つい先日、知り合いのカメラマンと打ち合わせをしていたときのことです。ふと「中込さん、早くまたW124を買うべきだよ!」言われました。W124とは、かつて生産されていたメルセデス・ベンツの型式。ミディアムクラスとか、Eクラスなんて呼ばれていました。
■たしかにそろそろラストチャンス?W124への誘い
私にとって初めてのマイカー、それがW124型のメルセデス・ベンツでした。カーグラフィック誌の長期テストにも供されていて、メルセデス・ベンツのミディアムクラスことW124型にはずっと憧れを持っていました。そんなこともあり、会社員だった頃にみずてんで発注した1992年式のメルセデス・ベンツ300E 4MATIC。ある程度、目算を立てて予防整備なども重点的に行いました。5年間ほど普通に足グルマにとして使用して、ほとんど止まったり、故障して困ったということもなく、関西や東北方面などへも出かけて楽しんだクルマ。今でも懐かしく思い出すこともあるほど、好きなクルマです。
冒頭のカメラマンは、そんな私の好みを知っています。ですから、実は以前から顔を合わせる度にこんなことを言われていたものです。しかし、このところコロナ禍ということもあり、あまり顔を合わせる機会もなく、面と向かって言われることもありませんでした。そのせいか、今回の口ぶりは、いつにも増して強めなものでした。W124型といえは、ネオクラシックカー人気に呼応して高価になってきます。自身でもじっくり直したりしているので、できることならばもう一度、一緒に楽しもうという誘いでもあるのでした。
■久しぶりに会った人にも言われる「中込=マセラティのイメージ」
思い返すと、同じようなことはしばしば、他のクルマでもありました。例えばマセラティ430。周囲の方から「またマセラティに乗ってほしい」とよく言われます。430含めてビトゥルボのシリーズは日本でもマセラティのファンを増やしたモデルであり、何より、マセラティの看板を下さずに100周年を刻めた功績も大いにあったといえるでしょう。にもかかわらず、コンディションにばらつきがあり、信頼性の点でも難があるとされ、今となってはなかなか実際に手に入れて乗る人は少ない車種となりつつあります。けれども私の乗った個体は、4年ほどの間に故障は一度もなく、所有したクルマの中では新車で購入した国産車に匹敵するほど「入庫知らず」のクルマでした。日本で整備した現存する個体はむしろ割と信頼のおけるものも少なくないのかもしれないと思ったほどです。今でも大当たりの個体だったと思っています。
同様にシトロエンBXについてもそうでした。乗っていた時期を思い返すと数ヶ月に過ぎないのです。しかし、その間に出会ったディープなお友達や、その後にお会いした方でも、シトロエン愛好家を中心に、フランス車というより、ぜひ「またシトロエンに戻ってきて!」という熱烈なるお誘いを今でもいただくものです。
自分では「ご縁があって」などと言いながらクルマを迎え入れたり、手放してきたりしてきましたが、人の印象にクルマは少なからず影響するのだということに気付かされます。かくいう私自身も振り返ってみると「あの人はアルファ ロメオの人」「ポルシェの人」というふうな「ある種の括り」でイメージしている方も少なからずいらっしゃるものです。
■本人は降りてしまって過去のクルマも、他人のイメージは案外現在進行形!?
そうして考えてみると、あまりさっくりとクルマを降りたり、軽々に乗り換えたりする。ちょっと軽率だったのかしらと反省することさえもあるのです。ただ、今回こうした人の印象を辿ってみると、みなさんよく覚えていらっしゃるなあと感心してしまいます。私がメルセデス・ベンツ300E 4MATICに乗っていたのはもう10年ほど前のこと。マセラティだってそろそろ5年ほどの時間が経っているのですから。
あれこれ書いてきましたが、つまるところ私が言いたいのは、クルマに乗るときや乗り換えで手放す際に「もう少しクルマ越しに仲間の顔を思い描いていきたいものだ」そう感じたのです。誰かのために乗るわけでもなく、誰に指図される筋合いだってありません。しかしそれでも、クルマがあったからこその仲間がいて、友達ができることも、また紛れもなく「クルマ趣味の一つの側面、事実」なのですから。そしてそんな懐かしい日々を思い出しながら笑みが溢れてしまうこと、それも尊いクルマ趣味の一つですし、そもそもクルマ好きとしては素直に嬉しかったりもしました。私の思い出はもしかすると自分一人のものでなく、他人の記憶にも脈々と残っていたりするのですから。
立ち返って、今の私。仕事で必要だし忙殺されている面はあるとはいえ「積載車の人」に甘んじてはいないだろうか。個人的には積載車好きでもあり、このクルマがなければ実現しなかったであろう出会いも数え切れません。けれどもやはり、太陽の光をいっぱいに浴びて走るクルマ、仕事の道具と完全に切り離された一台の価値は無視できないものがあるなと思うのです。乗っているときはもとより、手放してもなお、他人でも覚えているかもしれないクルマたち。もっと心を通わせてクルマを向き合おうと思いました。
そのカメラマンの放った言葉に、思わず私はハッとさせられてしまいました。
■いずれの時にも戻りたい!
以前、マセラティのイベントにも出かけました。このとき出会った方は今でも親しみを持って接してくださいます。まさにクルマの縁は人の縁。
納車いた翌週にふらりと広島まで出かけたシトロエンBX。随分と無謀なようでもありましたが、給油とトイレ休憩以外休む必要ないほど快適だったのは衝撃的で、そのときのことは今でも鮮明に覚えています。
そしてつい先月のこと。栃木のスクーデリア・ブレシアさんで、大変貴重なメルセデス・ベンツ300TD 4MATIC ステーションワゴンのハンドルを握る機会をいただきました。
冒頭の写真はかつて筆者が所有していたクルマですが、当時日本にはガソリンの四輪駆動しか輸入されていませんでした。しかし、本国にはディーゼルターボと組み合わされた4輪駆動もチョイスできて、新車で日本に並行輸入された個体だとのことです。6気筒ディーゼルエンジンは低速トルクがより豊かで、オートマチックとの相性も秀逸。より密度の高い加速感が印象的で、ワゴンに組み合わせられると上等な道具感がさらに強調されるようで、理想的な仕様のように感じられました。たしかにW124との暮らしなど悪くないかもとこのときは思ったものでした(ちなみに正確にはステーションワゴンはS124。このモデルのディーゼルは排ガス対策なしで筆者が日常的に使用することは、規制の関係でできないのですが)。
たしかに、ラ・フェスタ・ミッレミリアなど、積載車があったからこそ垣間見ることのできた深い世界と言えるでしょう。ただ、ちょっと個性的な乗用車のチョイスはさまざまな出会いやご縁を広げてくれるものです。どちらも尊いことはいうまでもありません。
[ライター・画像/中込健太郎]
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