナなど、名門と呼ばれた日産のブランドが、次々に消滅しているいま、マーチまでもなくなってしまうのは、非常に寂しい。昭和の時代から令和まで続く名門「マーチ」が、この先どのような運命をたどるのか、刮目して見ていきたい。
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