JPNタクシー登場以降、街中で見かけるタクシー事業者のほとんどがこの車両を採用している。このように国内に大きなシェアを持つトヨタだが、実は東南アジアや欧米でも多くのトヨタ車が走っているのをご存じだろうか? しかもRAV4やカローラクロスといったSUVまでタクシーになっているというのだ! そんなトヨタベースタクシーをご紹介しよう!
文・写真/小林敦志
ええ!? RAV4やカローラクロスがタクシーに!! 東南アジアのタクシー最新事情
■タイで開催のモーターショーに展示されたJPNタクシー
第44回バンコク国際モーターショーに展示された「LPG(LPガス)ハイブリッド・タクシー・コンセプト」タイでの法人タクシーカラーに彩られている
2023年3月末から4月上旬の期間で、タイの首都バンコク市近郊にて“第44回バンコク国際モーターショー”が開催された。その会場内トヨタブースにおいて、黄色と緑のツートーンとなる、タイでの法人タクシーカラーに彩られた、トヨタJPNタクシーが展示されていた。
タイなので“JPN(ジャパン)”と名乗るわけにもいかないので、「LPG(LPガス)ハイブリッド・タクシー・コンセプト」となっていた。
タイ語で書かれた、日本でいうところの“空車”や“賃走”を外部に向け表示する“スーパーサイン”や、タイのタクシーメーターなどが装備されていたが、車両自体は日本仕様でタイ風に架装したものとなっていた。
タイへ旅行に行かれた人ならおわかりのとおり、タイ国内におけるタクシー車両は圧倒的にトヨタ カローラ アルティス(グローバルサイズのカローラセダン)となっており、多人数乗車が可能なMPV(多目的車)やSUVタクシーでも、トヨタ イノーバやトヨタ フォーチュナーなどトヨタ車が圧倒的に多い。
つまり、タイのタクシーはトヨタ一強状態となっているのである。そのタイでJPNタクシーが展示されたので、カローラからJPNタクシーへ切り替わるのかと思いがちだが、そうでもなさそうである。
「トヨタはそう遠くない時期にJPNタクシーのモデルチェンジを予定しているとの話もあります。仮にモデルチェンジがあるならば、海外市場に本格導入するとしたら次期型になるでしょう」とは事情通。
つまり、次期JPNタクシー導入のためのリサーチも兼ね今回展示したのではないだろうかというのである。
仮にタイでJPNタクシーを普及させるならば現地生産がマストとなる。日本国内でも価格がネックになってタクシー事業者の多くが導入に二の足を踏んでいるのだから、日本からの完成車輸出はありえないと考えていいだろう。
会場では子どもたちからの人気が高く、また日本への旅行経験があると思われる人が「日本で乗った」という感じで見つめているなど、老若男女問わず注目を浴びていた。
ただし、日本ではミニバンやハイト系軽自動車などスライドドア車ばかりが走っているが、海外ではスライドドアは日本ほど広く馴染みがあるというわけではなく、とくにタクシー車両となるとかなり特殊な存在となる。事実JPNタクシーは日本以外では香港で活躍しているぐらいとなっている。
■台湾で大きなシェアを持つトヨタ車タクシー
台湾で高い人気を誇るトヨタウィッシュのタクシー
台湾のタクシーといえばコロナ禍前は現地生産していることもあり、トヨタ・ウィッシュが圧倒的に多かった。
そもそもは一般乗用車としても人気が高く筆者は台湾を“世界一ウィッシュを愛する地域”と呼んでいた。その台湾ではコロナ禍直前にはタクシー車両に特化したかのように台北市内ではウィッシュタクシーが活躍していた。
筆者が利用した車両ではサードシートを使っていなかった(なかった?)ので、ラゲッジルームが広く、荷物の多い旅行客にも重宝されていた。
しかし、そのウィッシュの生産がコロナ禍前に終了し、“ポストウィッシュタクシー”はどうなるのかと思っていたら、トヨタシエンタ(日本での先代)のタクシーが勢いを持って台北市内を走り始めたのを目撃した。
ただ、その後コロナ禍となりほぼ3年間台湾を訪れることができなかったなか、今年3月に久しぶりに台湾を訪れると、到着した台北近郊の桃園空港にはトヨタRAV4タクシーばかりがいた。
台湾には、日本ではお目にかかれないSUVベースのタクシーがある。写真はトヨタRAV4
「RAV4になったんだ」と思い台北市内に入ると、RAV4ではなく、“トヨタ カローラクロス タクシー”が多発していた。
そうはいっても、ウィッシュのころもそうだが、タイにおけるカローラタクシーほど、圧倒的にウィッシュだらけやカローラクロスというわけではなく、カローラ アルティスのタクシーも目立つ。
また、ほかに少数ながらさまざまなトヨタ以外の車種のタクシーも走っているが、トヨタ車のタクシーが全体で見ても多くなっているのが現状といえよう。
コロナ禍直前に増えていたシエンタは、コロナ禍後になって訪れてみると少数派となってしまっていた。日本以外のタクシー車両のドアはすべて手動で開け閉めするのがスタンダードとなっている。
そのなかでシエンタタクシーはオートスライドドアを採用しているのだが、手動で開け閉めするよりも時間がかかるのは否定できない。
また日本国内でも乗用需要となるが、ミニバンを長期間乗り続けると、オートスライドドアに不具合が出て部品交換などが発生するのも珍しくないとのこと。いろいろ考えると、やはりオートスライドドアが普及の“壁”になったのかなと考えた。
