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フェラーリ812スーパーファストに初試乗 F12 TdFの危うさ払拭 「最高のGT」と評価

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フェラーリ812スーパーファストに初試乗 F12 TdFの危うさ払拭 「最高のGT」と評価

■どんなクルマ?

「8」は、800ps、「12」はV12

祝「フェラーリ812スーパーファスト」日本初公開 跳ね馬を知る「12」のQ&A

これほどわかりやすい車名はそうそうないだろう。フェラーリにとって、最上級GTとしても、FRのV12モデルとしても最新作となるこのクルマ、「スーパーファスト」とは、そのものズバリのネーミングだ。

「12」はもちろんエンジンの気筒数で、先代のF12でもその名に織り込んだ数字である。もちろん、740psのF12が「スーパーファスト」なクルマじゃなかったわけではない。しかし、それを超えたという自信が、こんな命名をマラネロに決意させたのだろう。

そう、残る数字の「8」は、800psという超弩級の出力を示している。かつてスーパーカーの公称出力は「ウソ800馬力」などと揶揄されたものだが、今回は正真正銘の800ps、だと思う。

フェラーリのチーフテストドライバーであり、開発主査でもあるラファエル・デ・シモーネは、いったいどれだけパワーがあれば満足するのだろうか。

「コントロールさえできれば、いくらあっても、これで十分ということはないですね」

たしかに。コントロールは大事だ。それができていないとどうなるかは、F12 TdFの780psで思い知った。

F12 TdFで味わった恐怖

あのピーキーで御しにくい限定モデルは、その出力が頂点に近付くと、ドライバーもクルマのシステムそのものも混乱させるような後輪ステアを持つシャシーのキャパシティを完全に超える。まるで、実際の倍くらいパワフルなクルマに乗っているように感じられたものだ。

フェラーリが「ヴァーチャル・ショート・ホイールベース」と呼んだこのシステムだが、実際には謳い文句と正反対のことをする。

前輪と同位相にしか操舵できないそれは、極太のフロントタイヤを装着して意図的にバランスを崩したシャシーのスタビリティを補完するのが狙いなのだ。

しかし、その目論見はほぼ失敗に終わっている。その前輪グリップは曲がりたがる性格を生み、F12 TdFは極めて敏捷に感じられるが、ここにパワーの上乗せが加わると、活発さが極端に高まるのだ。


812では絶対に失敗できない

まあ、F12 TdFは限定車だから、そうしたもろもろをわきまえた、数少ないオーナーの手に渡っている限り問題はないだろう。

しかし、812はレギュラーモデルだから、そういう割り切りはできない。金銭的な条件などを別にすれば、基本的に乗り手を選べないのである。

それでいて、TdFと同じサイズのタイヤを履き、同様に後輪ステアを備え、しかもパワーアップしている。大丈夫か? と問いたくなる。

ところが、デ・シモーネは、限界域でもF12よりドライブしやすいクルマだという。812はピレリPゼロを履き、後輪ステアは改良版となり、電子制御デフやスタビリティコントロール、ドリフトコントロールに加え、フェラーリ初の電動パワーステアリングが採用されている。

搭載されるV12エンジンは、2002年にエンツォでデビューした6.0ℓのブロックがベース。15年の間には、内部パーツや補器類の改良や変更を繰り返してきたが、ブロックそのものは同じものだ。

今回はストローク延長で排気量を6.5 ℓとしたが、これは拡大できる限界に近い。ということは、このブロックも退役間近なのかと思われるが、フェラーリではそんなことはないという。

燃料噴射システムは、従来の200barから350barへ噴射圧を高め、レッドラインは8900rpmまで上昇したが、もっと引き上げる余地があるのだとか。すでに超高効率の吸排気系を備える自然吸気ユニットだが、次期改良版はムービングパーツなどに新素材を導入することで、9000rpmは余裕を持って突破できる目途が立っているらしい。

小排気量の直4あたりならまだしも、それを6.5ℓV12でやってのけるというのだから、いやはや、ワンダフルな話ではないか。

もちろん、燃費やエミッションは改善する必要があるが、その一助となったのが新型のインジェクションシステムだ。8km/h以下まで減速するとエンジンを停止するアイドリングストップの貢献もあるが、そのフィーリングはどうにも奇妙なものだった。

