マクラーレンからアルティメットシリーズ第3弾となるスピードテールが発表された。1992年に登場したロードカーのマクラーレンF1以来となる3シーターで初のハイパーGTカーである。
26年の歳月はハイパーカーのあり方も変えたようで、今回登場したスピードテールはハイブリッド車であるという。だが、当然モーターの使い方は普通のハイブリッドモデルとは異なり、最高出力は1050psを超え、最高速は403km/hに達するという。当然価格も175万ポンド(約2億5000万円)という何もかもが規格外のハイパーカーである。生産台数はマクラーレンF1と同じくわずか106台。2019年末から生産開始し、2020年から順次納車されるというが、すでに300人を超える購入希望者の中から、オーナーはすべて決定しているという。
ロールス・ロイス・ファントムを運転してみたら、ドライバーズカーにもなり得る実力に思わず唸った
スピードテールはその外観からして、すでにただ者ではないオーラを発している。マクラーレンはかつてマクラーレンF1(ロードカー)をレーシングカーに仕立ててGT選手権に参戦し、成功を収めたが、その後、強力なライバルとなったポルシェとメルセデスに対抗するべく、フロントとリアを延長した通称“ロングテール”を製作した。スピードテールのシルエットはそのロングテールを彷彿とさせる。さらに空力を追求したと思しき、固定式のホイールカバーもまた、ただ者ではない感じだ。これら以外にも、車両の内外に多くの新技術が盛り込まれているが詳細は後述する。
徹底的に空力を意識した見るからに長い全長は5137mm。そのほかボディサイズは明らかになっていないが、全幅はP1(1946mm)よりも狭く、720S(1930mm)よりも広いという。ホイールベースは2720mmと噂される。これまで採用されてきたカーボンモノコックは3シーターとなるため、新しいモノケージが採用される。
まずは空力から解説していこう
ボディ全体はエレガントな流線型をしている。ミリ単位で調整されたホイールカバーは最高速に利くのは間違いない。なにしろ403km/hもの速度では、わずかでも空気抵抗となる可能性のあるものは取り除きたいところだ。さらにドアミラーは、先日発表されたレクサスESにも採用されるカメラ式を採用しているが、最高速を志向するスピードテールでは格納可能になっている。写真ではルームミラーを備えていないが、カメラのみでも視野角は180°以上確保されているという。当然カメラは高精細でダッシュボード左右の端に配置されたモニターに後方映像が表示される。運転時に作動するが最高速モードでは格納することが可能だ。Aピラー付け根には左右リアビューカメラで撮影した後方映像が表示されるモニターがある。
だが、もっとも注目したいのはボディパネル後端左右のアクティブ・リア・エルロンと呼ばれる可変空力システムだ。一枚のカーボンファイバーでできているのだが、リアパネルのスリットが最大26度めくれ上がることで空気抵抗の削減やスタビリティ向上につながる。ボディパネルは巨大な1枚のカーボンだが、マクラーレンが特許取得した技術によってフレキシブルに曲がるようになっている。
エルロンは油圧アクチュエーターで上下する。言葉で説明するとわかりにくいので映像をご覧いただきたいが、ボディ表面の隙間はわずかに1mm。これによってスピードテールならではのスリークでシームレスなデザインを実現しただけでなく、スポイラー近辺から発生する乱気流を抑制するという。これが403km/hという驚異的な最高速を誇るスピードテールにとってハイライトである。もちろん減速時にはエアブレーキ機能にもなる。なお柔軟なカーボンパネルとはいえ、頻繁に曲がっていては疲労骨折が心配になるが、マクラーレンのR&Dチームは、6ヶ月間連続動作テストを行ったがなんら破損もなかったという。
パワートレインの詳細は明確になっていないが、ミッドに搭載されるのはセナにも搭載される4.0ℓV8ツインターボとみるのが妥当だろう。スーパーシリーズより上位シリーズに採用される高出力ユニットは、セナのようなサーキット志向モデルでは800psを発生していたが、スピードテールはハイパーGTカーである。それを大幅に超える性能を求めているとは考えにくい。おそらく250ps程度を発生するモーターが組み合わされていると予想される。
フルLED化されたデイタイムランニングライトの横には縦型のダクトがレイアウトされる。空気抵抗を最小化するためにテーパー状に細くデザインされ、ここから入る空気は低温ラジエーターに送り込まれる。ボンネット上の空気は低温ラジエーターには流れ込まず、フロントフード上の小さなインテークに入る。ここからボディを通り、ホイールアーチ周辺を通って、左右ドア下部に抜ける。この技術によって、車体左右の空気を整流し、ボディ周辺に発生する乱気流を抑制するという。ノーズ上の空気の残りはフロントウインドウ上を抜けて、シュノーケル型のインテークに入る。
当然ボディ下面はカーボンで覆われ、ボディの上下に流れる空気を制御する。最新モデルの空力技術の基本だが、アンダーパネルは延長されたリア部と接続し、リアディフューザーによって空気抵抗を削減する。さらに空力性能向上のための伝統的な手法として、固定式の(回転しない)カーボン製フロントホイールカバーが装着されている。ブレーキの排熱のため、隙間が設けられている。なおリアホイールにカバーは装着しないのは、空力性能がフロントほど向上しないことや重量増など、メリットが少ないためだそうだ。
インテリアもラグジュアリー
インテリアはマクラーレンF1以来の運転席が中央に、後方左右に助手席が配置される3シーターである。助手席はカーボン製で軽量かつ快適という。室内のデザインや仕様は新時代のテクニカルラグジュアリーを志向しているという。トリムはアニリンレザーなど選択肢は豊富でステアリングホイールのウッドは一枚物となっている。ラグジュアリーな雰囲気は満点だ。
フロントウインドウはルーフまで伸びており、中央にレイアウトされた運転席から上をみると空が見える。しかしサンバイザーは備わらない。グレイジングスイッチをオンにするとフロントウインドウ上部を暗くできる仕組みだ。技術的にはウインドウを真っ暗にもできるが各国の規制でできないという。この電気式ガラスによって大きく上まで拡がったフロントウインドウ上部や、サイドウインドウ上部、リアのクォーターガラスを暗くできる。
インパネの3つのディスプレイが採用され、中央には車速や燃費、タイヤ温度などの運転関連、左にナビや室内灯、右にインフォテイメント系が配置される。運転席の周辺スイッチは最低限。エンジンのスタートスイッチ、アクティブ・ダイナミック・パネル、最高速モードスイッチなどコントロールパネルをセナのように天井に集約した。さらにドライブ、ニュートラル、リバースなども天井に配置した。
グローブボックスは左右両側に備わっている。サイドウインドウはセナのように少しだけ開く。しかし、はたしてセンターシートでチケットに手が届くかどうか。実車を見る機会があれば確認したいところだ。ただし室内は106台それぞれがテーラーメイドとなることは間違いない。最新の技術を用いつつ、クラフツマンシップを感じさせるデザインとなっている。
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