郊外や地方都市に住まうのであれば話は別だ。しかし東京あるいはそれに準ずるような都市に住まう者にとって、「実用」を主たる目的にクルマを所有する意味はさほどない。
そんな状況下で「それでもあえて自家用車を所有する」というのであれば、その際は何らかのアート作品を購入するのに近いスピリットで臨むべきだろう。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTV
速いGTカーを意味するGTV。現在は途絶えてしまっているものの、アルファロメオ伝統のネーミングであり、先代はアルフェッタGTV。
明確な実益だけをそこに求めるのではなく、「己の精神に何らかの良き影響を与える」という薄ぼんやりとした、しかし大変重要な便益こそを主眼に、都会人の自家用車選びはなされるべきなのだ。
そう考えた場合におすすめしたい選択肢のひとつが、日本では1996年から2006年まで輸入販売されたイタリアンクーペ、アルファロメオ GTV。なかでも、古典的なV型6気筒エンジンを搭載したグレードである。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTVアルファロメオGTVは、イタリアのカロッツェリア「ピニンファリーナ」に在籍していた自動車デザイン界の鬼才、エンリコ・フミアの筆による2ドアのスポーティクーペ。フミアは、ほかにランチア イプシロンなどの知られざる名作や、一般的にも有名なところでは4代目スバル レガシィのデザインも担当している。
そのフミアによるアルファロメオ GTVは、直列4気筒エンジンを搭載するグレードと、V型6気筒エンジンを搭載するグレード群とに大別できる。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTV
全長4290×全幅1780×全高2540mmの2+2スポーツクーペ。こうして改めてサイズを見直すと、昨今のクルマがどれだけ肥大化しているかがよくわかる。
V型6気筒も3世代に分けることができ、ひとつは、最初に登場した「2LなのにV型6気筒」というやや特殊な方式を採用した世代。これはハッキリ言って大したエンジンではなく、今や中古車の流通もほぼ皆無ということで、無視するに値する。
お次に登場したのが「3LのV型6気筒」。これは古くからあったアルファロメオ謹製V6ユニットをほぼそのまま使ったもので、いわゆる官能性においては最高レベルだと断言できる。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTVその次に登場したのが「最終型」にあたるグレードで、これは3.2Lに拡大されたV型6気筒を搭載した。こちらも素晴らしい大官能エンジンだが、環境対策の観点から触媒(排ガス浄化装置)の数を増やしたため、中期3Lと比べるとならばその官能性は微妙に劣る(と筆者は思っている)。
欠点だらけのクルマ?以上がごくごく簡単な「アルファロメオGTVというクルマに関する説明」なわけだが、アルファGTVはトヨタ カローラのような万人向けの車種ではないため、当然ながら「実用車として考えるならかなりイマイチな点」も多々ある。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTV
トランク容量も少なく、大して荷物は乗らないと考えて良い。特に長いものは苦手。荷物置き場程度にしか使えない後部座席といい、まさに趣味のクルマだ。
まずは燃費だ。もちろんこれは乗り方によっても大きく変わるわけだが、まあ「悪い」と思ってほぼ間違いない。ちなみに筆者が1999年式のアルファロメオGTV 3.0 V6 24Vを所有していた際の実燃費は「おおむね6~7km/Lぐらい」であった。
また「エンジンオイルの消費量」もかなりのモノだ。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTV購入店からは「走行3000kmごとにエンジンオイルを交換してくださいね」と言われていたのだが、筆者は「ま、ちょっとぐらい無視しても大丈夫だろう」との甘い考え=一般的なクルマにおける常識に基づき、3500kmほどをノー交換で過ごしたことがある。