最高出力は8500rpmで、最大トルクは7000rpmでそれぞれ発生すると聞けば、高回転型ユニットだと思われるだろう。しかし、トルクは3500rpmで最大値の80%を発生する。なにより、最高出力は800psだ。半分しか出ていなくても、不足などあろうものか。


さらに数字から学んでみよう

このエンジンに組み合わせるトランスミッションは7速のDCTで、ギアボックスはリアにマウントされる。前後荷重は47:53と、ややリア寄りの重量配分だ。

F12は46:54だったが、ボディ構造は補強の追加などを除けば基本的に変わらない。変更点を上げるなら、フロントは電動パワステ、リアは後輪操舵にそれぞれ対応するための改修程度だ。

ボディ構造そのものの重量は、F12から60kg削減されたが、これは電気系や配管類、遮音材などの軽量化といった、サプライヤーの不断の努力もあって達成された。

しかし、強化されたエンジンや後輪操舵の追加により、車両重量は1630kgを数える。全備重量は1700kgをわずかに超え、かつて実測したF12の1715kgと同等になると推測される。

アグレッシブなルックスは、エアフローに配慮した結果だ。大きく開いたグリルを、フェラーリは「スマイル」と表現するが、その顔つきを子供が見たら、怒られているように感じるかもしれない。

2座のキャビンはドライバー重視の計器レイアウトだが、助手席前には車両情報をモニターできるクールなディスプレイが備わる。

小物入れも備わるが、使い勝手は期待しない方がいい。リアには十分なサイズのハッチがあるものの、その下のラゲッジスペースはギアボックスの発熱を受けて高温にさらされる。


■どんな感じ?

サウンドはいかに?

812はF12より遮音材を減らしたというが、エンジンをかけてみるとそれが信じられなかった。マラネロの面々は、サウンドの好ましい要素はそのままに、耳障りな部分を排除しようと望んだようだが、車内外での音量差もかなりのものだ。

キャビンにいると、V12の咆吼と破裂音は届くものの、実にスムーズで、剃刀のようにシャープな印象を受ける。これがドアを開けると、車外にはまるで大気を切り裂くような音が響き渡っているのだ。

エンジンのレスポンスは、まさにファビュラス! と快哉を挙げたくなる。ステアリングホイールに据え付けられたダイヤルの指すモードがウェットだろうがスポーツだろうが、トランスミッションがオートであろうが、エンジン回転を低く保っていようが、この上なく力強い。

ただし、そんな走り方をするのはもったいない。TdFよりスロットルのマッピングはややソフトだが、それはタングステンの方がカーボンより溶融しやすいというくらい高いレベルでの話だ。

あくまで私見だが、ここまで反応のいいエンジンは、現在の市販ユニットにはないのではないだろうか。ランボルギーニ・アヴェンタドールも鋭いレスポンスをみせるが、それと同等か、むしろこちらが上かもしれない。

つまり、812は理解の範疇を超えてショッキングで、かなり辛口だ。それでいて、洗練と熟成もまた感じられる。この、これまでで最もパワフルなフェラーリは、0-200km/hで7.9秒をマークしつつも、想像できるうちで最もスムーズなエンジンを搭載する。

フェラーリを買うのはエンジンを買うということで、ほかはおまけだ、などとよく言われる。これまではジョークだと聞き流していたが、このクルマに関してはそれに賛同を覚える部分もある。

とはいえ、シャシーもまたそれほど軽んじられるようなものではない。たぶん誰もが、ロードカーに800psなんて馬鹿げた無駄だと考えるだろう。200psのトヨタ86で十分楽しめるじゃないか、と。

しかし、走り出せばたちまちそんな考えはどこかに吹き飛んで、3速で8900rpmのレブリミッターを試したいような気分に囚われることだろう。


900psだとしてもOK?

