■レクサス車はトヨタ車より割高なのか?
レクサスの話をすると必ず出てくるのが、「トヨタ車がベースなのに価格が高い」という声です。確かに黎明期はLS(日本名:セルシオ)以外のモデルはトヨタ車のメカニズムをそのまま水平展開していて、それが「高級なトヨタ車」といわれていました。
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しかし2012年6月に社内カンパニー「レクサスインターナショナル」となって以降は、同じ素材を使いながらもレクサス独自の最適化がおこないやすくなりました。その流れはトヨタのクルマ造りの構造改革と呼ばれる「TNGA」により、さらに色濃くなっています。
トヨタ自動車という母体は同じですが、レクサスブランドとトヨタブランドは何が違うのでしょうか。
前述したTNGAは、単にプラットフォームやパワートレインの刷新を意味するのではなく、「クルマ作り」や「仕事の進め方」を大きく改革させるためのキーワードになります。部品の共用は開発効率の向上ではなく、“いい物”を安く効率的に作るための手段と考えたほうがいいでしょう。
中長期的に使えるように、基本性能にこだわった高いレベルのモジュールを開発したことで、逆に各モデルを作り分ける際に“個性”が出しやすくなったといいます。
レクサスの末っ子クロスオーバーとして登場した「UX」は、クロスオーバーでありながらもオンロード寄りの性格であることと、前席優先のパッケージングという意味ではトヨタ「C-HR」と近似性がありますが、内外装のデザインはまったく異なります。
外観では、UXは兄貴分の「RX」「NX」との共通性を持ちながらも、どちらかというとSUVというよりもスポーティハッチに近いプロポーションです。それ対し、C-HRは個性的かつクーペのようなプロポーションを採用しています。 質感の高い内装に関しても、UXは兄貴分と同じ水平基調のインパネを採用する一方、C-HRは個性的な外装とは異なり奇を狙わずシンプルなデザインを採用。しかし、シートやドアトリム、天井などにダイヤモンドの形状を用いるなど遊び心も忘れていません。
この2台が決定的に違うのはパワートレインです。UXはガソリン車が「ダイナミックフォースエンジン」と呼ばれる次世代ユニットの2リッター直噴(174馬力/209Nm)と、発進ギアが追加された「ダイレクトシフトCVT」の組み合わせ。
ハイブリッドはこの2リッターエンジン(145馬力/188Nm)とモーター(108.8馬力/202Nm)の組み合わせで、システム出力は178.1馬力となっています。
対するC-HRは、ガソリンが1.2リッター直噴ターボ(116馬力/185Nm)とCVTの組み合わせ。ハイブリッドはプリウスと同じ1.8リッター(98馬力/142Nm)+モーター(72馬力/163Nm)でシステム出力は122馬力となっています。
UXは次世代ユニットということで、ガソリン/ハイブリッド共に絶対性能だけでなく官能性能にもこだわった仕上がりなのに対して、C-HRは旧世代のユニットを用いるため、絶対的なパフォーマンスが車格に対して力不足に感じてしまうこととフィーリング面もイマイチなのが残念な部分です。
駆動方式はどちらもFF/AWDが用意されますが、パワートレインとの組み合わせが異なります。UXはFFがガソリン/ハイブリッド、AWDはハイブリッドの設定なのに対して、C-HRはFFがハイブリッドのみ、AWDがガソリンのみという設定となっています。この辺りはキャラクターや戦略の違いなのかもしれません。
■「UX」の素直なハンドリングは「プレミアム」な印象さえ感じさせる
プラットフォームはどちらもTNGAの「GA-C」を採用していますが、UXは独自スペックが盛り込まれています。
例えば、高張力鋼板を最適配置したアンダーボディや左右ドア開口部とバックドア開口部の環状構造、レーザースクリューウェルディングや構造用接着剤の仕様部位の大幅アップ、パフォーマンスロッドやステアリングギアブレースの追加など、実は似て非なるものになっています。
コンベンショナル/リニアソレノイドAVS(電子制御可変ダンパー)を用意するサスペンションや、ランフラットタイヤ(18インチ)なども採用しています。
UXとC-HRは、共に足をシッカリ動かしながらドライバーの細かい操作に対して正確に動くことや、スペックや数値よりも官能的な部分に注力した、奇を狙わない“直球勝負”のハンドリングとなっていることは共通ですが、乗り味は各々独自です。
UXは気負わず扱えるスッキリとした滑らかなステアフィールや、上下方向は良く動くが横方向は無駄な動きを抑えた素直なハンドリング、ランフラットタイヤを履きながらも高い快適性、ドイツ車のような重厚かつ鉄壁のスタビリティとは違いヒラリと身をこなすフットワークの身軽さ、動的質感の高さなども相まって、目線の高い「プレミアムハッチ」といっていい乗り味です。
