AMG 300CE 6.0 Wide Version(ワイドバージョン):残忍なほどのワイドボディに6リッターV8を詰め込んで、ごく少数(12台)だけ造られた特別なワイドバージョン。6リッターの排気量から385ps、289km/hのスピード、そして335,550ドイツマルク(約2700万円)のプライスタグ。それは1988年のことだった。クラシック オブ ザ デイ!
そのニックネームは「ハンマー」。それには理由がある。AMGは、排気量6リッター、最高出力385ps、トルク550NmのチューニングされたV8エンジンを、「W124シリーズ」のエレガントなメルセデスEクラスクーペ(C124)に搭載したのだ!
「ハンマー」はあまり目立たない。黒く塗られたバッジのないグリルと突き出たスポイラーが、「C124」の優雅なボディに陰鬱で威嚇的な印象を与えている。角張った2つのフォグランプが、見慣れた顔に重厚感を与えている。ワイドバージョンの前後のフェンダーは、17インチのドロップセンターホイールを装着するために、叩き出しによりワイド化された。手作業!ワイドバージョンはごく短い期間製造され、この「ハンマー」と「AMG 300CE 3.4-4V Wide Version」が存在した。
リアは、ティアオフエッジを変更したスポイラーで飾られている。V8エンジン(M117)は「Sクラス」譲りで、シリンダーヘッドはAMGによって改良され、2バルブから4バルブに変更された。
AMGの最高速度は289 km/h!
最高出力385馬力のV8エンジンは、怒号を上げながらAMGハンマーを6.0秒で0から100km/hに到達させる。トランスミッションの保護を目的に、250km/hで電子制御によるシフトダウンが行われなかったため、最高速度は289km/hにとどまる。
先進の電子制御サスは3段階の減衰力調整が可能
ツーリングカーにスポーツカーのようなパフォーマンスを与えるという野心に基づき、AMGは1988年という早い時期に、レベリング効果とダンピング効果を併せ持つ電子制御サスペンションコントロールシステムを搭載した。3段階から選択可能だが、最もソフトな状態でも「ハンマーハード」であることに変わりはない。
1988年当時の価格はなんと335,550マルク(2,700万円超)で、「フェラーリ テスタロッサ」より10万マルク(約800万円)ほど高い。この「ハンマー」はわずか12台しか製造されなかったが、AMGにとっては大きな利益をもたらした。「C124」に搭載された改良型V8によって、当時はまだ小規模だったメルセデスチューナーは、アメリカ市場でも大きな躍進を遂げたのだった。そして、アファルターバッハの小さなチューナーはメルセデス・ベンツと本格的にジョインすることになり。2005年からダイムラー傘下となるのである。
大林晃平: 僕がAMGという名前と自動車をちゃんと知ったのは1980年代初頭のことで、もちろんヤナセに行っても売っている自動車ではなかったし、街でその姿を見かけることなどはほとんどなかった。日本にはダイヤモンド企業という会社が総代理店となって少数が輸入されるか、オートロマンのような並行輸入業者がスペシャルプライスで販売するような、そういう特殊なメルセデス・ベンツがAMGであった。だからAMGと聞くと、やはりその当時のW126とか124、あるいはクーペでいえばSECかSLC(107)といったモデルが頭に浮かぶし、グリルもエンブレムも濃いグリーンなどで塗りつぶしたそのお姿は、軍用車をも思わせる迫力を醸し出していたものである。
それから40年が経過した2023年、街には驚くことにAMGばかりが走っていて、ゲレンデヴァーゲンに至っては、AMGバージョンの方が多いように思えるばかりか、SLなんていつに間にかメルセデス・ベンツというブランドではなく、AMGというブランドで、AMG SLという正式名称(?)を持つ自動車になってしまっている。