するとある日、始動直後のV6エンジンからてきめんに「ガラガラガラ……」という決して小さくはない異音が聴こえてきた。「ヤバい!」ということであわててオイルを補充したうえで工場に行き、エンジンオイルを交換したことで事なきを得たが、まずまず肝を冷やした経験ではあった。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTVつまり、「エンジンオイル代もけっこうかかる」ということだ。
そのほか、タイミングベルト(バルブとピストンのタイミングを合わせるためのゴム製ベルト。これが走行中に切れるとエンジンが深刻なダメージを受ける)の交換サイクルも非常に短い。
取扱説明書には「タイミングベルトの交換時期は5年または10万kmごと」と記されているが、実際はもっと短い期間で切れてしまうため(イタリア人……)、多くの専門工場では「5万kmごと、できれば4万km以内で交換を」と推奨している。ちなみに、フツーのクルマであれば10万kmは交換不要な場合が多いパーツなのだが。
またそのほか「小回りがぜんぜん利かない(前輪の切れ角が妙に少ない)」とか、「後部座席はいちおうあるが、ポルシェ911のそれと同じぐらい役に立たない(狭いため、荷物置き場ぐらいにしか使えない)」など、こまごまとした問題点も多い。
歓び溢れるセクシーなフィール以上の各種難点をお読みになった各位は、きっとこう言うだろう。
「アルファロメオGTV……ダメじゃん!」と。
確かにそのとおりだ。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTV
某中古車情報サイトでの車両本体価格の相場は約98万円。下は35万円から、上は158万円といった状況だ。当時の400~500万円程度の車両価格や、今は味わえないエンジンフィールといった点を考えると、お買い得と言えるだろう。
元オーナーとして変な自信をもって言わせてもらうが、V型6気筒エンジンを搭載したアルファロメオGTVは「わりとダメなクルマ」である。もしも1960年代の少年マンガ風のあだ名を付けるのであれば、思わず「丸出だめ夫」と命名してしまいそうだ。
だがそれは、アルファロメオGTVというクーペを「ほぼ毎日使う実用車」としてとらえた場合の話である。
毎日のように乗るのであれば、極悪とまでは言わないが「まあまあ悪い燃費」のためハイオクガソリン代が果てしなくかかり、3カ月もしないうちにエンジンオイル交換の必要性が生じ、狭い路地で何度も切り返すハメになるアルファロメオGTVというクルマを、人様に勧める理由はひとつもない。
だが貴殿はひと月に何回、自分のクルマを稼働させているだろうか?
この問いに対する答えが「まあ10回は軽く超えますね」というのであれば、もちろんアルファロメオGTVなど選ばないほうが身のためだ。
だが、都会に住まう多くの人は「うーん、週に一度か二度かな? ぜんぜん乗らない週末もあるし」ぐらいの答えになるのではないだろうか?
もしもそうであるならば、3Lまたは3.2LのV型6気筒DOHCエンジンを搭載するアルファロメオGTVは圧倒的な「快楽発生装置」になる。
環境のことなど(ほとんど)考えちゃいなかった時代のエンジンをそのまま搭載したため、ガソリンやオイルを食う代わりに、燃料と空気の爆発がもたらすフィールはひたすらに「セクシー」だ。そこには生の歓びあるいは性の歓びのようなものすらある。
アルファロメオ GTV |Alfa Romeo GTV
乗り味はこの時代のアルファロメオらしくエンジンフィールをはじめ非常に官能的。細かいことを気にせず、ピュアに走りが楽しめる。現代にはない味つけといえるだろう。
またあるいは「フェラーリのV8エンジンに近い」とすら形容できるかもしれない。もちろんフェラーリ製V8のほうが生の歓びも性の歓びも圧倒的に強烈なわけだが、「それに近いものがある」とは確実に言えるのだ。
だからこそある種の人限定で、ある種のアート作品として、GTVを強く推奨したい。
まあおとなしめに走っていてもガソリンもオイルも食うし、丁寧に扱っていても、あちこちが順次壊れるだろう(消耗部品の交換タイミングが順次やってくるだろう)。
だが、それでもいいではないか。
どうせたまにしか乗らないのだから。
修理期間中も、電車等を使えば、当座の問題は解決できるのだから。
文・伊達軍曹 写真・フィアット・クライスラー・オートモービルズ 編集・iconic
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