■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
BMW「3シリーズ」が、7代目にフルモデルチェンジした。「3シリーズ」は、これまで世界中の自動車メーカーがセダンを開発する際のベンチマークであり続けてきた。実用性の高いボディーに、滑らかでパワフルな直列6気筒エンジンを搭載し、後輪を駆動。前後の重量配分も丁寧に50対50に調整する。前後サスペンションも調律を重ね、スポーツカーのような走りっぷりを更新し続けてきた。
各社が「3シリーズ」の仕上がりに注目し、追い付け追い越せと躍起になってきた。〝ビーエムの3シリーズ〟とは、そういうクルマだった。現代はSUVが全盛となり、メーカーのモデル数が増えてしまったので、相対的に「3シリーズ」の、というかセダンの存在感は薄まってしまったが、プレミアムクラスのセダンカテゴリーの中での3シリーズの実力は依然としてトップクラスに君臨している。
「3シリーズ」に限らず、優れたロングセラーは時代に応じて、技術の進化に柔軟に対応している。高く評価されたからといって、それに固執せず、新しい取り組みを止めることがない。「3シリーズ」もそうだ。
機械として優れているか?★★★★☆4.5(★5つが満点)
乗ったのは、日本仕様の第1弾となる「330i Mスポーツ」。2.0L、4気筒ターボエンジンは最高出力258ps/5000rpm、最大トルク40.8kgm/1550-4400を発生していて、賢い8速ATと組み合わせられ、鋭くパワフルに加速していく。ターボのクセも皆無で、レスポンスに優れた、BMWの面目躍如たるエンジンのフィーリングを持っている。
山道でもスポーティにコーナリングしつつも乗り心地だって快適だ。スポーツモードで走ると段差や舗装のつなぎ目などからの突き上げがキツく感じることもあったので、コンフォートモードやアダプティブモードばかりを選んだ。箱根ターンパイクのような急峻な山道を走っても、走りっぷりは申し分なかった。これまでの「3シリーズ」の延長線上にあって、そこに新たに余裕を付け加えている。これで不満に感じる人はまずいないはずだ。
ただ、ボディーサイズがまた拡大されたので困る人もいるだろう。全長で70mm、全幅で25mm大きくなった。重量が55kgも軽減されて、たしかにその効果は小さくないだろうが、ボディ寸法の拡大は駐車のしにくさに直結するシリアスな問題だ。
また、画竜点睛を欠いているのは、ハンドルの形状と握り心地だ。握りが太く、握り心地もフガフガ。まるでチクワのような握り心地だ。せっかくの素晴らしい走りを台無しにしている。ハンドルは、ドライバーが常にクルマと接していて、舵取りに関するフィードバックを行なっているのだから、最も重要なパーツなのである。スポーツセダンを謳うのならば、なおさらだ。
できれば本革を、そうでない素材だったとしても、スキなくパンと張った適正な太さの握りのものこそがふさわしい。実際、今までの「3シリーズ」はそうだったではないか? いや、「3シリーズ」だけでなく他のほとんどのBMWはそうしたハンドルを装備してきたではないか? なぜ、これが採用されたのか実に不思議だ。際限なく大きくなり続けるボディサイズとともに、この太く柔らかなハンドルは新型「3シリーズ」の評価を下げている。
商品として魅力的か?★★★★★ 5.0(★5つが満点)
テレビCMなどでもBMWが盛んにアピールしているのが、AIを活用したインターフェイスだ。
「オーケー、ビーエムダブリュー」
この合言葉に続けて、こちらの要求を口にする。
「TBSラジオ」
おおっ!ちゃんと伊集院光の朝の番組が流れてきた。それもAM放送ではなく、90.5MHzのFM放送を選んでくれたから音質が良い。番組ではなく、個別の楽曲を聴いてみよう。昨年にドイツで乗ったBMWの「2シリーズ・カブリオレ」はバンド名と曲名を言っただけで、インターネット上のSpotifyやApple Musicなどにスタンバイしていることを瞬時にモニターに提示してくれた。
私『ザ・ビートルズの“イエスタデイ”を聴きたい』
「聞き取れませんでした」
私(“ザ”を外して)『ビートルズの“イエスタデイ”を聴きたい』
「聞き取れませんでした」
私『ビートルズ、イエスタデイー』
「聞き取れませんでした」
私『The Beatles, Yesterday』
「聞き取れません。静かなところでもう一度お願いします」
ダメだ。全然、聞き取ってくれない。最初に戻ってみる。
私『音楽を聴きたい』
「ご希望のジャンル、アーティスト、曲名を述べて下さい」
お、ちゃんと聞き取ってくれるじゃないか。
私『ロック、ザ・ビートルズ、イエスタデイ』
「聞き取れません。静かなところでもう一度お願いします」
やっぱり、ダメだ。方向性を変えてみる。
私『チャーリー・パーカー、ドナ・リー』
「隣」という近くの居酒屋をナビの目的地に設定してしまった。笑えるけれども、曲が聴けない。
私『音楽を聴きたい』
今度は、近くの「ヤマハ音楽教室」を目的地に設定する始末だ。あまりOKではないのだけれども、この後も「OK、ビーエムダビリュー」と、いろいろと試してみた。こちらの望みをピタリとかなえてくれることもあれば、聞き取ってもらえないか、トンチンカンな答えを出してくることもあった。
よくできているけれども、クラウド上にデータがもっとたくさん集まらないと正解率は向上しないのだろう。購入した人が、その人なりの使い方をたくさん行ってデータを蓄積しないことには始まらないのだ。
「実際にたくさん使われないと、使い物になるのに時間を要します」BMWジャパンプロダクトマネージャーの御舘康成さんもそのように認めていた。また、メルセデス・ベンツの「Aクラス」や中国のスタートアップ自動車メーカー、NIOの「Es8」なども同種のAIロボットを搭載していて、いずれも運転以外の操作に用いようとしている。データが蓄積され、実用性が高まり、当然のように他のメーカーも装備してくるから、ドライバーのインターフェイスが劇的に向上されることになるだろう。
もうひとつ、今度の「3シリーズ」で、走行性能以外に力が入れたのが、運転支援機能だ。高速道路や自動車専用道などで、車線からハミ出ないようにステリアリングがアシストされる。うっかり車線からハミ出てしまいそうになると、かなり強い力でハンドルが戻されるのを感じる。それも右コーナーと左コーナーで戻し方を変えているし、力が効く時間も違う。つまり、状況に応じて細かく制御されているわけで、他メーカーも含めて今までのレーンキープ機能の新境地を開いている。
新型「3シリーズ」では、AIによるドライバーインターフェイスの革新や各種の運転支援デバイスの進化が著しい。依然として、運転性能もクラス随一だが、そこではなく、新型3シリーズを1台のクルマとして見た場合の魅力は、AIを採用したインターフェイスの革新や進化した運転支援にあると感じた。
つまり、BMWが標榜していた「駆け抜ける喜び」プラスαである。プラスαが7代目の価値になっている。新しい「3シリーズ」がどうあるべきか、明確に定義できている。それを広げて解釈してみれば、自動車が進むべき今後の姿を体現していると言えるだろう。この方向で、進化を続けてほしい。
■関連情報
https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/3-series/sedan/2018/bmw-3-series-sedan-inspire.html
文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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