ルイス・ハミルトンの2連勝からフェラーリ同士の接触事件まで、2020年F1世界選手権の出来事をレポートする。
開催に踏み切った
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新型コロナウイルスの猛威は一向に衰える気配をみせないが、スポーツの世界ではイベントが少しずつ始まっている。コロナ問題の収束を待っていると開催はいつになるか分からず、とてもビジネス復活の目処がたたないというのが主催者の正直な考えだろう。参加する選手達も、観客達もそろそろしびれを切らしてきた。F1グランプリも例外ではない。
予定から4カ月遅れで7月5日にレッドブルリンクで開幕戦のオーストリアGPが無観客で開催されたことは前回のレポートで述べた。移動のリスク、関係者の入国規制などを考えれば、開催地が多くのF1チームの所在地があるヨーロッパになったのは当然だろう。そして、翌週の7月12日にも同じレッドブルリンクでシュタイアーマルクGPと名打ったレースが行われた。シュタイアーマルク(Steiermark)とはオーストリア第2の都市グラーツを中心にした地域の名称で、英語ではスティリア(Styria)と言う。F1グランプリは1国1レースと定められており、オーストリアでの2レース目の名称を変更した。ちなみに1994~95年に日本でF1グランプリが2レース行われたことがあり、鈴鹿サーキットで行われたレースは日本グランプリ、岡山国際サーキット(当時はTIサーキット)で行われたレースはパシフィックGPと呼ばれた。
開幕が大幅に遅れた上、今年予定されていたレースの多くを消化する計画のため、レース・スケジュールは多忙を極める。それが証拠に、開幕戦オーストリアに続き、シュタイアーマルク、ハンガリーと3レースが3週末連続で立て続けに行われ、1週おいて再びイギリス、70周年記念グランプリ、スペインと3つのレースが3週末連続する。イギリスと70周年記念の2つのグランプリはシルバーストンで開催される。それにしても見事なスケジューリングだと思う。レースに帯同する関係者は相当な数に上るが、彼らの国を跨いでの移動がほとんどストレスなく行われるようにとの立案であり、3戦が終了したいま大きな問題は報告されていない。レースを開催するサーキット(プロモーター)は無観客イベントというリスクを負いながらも、よくぞ開催に踏み切ったと言える。
新型コロナウイルス対策に関しても、F1グランプリは万全の対策で望んでいる。過去3レースに関してレースに帯同する関係者はドライバー、チーム関係者を含め全員が4日毎にテストを受けるシステムになっている。ハンガリーGPまでの過去6日間に実に4997名にPCRテストが行われた。オーストリアGPの前のテストでは2人の陽性罹患者の報告を受けたが、彼らはすぐに隔離され、もちろんオーストリアには参加していない。こうした情報をFIAとF1主宰者は包み隠さず公表しており、これが関係者に安心感を与え、問題なくレースを開催する原動力になっているといえる。
ハミルトンの完璧な週末
F1 Grand Prix of HungaryPoolレースはというと、2戦連続でルイス・ハミルトンの圧倒的な強さが目立った。シュタイアーマルクでは2位のバルテリ・ボッタスに13秒7の大差を付け、ハンガリーでもマックス・フェルスタッペンを8秒7退けて連勝した。特にハンガリーでは予選でポールポジションを獲得し、レース中に最速ラップを記録しての勝利だけに、完璧な週末というほかなかった。2レースともスタートからトップを奪い、レースの流れを完全にコントロールしながらの勝利。レース途中でセイフティカーが導入され、それまでの2位との差が縮まっても、慌てることなく再度その差を広げ、追い上げるライバルにDRSを使用するチャンスさえ与えなかった。DRSはドラッグ・リダクション・システムと呼ばれ、ドラッグを軽減して車速を上げるシステム。前車との差が1秒以内であれば使用出来る。つまり、ハミルトンは追いかけて来るライバルを1秒以内に寄せ付けなかったということだ。
「レースはスプリントじゃなくてマラソンだから。トップで走っていても絶対に気を緩めることなく、常にライバルのポジションを確認しながら走る」と、ハミルトンは自分に言い聞かす。
