BMWのエントリーモデル、1シリーズの3代目「F40型」は、ついにFFモデルとなりライバルがひしめくCセグメント・ハッチバック群の中に割って入ってきた。従来のFRモデルは、走りの面ではBMWらしい存在だったが、パッケージング、居住性の面では相当なハンデを背負っており、3代目は正常な進化ということができる。
格段に向上したパッケージング
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マニア層の間ではFRからFFへ変身したことを嘆く声も聞くが、ドイツやヨーロッパ市場でもFRにこだわるBMWオーナーは少なく、駆動形式に無関心なオーナーが多いという調査結果がある。そのためパッケージや室内のスペース効率を高めるためにはFF駆動方式は不可欠となっているわけだ。
すでにBMWは2シリーズ・アクティブツアラーからFF駆動を採用しており、同じUKL2プラットフォームを1シリーズに採用することに躊躇はなかったはずだ。新型のF40型の1シリーズは、全長4335mm、全幅1800mm、全高1465mm、ホイールベース2670mmで、まさにCセグメント・ハッチバックの典型的なボディサイズだ。従来型の1シリーズと比べて全長は同じで、全幅が拡大され、全高も25mmほど高くなっている。
FF化により、これまでは極めて狭かったリヤシートの足元スペースは33mm拡大されている。またラゲッジ容量も20L拡大し380Lとなり、リヤシートバックを折りたたむと1200Lになる。ちなみにフォルクスワーゲン・ゴルフは380L/1270Lの容量を持っている。
また新型1シリーズの前後の荷重配分は59:41で、FF化された割にはフロントが軽く、リヤ荷重が大きめになっているのが特長といえるだろう。なおボンネットとリヤゲートはアルミ製で、高張力鋼板の使用率を高めるなどにより従来型より30kg軽量化されていることも特筆すべきだ。
パッケージデザイン
デザイン的にも前後のオーバーハングは短く、フロントの車軸とAピラー根本の距離も長めになっており、ビッグキャビンのパッケージングではあるが大人びたフォルムだ。
デザイン面では、最新のBMWデザイン様式の大型キドニーグリルと、つり上がったヘッドライト・デザインが特徴的だ。サイドビューでは、ガラス面積がリヤドア以降は狭められ、わずかなホフマイスター・キンクがつけられている。その影響でボディのサイド・ショルダーの厚みが感じられ、下半身がどっしりした印象を受ける。
インテリアは3シリーズ以来の、BMW全モデル共通のデザインだ。なお試乗車はオプションの24万円の「iDriveナビゲーション・パッケージ」が装備され、10.25インチ・マルチディスプレイ・メーターパネルの「ライブ・コクピット」仕様となっているため、3シリーズや、もっと上のクラスの見た目と全く同様に見える。本来のベース仕様は機械式メーター風のデザインメーターと5.1インチの液晶ディスプレイとなっている。
新型1シリーズのグレードは、1.5L・3気筒直噴ターボンジンエンジンを搭載する118iで、装備違いによりスタンダード、Play、Mスポーツの3機種が設定されている。そして上級グレードとして高出力の306ps/450Nmを発生する2.0L・4気筒直噴ターボを搭載する「M135i xDrive」がある。ただしM135i xDriveは630万円と1シリーズの中では別格扱いとなる。
BMW製FFの味付け
試乗したのは最量販モデルの118i Playだった。ベース価格は375万円だが、オプションを装備しているので460万円となっている。
118iは3気筒の1.5Lエンジンを搭載しているため、フロント部分が軽量。エンジン出力は140ps/220Nmで、Cセグメントの中では標準的なレベル。トランスミッションは7速DCTを採用している。
DCTのためトルコン式ATに比べて、発進加速ではトルク感に欠けるが、エンジン自体は低速重視のフラット・トルク型で扱いやすく、DCTの変速も滑らかだ。走行中はトルコン式のATと勘違いするほど滑らかだ。
エンジンの特性は実用域を重視した低中速トルク型のため、回転を上げてもパワー感は薄い。0-100km/h加速も8.5秒と公表されており、実用性能としては十分といえる。
タイヤは205/55R16サイズのブリヂストン・トゥランザのランフラットタイヤ装着しているが、タイヤサイズが過大ではないこともあって、舗装の荒れた路面でも乗り心地も良好だ。もちろん、ブレーキを掛けても、アクセルを踏み込んでもボディのピッチングがよく抑えられ、フラットな乗り心地で、ドライバーだけでなく同乗者も快適だろう。
ダイナミック性能の味
一方でステアリングの操舵力は最近のクルマの中では重めだ。そしてステアリングに伝わって来る路面のインフォメーションも結構ダイレクト感があり男性的な印象だ。さらに走行中のボディ全体の剛性感の高さもこのクラスの中では異例といえるフィーリングだ。
コーナリングもBMWのFFらしい味付けになっている。リヤのグリッグ感が極めて高い上に、コーナリング性能をニュートラル方向に味付けしているのだ。メカ的にはDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)とは別に、タイヤスリップ・コントロール(ARB)機能を備えており、DSCの作動よりもっと早い段階で前輪タイヤのスリップ傾向を捉えてエンジンECUで瞬間的なトルクダウン制御を行ない、アンダーステアを抑え込むようになっている。
さらにコーナリングをアシストするためのブレーキ・トルクベクタリングも併用し、アンダーステアを抑え込むというよりアンダーステアの兆候が見える前にシャシー制御によってドライバーの意図通りの走りを作り出している技を感じることができる。
新型1シリーズは、ボディ・サイズ、パッケージングなどCセグメントのハッチバックとして見ると十分な競争力を持っており、エントリーモデルではあっても独自の走りの味付けを備えている点が大きな特長だ。
さらにBMWコネクトやオプションの対話型AI「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタンス」などを装備できる点がプレミアムCセグメントたるアピールポイントになっている。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
BMW 1シリーズ 諸元表
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