豊田社長の「野性味が足りない」の意味とは
正式発表となった東京オートサロン2020のプレスブリーフィングにて、まだトヨタ自動車のマスタードライバーであるモリゾウこと豊田章男社長から合格点をもらっていないと明かされた、GRヤリス。その直後に行われた囲み会見でモリゾウ氏は「野性味がない」のだと、その意味を説明してくれたというのは、前回お伝えしたとおりである。
豊田章男社長が語るGRヤリスの不満点とは【東京オートサロン2020】
さて、それでは野性味とは一体どんな意味なのだろう? 続いてはトヨタ自動車副社長であり、またGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹氏、そしてGRヤリス開発責任者の齋藤尚彦氏に、モリゾウ氏の言葉の意味、そして今も続けられている開発の様子、さらにはプロトタイプ試乗で抱いた疑問に対する答えなど、さまざまな話をうかがったので、紹介したい。
友山氏「まだまだ課題があります。いじりはじめるときりがなく、終わりはない。どこで出すか、どこでやめるかですね」
ゴーサインが出るまで開発は続くし、あるいはその後でも継続していくものだろう。では、われわれが試乗したプロトタイプの段階から「野性味」を加えるというのは、具体的にはどんなことが行われているのだろうか。
斎藤氏「それは音だったり、あとはステアリングから伝わるフィーリングですね、まずは。モリゾウさんは五感で、あるいは第六感かもしれないですが、野性味を求められています。特に音は、ご存知のとおり法規もあるので、どの辺まで出せるのか試行錯誤しています。量産車だけでなく、サーキットやラリーという舞台に持っていったときの音も含めて、このクルマが使われるであろうシーン全体で、乗って見てもらっている最中です」
車内に聞こえる音ならスピーカーを使ってもいいが、競技車両ではそうはいかない。また、レースやラリーということを考えるなら、外に聞こえる音も大事になってくるだろう。音量ではなく音質という面で。いずれにしても、もっと特別感があるべきだという話である。
友山氏「やっぱり400万円するクルマを買って、多少それって生活を犠牲にしてる部分がありますよね、リヤがあんなに低くて、後席の居住性もよくないですよね、しかも2ドアでしょ。WRCホモロゲーションに最高のクルマをつくるということでこういうクルマにしたんですけど、そこに400万円を払ってくれる人にしてみたら、やっぱり一般の4ドア車、ハッチバック車とは違った野性味が必要だというのは、何となくわかりますよね。単純に、しなやかに速く走るというのではなくて、何か演出がいるんじゃないのかというところを、これから作り込めるものは作り込んでいくというところです」
プロトタイプ試乗で気になった
4WDなのにFFになってしまったあの問題
一方でパフォーマンスとしては、すでに目標値はクリアしているという。しかし、その部分でもやはりまだ開発は終わったわけではない。
斎藤氏「最初に立てた目標は達成していますけど、走る、曲がる、止まるの総合性能の部分で、われわれがスポーツカーの開発を20年間やっていなかったことによって、まだまだわからないことがたくさんあるんで、そこをプロのレーシングドライバーの方々に手伝っていただいています。石浦(宏明)さんはよく『もったいない』と言うんです。性能はあるのに、ここで損してるよって。そのデータを解析すると『ああここのことを仰ってるんだ』とわかって、直していく。その繰り返しです。じつは友山さん、石浦さん、大嶋(和也)さんと、年末に合宿をやったんです」
友山氏「合宿やってるんですよ、サーキットで(笑)。しかも夜の9時、10時まで走ってるんですよ、筑波で寒い中」
走りの性能の話になったところで、ひとつ聞いてみた。レポートに上げているようにGRヤリス、プロトタイプの舗装路面での走行の際に、4WDシステムのカップリングが熱をもってしまったとかで後輪への駆動伝達がカットされ、FF状態になってしまったのだ。これは一体何が起きていて、解決はされたのだろうか。
斎藤氏「実際の話をすると、前回乗っていただいたときには保護制御というのが、温度推定をしちゃってたんです。(今は)改良して、ちゃんと実際の温度を見てホントに熱い時にFFにするってことにしましたんで、そこは解決しています」
何と! そういうことだったのか…。GRヤリスの4WDシステム“GR-FOUR”は電子制御多板クラッチカップリングを使い、前後輪の回転差を検知して後輪に駆動力を配分する。ポイントは通常状態から前後輪の減速比に差をつけておくことで、後輪にも常時、駆動力を配分することができている。ただし、常時スリップしているので熱が問題になる、というわけだが、実際の温度を見て制御することで、FF状態になるのを回避できるということは、つまり本当に熱くなることはそう滅多にないということなのだろうか。
斎藤氏「ないです。ですので踏んだ量、リヤを滑らせた量で推定して『このくらいだと危ないよね』と制御していたのを、直接見ることに変えました」
友山氏「ですが発表のとおり、ROOKIE RACINGがGRヤリスでスーパー耐久に出るんです。ここではもっと過酷な状況が出てくるかもしれません」
まずはひと安心と思ったら、開発陣にとっては、まだまだ油断できる状況ではないようだ。何しろそのマシン、厳しい厳しいテスターであるモリゾウ氏がステアリングを握る可能性が高いのだから。
そう、GRヤリスのテストは市販直前の今もまだまだ続いている。きっと市販が開始されてもなお、カイゼンはエンドレスに行われていくに違いない。
〈文=島下泰久〉
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まあ、ウチにはランエボがあるから、慌てて飛びついたりする必要はないが、いずれは乗ってみたいねえ。