ハンガリーのレースはハミルトンにとって86勝目。ミハエル・シューマッハの前人未踏の91勝にあと5勝と迫った。そしてハンガリーでの8勝は同じレースでの最多勝利記録になった。F1界では次々と記録を塗り替えるドライバーが登場する。まさかシューマッハの偉大な記録を塗り替えるドライバーが現れるとは思いもしなかったが、すでにその記録はハミルトンによって少しずつ塗り替えられている。彼のヘルメットには「We Still Rise」と書かれている。どこまで成長が続くのだろう。
ボッタス vs フェルスタッペン
F1 Grand Prix of StyriaGetty Imagesハミルトンに次ぐ2位を争うのはバルテリ・ボッタスとマックス・フェルスタッペンの2人に絞られてきた感じだ。シュタイアーマルクでは終盤までフェルスタッペンが2位につけていたが、最後にボッタスにその座を奪われた。フェルスタッペンのレッドブルはフロントウイングに小さなトラブルを抱えており、少なからず空力性能に影響が出てはいたが、根本的なスピードでレッドブルはメルセデスに勝てなかった。
「ボッタスが来るのはわかっていた」と、フェルスタッペンは白旗を揚げた。
しかし、ハンガリーでは見事に2位を堅持した。レース前のフォーメーションラップでコースアウトしてクルマの前部を壊したフェルスタッペン。スタート前のグリッド上で応急修理をしてレースをスタートした。予選は7番手と予想を下回ったが、「凄いスタートができた」と自賛、第1コーナーを抜けたところで3位にのし上がっていた。その後はレーシングポイントのランス・ストロールを抜いて2位に上がり、終盤ボッタスに接近されるも2位を死守した。
F1 Grand Prix of Hungary - QualifyingMark Thompson「ハンガリーのコースはコーナーが多くて非常に抜きにくい。ここでなら真後ろに着かれても抜かせない自信がある。それよりなにより、スタート前のグリッドでクルマを修理してくれたメカニックに報わなければと思った。クルマから降りてしまいたいほど酷いダメージだったけど、みんなは本当によくやってくれた。2位は感謝の気持ちだ」と、フェルスタッペン。シュタイアーマルクでの3位に続く表彰台で選手権3位に着けた。
メルセデスのコピー?
今シーズンに入って明暗を分けているチームがある。レーシングポイントとフェラーリだ。2019年型メルセデスのコピーと言われるレーシングポイント、セルジオ・ペレスは開幕から6位、6位、7位とポイントを稼ぐ。チームメイトのランス・ストロールは第2戦で7位、そして第3戦ハンガリーでは予選3位から決勝レースでは4位に飛び込んだ。そのレーシングポイントに対してルノーが抗議を出した。F1チームは独自のクルマを開発するというルールがある。レーシングポイントはメルセデスのコピーでありルールに反する、と。ただいま係争中。果たして判定はいかに……だが、確かに今年になって突然速くなったレーシングポイント、隠された秘密はありそうだ。
F1 Grand Prix of StyriaPeter Foxレーシングポイントとは真逆のポジションにあるのがフェラーリ。まったく走らないクルマにドライバーは頭を抱えるが、悪いときには悪いことが重なるもので、シュタイアーマルクでは1周目にチームメイト同士が接触、2台揃って早々にリタイアした。シャルル・ルクレールの無理な追い越しが原因。彼はセバスチャン・ベッテルに対し平身低頭謝罪をするが、チームは今年限りで出ていくベッテルの肩を持つことはしない。そのベッテル、2021年の計画を聞かれると、「まだすべて白紙。レースを続けるか止めるかも決めていない」とか。噂ではアストンマーチン(レーシングポイントが21年にチーム名を変更する)、アルファロメオといったところが移籍先候補に上がっているが、私はもう引退した方が良いと思っている。
PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)
1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。
文・赤井邦彦
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