また筆者が乗ったのは1.5Lガソリン仕様だったが、やはり1.5Lでは非力感は否めず、エンジンが元気よくまわっているシーンが多かった。先代モデルでもあったので床からの振動なども目立ち(TNGAプラットフォームでもないので)、タクシー車両としては限界があるように感じた。
そんななか、それほど腰高感も目立たない、クロスオーバーSUVスタイルのカローラクロスに白羽の矢が立ったのかもしれない。
筆者が訪れたことのあるほかの東南アジア諸国の状況だが、インドネシアでは、新興国向けコンパクトMPVとなる“アヴァンザ”をベースとした専用車賞となるトランスムーバーが、トヨタの新興国向けコンパクトセダンとなる“トヨタ ヴィオス”ベースのタクシー専用車“リモ”の後継のような勢いでジャカルタの街なかを走っていた。
ベトナムのホーチミン市のタクシー車両といえば、中型で多人数乗車可能なMPVとなる“トヨタ イノーバ”となっている。
つまり、タイだけでなく東南アジア地域の多くの国々ではタクシー車両といえば、その大きさなどに違いはあるが、トヨタ車が圧倒的に多いのである。
■世界的に人気の高いトヨタ車ベースのタクシーだが 課題もある
タイで撮影したトヨタ カローラ アルティス(国内仕様よりもワイドなカローラセダン)ベースのタクシー
東南アジア以外でも、例えば北米ニューヨークでは、カムリやRAV4などトヨタのHEV(ハイブリッド車)が多いし、シカゴではカムリ、ロサンゼルスではプリウスなど、主要都市ではトヨタ車のタクシーが目立っている。
欧州でも主要都市ではプリウスのタクシー(おもにプリウスα)が目立っているので、世界的に見てもタクシー車両においてトヨタは強みを見せているようである。それだけ“壊れにくい”など、車両への信頼性が高いという事なのかもしれない。
ただし、いま東南アジア各国ではタクシー車両のBEV(バッテリー電気自動車)化を推し進めている。台湾の台北市ではコロナ禍前からBEV路線バスの導入が始まっていたが、コロナ禍前は中国・比亜迪(BYD)製のバス車両だったのが、今回訪れると台湾系ブランドに切り替わりながら増え続けている。
コロナ禍となってから訪れたインドネシアの首都ジャカルタでもBYD製BEV路線バスが当たり前のように走っていた。
そしてタイの首都バンコクでは昨年後半からタイメーカー製BEV路線バスを急速に導入しており、2023年内にはエアコン付きバスはほぼすべてBEVになるともいわれている。公共輸送機関からBEV化するのは諸外国ではお約束の話。
路線バスである程度BEV化の筋道が見えてくれば、「次はタクシー」となるのは自然の話。すでにジャカルタやバンコクではBYD製のBEVタクシーが走り出している。
バンコクでは上海汽車系のMGがステーションワゴンタイプのBEVをライドシェアサービス大手と組み、ドライバーに好条件で購入して使ってもらうようにもしており、複数の中国系メーカーがタクシー車両のBEV化を見据えすでに動き出している。
タイではMGやBYDのほか、すでにGWM(長城汽車)やNETAといったチャイナブランド車が販売されているが、先ほど長安汽車もタイ市場への参入を発表している。中国国内メインとなるが、すでにBEVタクシーの営業運行実績も豊富というのは中国メーカー最大の強みといっていいだろう。
クラウン コンフォート系の後を継ぐ形で“コンフォート ハイブリッドタクシー(JPNタクシー)”が導入されている香港だが、香港の隣は中国の深圳市。つまりBYDのお膝元となっているので、香港でもBYD製のBEVタクシーに切り替わるのは時間の問題ではないかともいわれている。
いまはアジアでは“タクシーと言えばトヨタ車”というイメージが強い地域が多い。ただ内燃機関車でトヨタにタクシー車両で挑んだものの、思うような結果を出せなかった韓国ヒョンデ自動車グループも、すでに韓国国内ではPBV(特定多目的車)としてフリートニーズ向けBEVをラインナップ、
起亜ブランドの“ニロ・プラス”などが韓国の首都ソウル市内ではタクシーとして活躍しているので、今後アジア各国がBEVタクシー導入に本腰を入れてくれば、再び本格市場参入を狙ってきそうである。
トヨタも手をこまねいているわけでもないようで、日本での現行シエンタベースで少なくとも東南アジア市場ではBEVをラインナップし、同時に東南アジアでの次期シエンタベースでタクシー車両を展開するのではないかとの話も聞いたことがある。
BEVタクシーは導入コストでは内燃機関車より高くなるが、燃料費(化石燃料から電気になる)やメンテナンスコスト(オイル交換がいらないなど)など維持費負担も軽くなるのが魅力的。
そのスタイルだけでなく、アジアの人たちが次世代タクシー車両にどういうイメージを持っているのかを探る意味でも今回のバンコクモーターショーにJPNタクシーを展示したのかもしれない。
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みんなのコメント
道具として使うならアジアでは日本車一択ですよ。
特にトヨタ系なら共有部品が多いから修理も楽。
タクシーみたいな足代わり車としては最適らしいよ