もちろん街を行くAMGというバッチやらスポイラーやらホイールを備えた自動車の多くは「AMGパッケージ」という名前の格好だけの車両も多い。つまりいつの間にかAMGは、「メルセデス・ベンツのスポーティバージョン」、あるいは普通のメルセデス・ベンツよりも「ちょっと高いグレード」くらいに捉えられているわけで、「普通のメルセデス・ベンツ」、「スポーティでちょっと高いAMG」、「もっと高くてラグジュアリーなマイバッハ」と、そういう住み分けのブランド展開をしてガッチリ儲けているのであった。
まったくヨーロッパの人たちはシッカリしているなぁとは思うが、そういう風に気持ちよくお金を払ってもらえるような戦略にたけているわけで、したたかと言うしかない。さて今現在、目黒通りや広尾近辺で数えきれないほど遭遇するAMGのオーナーに、「AMGとは何の略か?」と聞いたところで、回答率はおそらく5%にも満たないかもしれないが、AMGとは創立者のHans Werner Aufrechtさんの「A」と、エンジニアであった Erhard Melcherさんの「M」と、創業者の生まれ故郷であったGroB(注:「B」ではドイツ語の「ベータみたいな」エステェットという文字)のGを取ってAMGである。つまり、AMGとは「アウフレヒト メルヒャー グロースアスパッハ」の略称であり、これはさらっと言えたらファミレスでのエンスープロレス大会でマウントを取れるかもしれないので、ぜひ記憶しておきたいポイントだ。
ちなみにAMGの創業は1967年とかなり古く、レース用のエンジンの設計会社として創業され、そのあとのレース車輛でもっとも有名なのはAMG 300SEL6.8という例の赤いあのレース車輛ではないかと思う。それがどういう車かはここで解説するスペースがないので思い切りはしょるが、とにかくクーペとか2ドアではなく、4ドアセダンをベースに、バカっぱやいレース車輛を仕立てるという歴史そのものが、AMGたるゆえんだと思う。
そう、一見普通のセダンやクーペを、狂ったような高性能車に仕上げるという、ちょっと狂気な行為こそがAMGの魅力だし、それこそが本質の部分なのではないかと私は思う。そしてそんな中でも今回の300CE 6.0、通称ハンマーはその最右翼にあたるといえる。今やその価格が1億円と聞くと、最初はえーっと驚くかもしれないが、当時の価格も3,000万円を突破しいたはずと記憶しているし、たった12台しか作られなかったのだから、希少価値はもちろん認めなくてはいけないだろう。
そんな300CE 6.0ハンマーだが、その名前はその頃のカーグラ小僧には痛いほど刻まれているし、今でもAMGのハンマーと聞くと、グリルまで同色で塗られ、皮張りのレカロが載せられて、四角いマフラーが連想される・・・。そういう伝説のAMGの、当時一番振り切った姿がこれではないだろうか。
今現在、街で見かける「最近のAMGくんたち」と比べると、もう圧倒的に異質な存在感と悪さが違う。筋金入りのワルというか、ホンモノとはどういうものなのかの迫力がまるで異なる。毎日街で遭遇するAMGが、バイクで女子高のグランドに乗り込むくらいの男子高生だとすれば、こっちはもう触らぬ神に祟りなしのような極道感満載のお姿だ。
かつて梅宮辰夫は羽賀研二のことを「稀代のワル」と言っていた。僕に言わせりゃ、辰夫アニキの方がよっぽど女をヒイヒイ泣かせたりしてワルだったろうにとは思ったが、そういう「稀代のワル」という言葉は、ぜひこのハンマーに使ってほしい。稀代のワル、稀代のAMG、これはそういう車である。
それにしても、これほどまでに乱暴なエンジンと、パツンパツンな足回りと極太なタイヤを履かされても、一応ちゃんと走ったオリジナルのC124のボディはやっぱりすごい。僕が感銘し、心から尊敬してしまうのは、そんなオリジナルの124が持っている、基本的なポテンシャルの高さなのである。
Text: Matthias Techau Photo: Tom Wood ©2019 Courtesy of RM Sotheby's
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みんなのコメント
落ちない儚さと暴力さがありましたね
時代的にも潤っていたあっち系の人達が乗っている
事が多く街行く車は自然と距離をとっていたっけ
今のAMGは、外装や小物をメインで扱う一部門ですから。