これが912エクストリームファストなどと名乗る900psのクルマになったとしても、なんら苦労せずに乗りこなせそうな気になるはずだ。デ・シモーネが、速く走らせるのが簡単だと言っていたが、あれはあながち誇張ではない。限界を超えても、リラックスしてドライブできる。

これは、チューニングの魔力だ。812のダイナミクスは、さまざまなシステムによって高められたものである。そう言うと、これがアストン マーティンのV12モデルのようなナチュラルさや信頼性のないクルマだと勘違いされがちだ。

しかし、フェラーリのみごとな仕事ぶりにより、フィーリングは比較的自然に仕上げられ、素晴らしいドライビングが味わえる。

シートやステアリングホイール、ペダルのレイアウトもそれを後押ししている。絶妙なドライビングポジションが、容易に見つけられるはずだ。

ノーズは長く、ボディは幅広く、それはそのまま感じられる。しかし、クオーターウインドー越しの劣悪な後方視界が、苦痛や恐怖をもたらすことはない。

F12と同じロック・トゥ・ロック約2回転のステアリングは軽く、中立周辺はやや過敏だが、それにもすぐに馴れてしまう。フィールが豊かなわけではないが、フェラーリは油圧アシストでもそうだった。

ステアリングはインフォメーションがそれほど強くなく、またスムーズなインプットにも応えてくれるので、あまりリムを強く握らない方がいい。バランスを失わずに限界まで攻め込もうというなら、これが比較的質量の大きいクルマだということをゆめゆめ忘れてはならない。

そのシャシー性能や敏捷性、カーボン・セラミック・ブレーキの制動力と耐フェード性などに忘れさせられがちだが、絶対的には重いクルマだ。

DCTの変速は、おそらく世界最高レベル。ステアリングコラムから生えた操作しやすいパドルは、アップもダウンも最速と思えるシフトを可能にする。その速さは、公道でもサーキットでも、早くストレートエンドで操作したくなるほど。スムーズに利くブレーキで十分に減速して、パドルを操作すれば、素早く次々とギアが落ちていく。


ハンドルを切った感触は?

低速で鋭くターンインすると、ほんのわずかにアンダーステアをみせるが、もっと高い速度ならば、リア優勢のセッティングが、ニュートラルさを抑えて活発なコーナリングを最大限まで引き出す。

そして、コーナー出口では、どんな速度域であっても、800psのパワーがテールを意のままに振り回すことを可能にしてくれる。スーパーファストのテールスライドはクイックだが、これがコントールしやすくもあるのだ。

スロットルペダルは強く踏んだままでいい。しばらく待てば、シャープなエンジンが、車速とホイールの回転速度とを徐々に合わせてくれて、ふたたびスリップ状態に陥るようなことはない。これがターボユニットなら、タイヤ回転を維持するためのペダル操作が必要になるだろう。というのも、488GTBはもっととっ散らかりやすかったからだ。

だからといって、全てをこともなくやってのけることができると考えるのは早計だ。ドリフトの際に、ステアリングは大きく切り込むようなカウンターステアを必要とはしない。それが自然にできれば気付かされることはないだろうが、そこを見誤った操作をすると、フォローするためにクルマのシステムが総動員されることになる。

実は、今回の試乗中にそれを思い知らされることがあった。カウンターステアを当てるや、すぐさまステアリングのアシスト力が予期しないタイミングで高まったのだが、あれはおそらく、まずい操作に反応してのことだろう。その後は、またすぐに自然なフィールに戻ったのだが。

■「買い」か?

もちろん、できるものなら今すぐにでも手に入れたい。ライバルはごく少なく、しかも実力差は大きい。これだけのパフォーマンスはほかになく、これだけ気楽に攻めた走りができるクルマも滅多にない。

アストン マーティンほど自然で、ゆったりとして、アナログな走りを味わえるものではないともいえる。たとえるなら、ヴァンキッシュは家の湯船で、812はジャグジーといったところか。

どちらが好みかは人それぞれだろう。しかし、テクノロジーも経験できることも、812の方が上であるのは疑いようがない。

それは、同じクラスのどんなクルマより上であるのも確かだ。にもかかわらず、デ・シモーネに言わせれば「完璧には程遠い」ということになる。

そうかもしれないが、相対的に見れば、このレベルに達したスーパーGTカーになど、いまだかつてお目に掛かったことがない。

フェラーリ812スーパーファスト

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