■最高速324km/hは市販車最速、いまなお生きるスーパーカーの金字塔
1980年代後半、日本経済は絶頂期を迎えました。いわゆるバブル経済です。時を同じくして、フェラーリから創設40周年を記念したモデル「F40」が発表されました。
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俗に「走る不動産」と呼ばれ、バブルを象徴するスーパーカーとなったF40とはどんなクルマだったのでしょうか。
F40は、1987年9月のジュネーブモーターショーで発表されました。ピニンファリーナのデザイナーであるレオナルド・フィオラバンティ氏の手によるデザインは、それまでのフェラーリとも違う前衛的なものでありながら、明らかにこれまでのフェラーリの延長線のうえに存在するものであり、発表から30年余りが経過したいまでも多くの人々を魅了してやみません。
心臓部には3リッターV型8気筒ツインターボエンジンを搭載し、478馬力ものパワーを生み出します。当時としては最先端の複合素材や構造部接着剤を使用したことで達成した1250kgという車重の恩恵も受けて、その最高速は324km/hにも達しました。
当時、最高速300km/hオーバーとすることがスーパーカーの証とされていましたが、自動車メディアなどによるテストで、実際に公称値を叩き出したクルマは、F40以外にはそう多くありません。
F40は、「そのままレースに出られる市販車をつくる」という、創始者のエンツォ・フェラーリの夢を具現化したモデルでした。
創始者の教えを忠実に反映させた結果、F40は市販車でありながらまさにレーシングカーのような、非常にストイックなモデルとなります。
エアコンこそ用意されていたものの、内装と呼べるようなしつらえはなく、シートもリクライニングのできないバケットシートでした。
極めつけは、ドアノブすら用意されておらず、室内から外に出るときはドアノブ代わりのひもを引っ張らなければならないほど、徹底した軽量化が図られていました。
いまでこそフェラーリをはじめとする多くのスーパーカーでも、電子制御の介入によって普通に走行することができますが、F40の場合はそうはいきません。
ステアリングにもブレーキにもパワーアシストはなく、それに加えてクラッチも非常に重いため、運転するのに相当な技術を要しました。
後述するように、その価格も人を選ぶものでしたが、それ以上に、卓越した運転技術が必要なクルマだったのです。しかし、そうしたじゃじゃ馬っぷりもまた、F40を神格化させた要素のひとつといえるでしょう。
■定価は4650万円、しかし流通価格は2億5000万円
F40が発表された1987年、そして最終モデルがラインオフする1992年、この5年あまりの期間は、日本の経済が絶頂期であったバブルの時代と重なります。
超高級車の販売も絶好調で、フェラーリはソレをけん引する存在でした。当然、4650万円という価格が提示されたとしても、多くの日本人がF40に飛びついたようです。
F40は当初、400台程度の生産が予定されていましたが、増産に次ぐ増産を重ね、最終的には1351台が生産されました。スペチアーレモデルとして先代の288GTOが272台、後継のF50が349台しか生産されなかったことを考えると、F40がいかに人気があり、フェラーリがそれに応えたかということがわかります。
1351台のうち、日本に正規輸入されたのは59台とされています。しかし、実際には並行輸入も含めて相当な数のF40が日本に生息していたと考えられています。
正規輸入での納期を待つことが耐えられず、多額の費用を上乗せして海外から並行輸入されたF40は、2億5000万円もの価格で取引されていたといわれています。
このような過熱ぶりは一般社会でも話題になり、当時不動産投資で財を成した人が多かったという世相を反映して、F40は「走る不動産」と呼ばれることになりました。
バブル崩壊後は、日本に生息していたF40の多くが売却され、欧米を中心とする海外へと流出していきました。いまでも国内外で根強い人気のあるモデルのため、オークションなどでは1億円以上の価格で取引されるほか、レース仕様により軽量化し、チューニングされた「F40 コンペティツィオーネ」などは2億円以上の価格がつくこともあるようです。
このように、バブル期を象徴するスーパーカーであるF40には、さまざまなな逸話が存在します。もっとも有名なもののひとつは、当時フェラーリを扱う中古車販売店の経営者の男性が、F40で高速道路上を300km/hを超えるスピードで走行し、その様子をビデオに収録し、それが物証となって逮捕されるという事件でした。
その後の取り調べで、実際には300km/hで走っていなかったと証言すれば有罪にはならない可能性があったといわれていますが、その男性はフェラーリは300km/hオーバーで走れるということを強く訴え続けたために、有罪判決となったことが話題となりました。
また、その運転の難しさから、事故が話題になることも少なくありませんでした。有名実業家が社有車として購入したF40が峠でクラッシュしたり、自動車評論家が試乗していたF40が崖から落ちたりと、真偽が定かでないものも含めれば、多くの逸話が存在します。
現在でも多くのブランドからハイパフォーマンスカーが発表されています。それらのクルマは、性能面を比較すればF40の比ではありませんが、F40ほど社会現象となり、神格化されたクルマはないように思えます。
「F40現象」は、当時の技術の粋を集めてつくられた最高のクルマと、世界に例を見ない経済成長期に突入していた日本という国の、両方が絶妙に絡み合った結果起こった、奇跡の産物なのかもしれせん。
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