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ハーレーダビッドソン最高峰の進化──新型CVOシリーズ試乗記

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ハーレーダビッドソン最高峰の進化──新型CVOシリーズ試乗記

生まれ変わったハーレーダビッドソンの新しい「CVOシリーズ」の走りはいかに? 田中誠司がリポートする。

限定生産モデル

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ハーレーダビッドソンの最高峰CVOシリーズが生まれ変わったのは既報のとおり。その新型のプレス試乗会がハーレー設立120周年を祝う「ホームカミングフェスティバル」の期間中に行われた。7万3000台のハーレーと13万人のファンが集合したビッグイベントには、グリーン・デイやフー・ファイターズといった一流ミュージシャンも登場し、ミルウォーキーの街全体を巻き込んだ大きなお祭りとなった。

200kmにわたって走らせた新しい「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」は、いずれも巨大なカウルやサイドバッグを標準装備するグランドアメリカンツーリングシリーズのトップモデルで、CVOは“カスタム・ヴィークル・オペレーション”の略。職人の手によって念入りに組み立てられたエンジンと、特別な塗装などで仕上げられた限定生産モデルである。

両車に搭載されるのはハーレー史上最大排気量となる1977cc空水冷Vツイン「ミルウォーキーエイトVVT121」。VVT(可変バルブタイミング)を備えた水冷シリンダーヘッドを持つなど、完全な新設計である。フレームは基本的に旧型を踏襲しているが、ヘッドライトやウインカーをLEDとしたカウル部のグラフィック、サイドバッグ形状を刷新。一眼で最新型であると分かる。

ここでストリートグライドとロードグライドの歴史について振り返っておこう。

ハーレーダビッドソンがフロントフォークにマウントされ、ハンドル部分まで覆う「バットウィング」というフェアリングを純正装備として発売したのは1969年のこと。現代の「ストリートグライド」に連なる、ハーレーのツアラーを示すアイコンとなった。さらに、1980年にはフレーム固定式のカウルを持つ「ツアーグライド」が投入され、1998年登場の「ロードグライド」の原型となった。高く掲げたカウルに低めのサイドバッグの組み合わせは「バガー」と呼ばれ、ツーリングバイクの新しいスタイルを生み出した。

2014年にこれらのモデルは大幅なアップデートを受けるが、今回のモデルはデザイン、空力、軽量化、エンジン、インフォテインメントの充実など全面的に新しい技術を投入してきたのは既報のとおりだ。

とりわけすべての要素をもれなく投入してきたのが「CVO」を冠した最上級モデルで、いち早く頂点のモデルを送り出し120周年の節目に弾みをつけたいというハーレーの強い思いが感じられる。

高級乗用車的な洗練性が印象的大イベントが実施されている最中のハーレーダビッドソンミュージアムを起点とした試乗会、まずはロードグライドにまたがる。エンジンを始動すると、従来型ではどこかガチャガチャと聞こえた金属音はなりを潜め、アイドリングはスムーズだ。低速での息つきのような鼓動も少なくなっており、モダンな印象を受ける。良い意味で自動車を動かすような感覚だ。これはストリートグライドも変わらない。

新しいCVOのエンジンは、低速域でのレスポンス、高回転域でのなめらかさに大幅に磨きがかかっていた。1500rpmからレブリミットの5500rpmまで、どこからでも豊かなトルクを満喫できる。なめらかな回転感覚に浸っていると気づかぬうちにレブリミットに到達してしまい、少々慌て気味にシフトアップするシーンが何度もあった。

感触ばかりでなく、新型エンジンはパワー感も向上している。115ps/4500rpm、最大トルク189Nm/3000rpmの数値こそ旧型から10%弱の向上に過ぎないが、体感的には数字から想像するより大きい差を実感することができる。

