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トラックやバスが「ドラム式」を採用する理由は? 時代遅れなブレーキがもたらすメリット

掲載 更新 53
トラックやバスが「ドラム式」を採用する理由は? 時代遅れなブレーキがもたらすメリット

制動力はドラム式のほうがディスクより高い

 現在のクルマのブレーキシステムを大別すると「ディスクブレーキ」と「ドラムブレーキ(リーディングトレーリング)」の2種類となる(回生、リターダー、空気抵抗等を利用したタイプもある)。昔の乗用車はドラム式が主流だったが、現在ではフロントにディスク、リヤにはディスクかドラム、あるいは前後ともディスクブレーキを採用するのが定番だ。

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 リヤは通常のブレーキだけでなくパーキングブレーキとしても使われる。車重の大きい車種では、ディスクブレーキの中にパーキング用のドラムブレーキを組み込んだ「ドラム in ディスク」が主流。このように現在の乗用車は、ディスクブレーキが一般的だが、ドラムブレーキも未だに根強く残っている。本稿では、あえて「ドラムブレーキ」に焦点を当ててメカニズムなどを紹介したい。

ディスクのメリットは放熱性とコントロール性

 そもそもブレーキというのは、速度のエネルギーを摩擦熱に変換して大気解放することで制動力を生む装置。ブレーキを使うほど熱が発生して、ブレーキまわりの部品温度が上がってくる。その熱があまりに高くなると、摩擦が起きなくなりブレーキが効かなくなってしまうのが「フェード」や「ペーパーロック」といった現象。ディスクブレーキはディスクやパッド、キャリパーといったパーツが露出しているので外気への放熱性が高いため、繰り返しのブレーキ使用でもそれに耐えうることが可能で、コントロール性も良い。

 一方ドラムブレーキは、桶のような形のドラムの内側に対してライニングという摩擦材を突っ張らせて摩擦力を生み出す方式。ドラムのメリットは摩擦材の面積を広く取れるうえに、リーディング側と呼ばれる方向が回転方向に食い込んでいくセルフサーボ効果によって、より強力な制動が発揮できる。

 手動式や足踏み式のパーキングブレーキでは、フットブレーキで使われるブースター(倍力装置)が働かないので、単体の制動力を上げる必要があるためドラムブレーキが採用されている。それが車重の重い4輪ディスク車でリヤブレーキが”ドラム in ディスク”となる理由だ。

 また、ドラム式ではライニングが強力なリターンスプリングで基準位置に戻されるようになっているので、ブレーキを使ってないときの摩擦(引きずり)が非常に小さいのも特徴。走行時の抵抗にならないという点も見逃せない。

 反面、ディスクブレーキではパッドがローターに軽く接触していることがあるので、わずかだが抵抗になり厳密にいえば燃費悪化の原因に。もっとも、近年はパッドを戻りやすくする工夫が進歩しており、ドラムとの違いが分からないほどスムーズに回るようになっているが、経年劣化や汚れの蓄積あるいはサビで戻り側の動きが悪くなることで回転抵抗が出やすい傾向があるのも事実だ。

 では、コスト面ではどうだろうか。ディスクブレーキに比べるとドラムは板金プレス製のパーツで構成されているので部品点数や組み立ての工程も多い。しかしながらトータルでのコストは安くできる。デメリットとしては、通気性が悪いので熱がこもりやすく、水が入ってしまうと抜けにくいために制動力が復帰しにくいこと。さらには、セルフサーボ力の影響を受けやすいため、ディスクに比べるとコントロール性が劣る一面もある。

大型トラックはドラムブレーキが主流

 それでは、トラックやバスなどの商用車はどうなのだろうか。日本の中型・大型トラックではほとんどの場合、前輪も含めすべての車輪がドラムブレーキとなっている。その理由をトラックメーカーや部品メーカーにたずねてみたが、最も回答の多かった理由は「減りにくいから」という。

 物流のプロが使う商用車は稼いでナンボの世界。つまり、ひたすら稼働し続けることが大切なので、法的な点検は行なうとしてもメンテナンスによるダウンタイムは、極力避けたいし短くしたいというニーズが強い。その点でドラムブレーキはライニングの面積が大きいので、ライニングの単位面積あたりに掛かる負担が小さく摩耗が少なくなるのだ。

 トラックで同様の仕事をディスクブレーキで行なうとパッドの面積が小さいので、同じ制動力を得るためには素材の摩擦係数を上げるか、強く押し付けることが必要となり消耗しやすくなる。構造としてはディスクの方がシンプルなので、作業時間は短縮できる可能性はあるが、そもそもの摩耗が減らせることが大事というわけだ。

 小型トラックではフロントあるいは4輪にディスクを採用する車種もあるが、フロントではキャリパーを2つ搭載するなどしてパッドの接触面積を増やす事例もある。

 もちろん、大型でもディスクにトライした例もあり、かつては「ふそう」が採用したこともあるが、イニシャルコストがやや高くつくこともありドラムに戻している。

 しかし、最近では材質が良くなり耐久性が上がり、イニシャルコスト面でもドラムに拮抗してきたこともあるのかUDトラックスでは総輪ディスクとなっている(Volvoグループのためか?)。実際、高速走行が多い欧州ではディスクを採用するメーカーが増加しているそうだ。

 ディスクは本質的にコントロール性が良いという特性があり、現在は電子制御が洗練されてきているので、リターダーや排気ブレーキと摩擦ブレーキの統合制御を行うことも可能となってきている。今後はネガ部分が解消されつつあるのでディスクが増えてくるかもしれない。

取材協力:田中オートサービス

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