新型スープラに継承されるトヨタの心意気
新型スープラの登場によって、トヨタのブランドイメージが変わったように思われているが、それ以前からトヨタはスポーツカーを精力的に作り続けてきた。現行ラインアップに名を連ねる86やスープラに息づく、スポーツカーづくりにおけるトヨタのこだわりを紐解いてみよう。
【試乗】スポーツカー好き納得のトヨタ新型スープラ! 悩ましいのはグレード選び
トヨタ初のFRスポーツカーはトヨタ2000GTだ。1960年代、クラウンでフラッグシップカー、カローラでファミリーカーを登場させたトヨタの次の目標が「スポーツカーを作ること」だった。当時スポーツカーとは、おもにオープンカーを指していた。トヨタも「スポーツ800」をデビューさせていたが、来るべき高速化時代に向けて、クローズドボディでヨーロッパのライバル車に対抗できるスポーツモデルの投入が必須となった。
スポーツカーには、最高性能を持つエンジンを搭載したい。ただ、トヨタはすでにV8エンジンを持っていたものの、いわゆる「スポーツユニット」はなかった。そこで、M型エンジン(2L)をベースにDOHC化した「3M」を新規に開発した。そして、当時のスポーツカーづくりの定石とも言える「2ドア・ファストバック」のクーペボディに、ダブルウイッシュボーン式サスペンション、4輪ディスクブレーキを装備するシャシーに組み合わせた。こうして「トヨタ・スポーツ」のイメージリーダーカーとなる2000GTが完成した。
2000GT【MF10】
トヨタが持つ技術を結集し生み出された本格GTカー
トヨタ初のGTカーとして1967年に登場。238万円の新車価格は当時のクラウンの約2倍。150馬力の最高出力を誇り、最高速度は220km/h(公称)に達する。 一方、量産車メーカーとしては、2000GTよりもポピュラーなスポーツモデルもラインアップしたい。そこで投入されたのが「セリカ」だ。1970年代、北米市場が主要な輸出先となっていたトヨタは、4気筒エンジン搭載のセリカをスポーツモデルとして送り込む。国内ではセリカに加え「コロナ」「カリーナ」「カローラ」などに2Lまたは1.6LのDOHCエンジンを搭載した高性能モデルを設定した。
しかしながら、北米市場では大排気量のライバル車が多く、そこでセリカに6気筒エンジンを搭載。こうして生まれたのが「セリカ・スープラ(日本名:セリカXX)」だ。
1980年代に入ると、4気筒モデルはFF化の波を受けて、次々と横置きエンジンに変更され、トヨタのスポーツモデルもFF、4WD、MRへと切り替わっていく。横置きになってもスポーツ性能は高められた。セリカのWRCでの活躍や、MR2のジムカーナでの強さなどは、ファンならずともご存じだろう。
セリカ【T160】
映画のなかで雪上を疾走し若者を中心に支持を集める
初代から3代目までFRだったセリカが、4代目でFFとなった。1.6~2Lエンジンを搭載。4WD仕様の「GT Four」やオープンモデルも設定された。
MR2【AW10/11】
自分の手足のように操れるライトウェイトスポーツ
1.5L、および1.6Lエンジンを横置きに搭載したミッドシップカーで、FF車と部品を共用することで開発コストを抑えた。後にスーパーチャージャーモデルも登場する。 ただその結果、逆にFRであり続けた縦置き6気筒モデルのステータスが高まったのも事実。セリカXXは6気筒専用モデルとして、その後ターボエンジン、DOHCエンジンと、当時の最高性能を誇るユニットを次々搭載する。車名がスープラとなってからも3Lターボを搭載するなど、モデルチェンジごとに「スポーツカー」として進化した。
新型スープラは、こうしたトヨタの伝統から生まれた新たなスポーツカーと言えるだろう。
スプリンタートレノ【AE86】
ハチロクの愛称で親しまれていまだ根強い人気を誇る
車両型式「AE86」から“ハチロク”と通称された、国産車史上もっともポピュラーなスポーツカー。ハチロクでFRの運転を覚えた人は多い。
トヨタ製スポーツが継承するもの【直列6気筒エンジン】