エンジンのスロットルレスポンスやエンジンブレーキの強さは個別に設定可能なほか、プリセットされたロード、スポーツ、レインの各モードからさまざまな設定が選べる。トラクション・コントロールやABSの作動レベルも変更可能で、走ることにフォーカスした電子技術に力を入れているようだ。

実際にスポーツモードを選んで走ってみると、筆者の走らせ方だとスロットルレスポンスが敏感すぎて神経質に感じられたので、それに気づいてからはロードモード一本で通した。

グランドアメリカンツーリングシリーズの中でも、街乗りに配慮したのがストリートグライドで、グランドツーリングを優先したのがロードグライドだが、ワインディングロードにおける両車のハンドリングには際立った違いを感じなかった。サイズなりに丁寧に扱えばいずれもスムーズに駆け抜けられる。むろんハンドル位置と形状は違うから、ストリートグライドは市街地などでより軽快だ。燃料タンクやフロントフォーク上部といった車体上部を中心に、CVOストリートグライドで31ポンド(14kg)、CVOロードグライドで35ポンド(16kg)のウェイトを削ったことが運動性能に効いているのだろう。

乗り心地もグランドアメリカンツーリングにふさわしい快適性を持っている。倒立式フロントフォークと、ストロークを50%増したリアサスペンションのおかげか、市街地から高速道路に至るまで両車とも乗り心地に硬さを感じる機会は1度もなかった。まさにグライド(滑空)である。

長時間の疲労に影響を与える風の流れは、両車で少々異なる。大型固定式カウルを備えるロードグライドのウィンドプロテクションは、ハンドル固定式のバットウィングを持つストリートグライドに比べて20mphほど速い速度まで対応している感覚だ。ストリートグライドは60mphほどで風圧を負担に感じるようになるが、ロードグライドであればこの地域の速度制限である70mphでも全く気にならない。

高性能オーディオを積極的に楽しみたいこのあたりの捉え方は乗車姿勢や体格にもよって変わってくるはずだが、クルーズコントロールを使用してのロングクルーズを目的とするならロードグライドになるだろう。とりわけオーディオを聞いているときに、風の巻き込み音がロードグライドの方が大幅に少ないことのメリットを享受できる。

両車ともApple CarPlay対応の「ウルトラ・アーキテクチャー」を標準で備え、それにはロックフォードフォズゲート製のプレミアムオーディオシステムが含まれる。高速クルージングしながらApple CarPlay経由でApple Musicの好きなメニューを楽しめるわけだ。

ロックフォードフォズゲートのスピーカーはかなりの大径で、フロントカウルやリアのサイドケース内で大きな面積を占める。ハーレーが音楽を聞かせながらクルージングさせることを大きなアドバンテージにしたいと言う意向の表れだろう。ソースにもよるが時に絶妙なバランスで前後/左右からライダーを包み込み、キーの高い男性ボーカルなどは最高だ。クルーズコントロールと併用すれば、そのまま陸地の続く限りどこまでも走っていけそうな特別な没入感をもたらしてくれる。

速度に応じて音量を調整してくれる機能を備えるが、信号待ちや静かな山道では意識してボリュームを控えめにしておいた方が文化的かもしれない。

むろんオーディオに頼らずとも、ハーレーのVツインサウンドはとても魅力的だ。45度という独特なバンク角度がもたらすスキップを踏むようなビートと、まろやかなエグゾーストノートがスロットル開度やエンジン回転数に応じて絶妙にからみあう。このエンジンとハイクオリティなオーディオのミックスは、独特な振動とともにライダーを喜びの世界に誘う。

新しいCVOは、スタイリング、ハンドリング、パワーユニットの全ての面で、熟成されたマイルドさを打ち出したモデルになった。無骨さ、不器用さを排除して、世界最高のクルージングバイクを目指した作品であり、ヨッヘン・ツァイツCEOが「3年をかけて熟成し、まったく別物に生まれ変わった」と表現したのも頷ける出来だった。

文・田中誠司 編集・稲垣邦康(GQ)

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