対するC-HRは、レスポンス重視のキビキビかつ軽快な走りが特徴で、目線の高い「スポーティハッチ」といった乗り味に仕上がっています。そのため、乗り心地はやや硬めな設定ですが、ダンピングがシッカリしているので決して不快ではありません。
全体的にはスポーティ方向ですが、どこかが突出しているのではない全体のバランスの良さは、いい意味で「脱トヨタ」といってもいいでしょう。この流れは「カムリ」や「カローラスポーツ」でも感じる部分なので、トヨタは確実にいいクルマの“何か”を掴んだと思っています。
ちなみに価格はUXが390万円から535万円(消費税込、以下同様)となっているのに対して、C-HRは229万円から292万9200円(特別仕様車は除く)です。
■レクサスの歴史を背負ってきた「ES」とトヨタ「カムリ」の違いは
レクサスの歴史のなかで「LS」と並ぶ歴史を持つのが「ES」です。そしてこのモデルを語る上で切っても切れないのがトヨタ「カムリ」の存在です。
1989年に登場した初代ESは、2代目「カムリプロミネント」をベースに、内外装をレクサスブランドとして仕立てたモデルでした。
2代目ES以降は基本コンポーネントこそ共通ながらも、独自の内外装やハンドリング、快適性、静粛性などが盛り込まれていました。しかし、どこか高級なカムリが拭えなかったのも事実です。7代目となる現行モデルはどうでしょうか。
外観は若干プロポーションが似ていますが、「ミニLS」のようなスタイルのESに対し、スポーティなキャラクターのカムリと印象は大きく異なります。
ちなみにボディサイズは、ESが全長4975mm×全幅1865mm×全高1445mm、ホイールベース2870mmに対して、カムリは全長4910mm×全幅1840mm×全高1445mm、ホイールベース2825mmと、ESのほうが若干大きなサイズとなっています。
内装はESがレクサス共通の水平基調のインパネとリモートタッチを採用するのに対して、カムリはオーソドックスなトヨタらしいレイアウトで外観以上の差があります。
さらにESは先代LSの標準車に迫る2870mmのロングホイールベースを活かした後席居住性の高さもポイントとなっています。ESは量産車世界初採用となる「デジタルアウターミラー」も装着可能です。
パワートレインはどちらも「ダイナミックフォースエンジン」と呼ばれる2.5リッター直噴エンジン+モーターのハイブリッドのみ。これまでのハイブリッドと違う力強さと自然なフィーリングが特長ですが、2台の決定的な差は静粛性です。
ESは従来モデルでもこだわっていた部分ですが、新型はLSで培った技術をフィードバックすることでレベルアップ。車内での会話明瞭度を含め、カムリと比べるとひとクラス上です。
■レクサスは決して割高とはいえない
プラットフォームはどちらもTNGA「GA-K」を採用しますが、ES用は同じGA-Kながらも一クラス上のトヨタ「アバロン」(北米専用モデル)のものがベースとなっていることはあまり知られていません。
もちろんそのまま水平展開されるわけではなく、専用のボディ構造や「レーザースクリューウェルディング」、構造用接着剤、軽量化素材の積極的な採用といったES専用の「プラスα」がシッカリと盛り込まれています。
サスペンションは標準車には新開発の「スイングバルブショックアブソーバー」、Fスポーツには「パフォーマンスダンパー」やリニアソレノイド式AVS+19インチタイヤ&ホイールを用いた専用セットアップのサスペンションを採用しています。
走りに関しても、ESとカムリは2台共に正確性の高いステアリングや操作に忠実な応答性、安心感のある素直な直進性とハンドリングのバランスといった基本素性の良さは共通ですが、各々の味付けは明確に異なります。
ESは運動性能の高さを声高らかにアピールしない内に秘めた乗り味で、どちらかというと“やさしさ”をアピール。レクサス共通の「スッキリと奥深い走り」を最も表現できていると思っています。そういう意味では、よりスポーティになったLSよりフォーマル性も高いのではないでしょうか。
対するカムリは、これまでの無味無臭なイメージから一転してセダンとしての快適性をシッカリ確保しながらも、「これはスポーティセダンか」と思わせるような味付けになっています。
価格はESの580万円から698万円に対して、カムリは329万8320円から434万1600円と、250万円ほどの差があります。
※ ※ ※
UXとESはどちらも「高級なトヨタ車」ではなく、見た目はもちろん乗り味に関してもレクサス独自の“個性”がしっかり盛り込まれたモデルに仕上がっています。
装備内容を見ても大きく異なることから、それらを考慮するとじつはレクサスの価格はいうほど割高ではないことがわかるはずです。
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