トヨタの6気筒エンジンのうち、もっとも歴史があるのが「M型」。2L SOHCが基本形で、2000GTの「3M」はDOHCとなる専用ユニット。初代セリカXXの「4M-EU」はSOHCのままで2.6Lに、「5M-EU」は2.8Lへと排気量を拡大したバージョンだ。2代目セリカXXおよび初代ソアラには、5M-EUをDOHC化した「5M-GEU(170馬力)」を搭載している。その後、「6M-GEU(3L)」まで展開。M型の最強バージョンが、ターボ仕様の「7M-GTEU(240馬力)」となる。自然吸気仕様のM型の特徴は、排気量にかかわらず、低回転からトルクが立ち上がり、力強さだけでなく乗りやすさも兼ね備えていた。
7M-GTEU
伝統あるM型エンジンの最終進化形
1986年、初代スープラと2代目ソアラに搭載されてデビュー。国内仕様はターボのみ。グループAレースのホモロゲモデル「ターボA」では270馬力を発揮する。 次に登場したのが「G型」。2L SOHC2バルブの「1G-EU」と、4バルブ化した「1G-GEU」、さらにツインターボ仕様となる「1G-GTEU(210馬力)」、クラウン用ではスーパーチャージャー仕様の「1G-GZEU」も設定された。1G-G系は、高回転までまわる特性で、マニュアルミッションで操る楽しさが魅力だった。
そして、最終仕様にして最強と言われるのが「JZ」系エンジン。2.5Lの「1JZ-GTE」と3Lの「2JZ-GTE」で、どちらもターボ仕様を前提として設計されており(自然吸気仕様もあり)、トルク特性や耐久性に優れたユニットだ。ターボ仕様の最高出力は、どちらも280馬力となっている。
1JZ-GTE
ハイパワー化にも耐える名機
初代スープラおよびマークII系の後期型に搭載される。当初はツインターボ仕様で、マークII系の最終仕様ではシングルターボになる。
2JZ-GTE
トヨタ史上最強と謳われるパワーユニット
自然吸気(2JZ-GE)もあるが、ターボ仕様はアリストと2代目スープラのみ。アリストはAT、スープラはATのほかゲトラグ製6速MTを設定する。 新型スープラには、6気筒エンジンと2タイプの4気筒エンジンが搭載されている。いずれもトヨタのスポーツカーづくりのコンセプトである「Fun to Drive」を実現すべく、絶対的性能だけでなく、回転フィールやエキゾーストサウンドにもこだわっている。FRという駆動方式と組み合わせることで、エンジン性能が生かされるだけでなく、高い操縦性を味わうこともできるだろう。歴代のトヨタのスポーツモデルが、「運転の楽しさ」を追求してきたのと同じように。
トヨタ製スポーツが継承するもの【後輪駆動(FR&MR)】
86【ZN6】
86は、高回転&低重心という水平対向エンジンの長所を、FR車としての運動性能に生かすために作られた。まさにトヨタ&スバルの合作だ。
セリカXX【A60】
シャシー設計にロータス社の技術を投入した2代目セリカXX。リトラクタブルヘッドライトが特徴だ。「直6 FR」の走りを堪能できるモデル。
MR-S【ZZW30】
AW10/11、SW20と続いたトヨタ製ミッドシップカーの歴史を継承。ハンドリング特性に優れ、走りを楽しめるオープンモデルとして人気を博す。
カローラレビン【AE86】
コンパクトFRスポーツの象徴的存在。絶対的なパワーやロードホールディング性能ではなく、素直でわかりやすい操縦性で現在でもファンは多い。
アルテッツァ【XE10】
2L直列6気筒、3L直列6気筒、2L直列4気筒の3種類のエンジンを搭載したコンパクトFRセダン。軽量性や重量配分に優れたシャシーを持つ。
マークX【GRX130/133/135】
マークIIの後継としてV6専用車で登場(現行モデルは2代目)。ターボ仕様やMT車は設定されないが、ハンドリング性能に対する評価は高い。
クラウンアスリート【JZS171/173/175】
新型スープラ登場前は、トヨタの「直6ターボ最終モデル」だったクラウンアスリート。高剛性ボディによる走りのよさが特徴だ。
大きなクルマだけじゃない小型FRスポーツの可能性
S-FR
新型スープラに続き、トヨタスポーツのラインアップに加わる可能性を秘めたモデルだ。小型で軽量なボディにターボエンジンを搭載し、トヨタが提唱する“Fun to Drive”を具現化している。
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