2005年に日本市場に導入されたプジョー407/407SWは、先代にあたる406からの大胆な変身で注目を集めた。当時、ドイツのプレミアムブランドのライバルたちはこぞってボディを大型化していたが、プジョーもまたボディの大型化、プレミアム化を推し進めていた。この戦略は日本でどう受け入れるのか、従来からのプジョーらしさ、新しいプジョーの個性はどう表現されているのか。Motor Magazine誌で行われた当時の試乗でも、そこに注目している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年7月号より)
406と比較してボディサイズが大幅に拡大
プジョー407がいよいよ日本に上陸した。そのネーミングからも406シリーズの後継モデルであることが明らかなこのモデルは、プジョーが「SW」と呼ぶガラスルーフ式のステーションワゴンと4ドアセダンという2タイプのボディに、2.2Lの直列4気筒ユニット、もしくは3LのV型6気筒ユニットを搭載、というバリエーション展開で日本に導入される。
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それにしてもこのモデル、ライバルたちに比べてもかなりユニークなプロポーションの持ち主であることが、まずは大きな特徴と言えそうだ。
407の場合、フロントシートの位置を基準に考えると、そこからボディ前端までの寸法が大きめ。すなわち全長に対するシートの位置が相対的にかなり後ろ寄りという、FF車としては少数派のレイアウトを採用する。その一方で、キャビン部分のレイアウトを見ると、ウインドシールド下端のカウルポイントはフロントシートからは簡単には手が届かないほどに前進。すなわち、「シート位置基準では前寄りデザインのグリーンハウスが、全長の中では後ろ寄りにレイアウトをされている」という、随分と個性的なパッケージングを実現させている点が目を引くことになる。
セダンで85mm、ワゴン(SW)で35mmという406に対する全長の拡大幅に対し、全幅はセダンもワゴンも60mmプラスの1840mmという値。端的に言って、主に幅方向がここまでのサイズになると、もはや日本のさまざまなシーンの中で気軽に乗り回せるとはちょっと言い難い印象だ。
確かに、同様にボディサイズ拡大を続けるライバルたちへの対抗策という観点では、「大きくすることもやむなし」という判断は妥当なのかも知れない。けれども、日常的な使い勝手を低下させるほどの全幅拡大は、個人的には何とか回避して欲しかった事柄だと思えてしまう。
そもそも、狭いスペースへの駐車が日常であるフランスという国生まれのクルマには、ドイツ勢が仕掛けたボディサイズの拡大路線には呑みこまれて欲しくはなかった。5.8mとかなり大きい最小回転半径を含め、407の雑踏シーンの中での使い勝手は、残念ながら決して一級品とは言えないものだ。
もう一点、407には日常的に付き合う上でネックと感じられるポイントがあると報告しなければならない。それは運転視界の中に鬱陶しく入り込んでくる「Aピラーが生み出す死角」だ。
実はこれは、狭い路地への右左折シーンなどよりも、比較的大きなR(曲率)の右コーナーで気になる現象なのだ。角度の大きな左右方向へは、ドアミラー前方部分の三角窓ガラスから有効な視界が確保できるものの、浅い角度の左右には太いAピラーが生み出す死角が気になる場面があるのだ。ドライバーの着座位置に対してAピラーが前出しされたレイアウトの場合、その死角がどうしても常に運転視界の中に入り込んでしまう傾向が強いもの。この407の場合も、やはりそうした印象が強めなのはちょっと残念だ。
ところで、フェンダー側へと大きく回りこんだ切れ長型のヘッドライトと、大胆なまでに大きなエアインテークという組み合わせが生み出す新世代プジョー車の顔付きも、当然ながら物議を醸し出すひとつの要因になるだろう。確かに「誰にも似ていない」というオリジナリティの強さは満点だ。存在感という点では誰の目からも高得点をマークすに違いないし、当然ながら、あれだけ大きく口を開けば冷却エアの導入という点でも効果は絶大だろう。
けれども、そうしたフロントマスクが生み出す表情は、見方によっては「酸欠の金魚」(?)のようでもあり、少々デリカシーに欠ける感は否めない。いずれにしても、これまでのプジョー車の顔付き以上に「好き・嫌い」がハッキリと分かれそうなのが、大型インテークを軸とした新時代のプジョー車の顔付きであるとぼくは思う。
高級感に溢れる室内、シートの出来は特筆もの
ところで、407のインテリアが生み出す雰囲気全般は、「406のそれとは比較にならないほどに高質で、もはや高級というフレーズを使ってもおかしくないもの」と表現をしたい。
最上部にバイザー付きの情報ディスプレイを載せた「日本仕様専用のデザイン」というセンターパネル部分にだけは、若干ながらプラスチッキーなテイストが付きまとう。が、メーターパネルやダッシュボード、ドアトリム、コンソール部分などは、もはやそうしたところにチープさが目立ったひと昔前までのフランス車とは、全く別次元の上質な仕上がりを感じさせてくれるもの。
特筆すべきは大型サイズで厚みも十分な、いかにも多くのコストをかけて作り込まれた感じのシートの仕上がり。短時間のテストドライブでもその実力の片鱗が感じられたのだから、半日、そして1日と走り続けた場合にはさらにその真価のほどを味わわせてくれるに違いない。
ちなみに、セダン/ワゴンともにその絶対的な居住空間は、大人4人に十分なもの。ただし、フロントシート下への足入れ性が今ひとつなので後席着座時のレッグスペースは期待値をやや下回る結果にはなった。
シャープな回頭性とストローク感ある走り味
6気筒エンジンとの組み合わせで乗ったセダンの走り味は、やはり406とは別格の上質感・高級感が印象に残るものだった。
3LのV6ユニットは、3500rpm付近から上でさらに1段増しの活発さを発するというキャラクターの持ち主。と同時に、アイシンAW製6速ATとの組み合わせが実現したことで、スタートの瞬間からの加速力も十二分だ。静粛性の高さも期待を上回るレベル。すなわち、その動力性能では407というよりも、もはや「507」と呼びたくなるくらいのゆとりに満ちたテイストを演じてくれることになった。
ストローク感に富んだフットワークのテイストも、やはり上質感あふれる走りの雰囲気を盛り上げてくれる。そんなしなやかさを演じつつも、ステアリング操作に対するロールは小さく、シャープな回頭感を実現させているのはこのクルマの特徴だ。
このあたりのテイストには「9種類のプログラムから最適なものを自動選択する」という3Lモデルには標準装着(2.2Lモデルには設定はない)の「電子制御可変減衰力ダンパー」の効果も大きいはずだ。唯一、コーナリング中に段差を横切ったりした際のキックバックが大きめである点が惜しまれる。
一方、2.2Lの4気筒エンジンで乗ったSWも、基本的な走りのテイストはやはりそんなV6セダンと同様と言える。もちろん、絶対的な加速力はV6モデルに明確に劣るし、4速ATゆえシフトが行われるたびにタコメーターの針も大きく踊ることにはなってしまう。が、それでも常用シーンでアクセルペダルを床まで踏みつけるような必要性に迫られることはそう頻繁にはあり得ないはずだ。そのフットワークの印象は、3Lモデルよりもやや多くのロールは許すものの、回頭感自体はむしろ軽快。これは、およそ70~80kgにはなると想像できるフロント荷重の小ささゆえと考えても良いだろう。
ところで、セダンよりも全長が90mm増しとなるSWのボディがそのラゲッジスペースに搭載可能とするのは、後席使用時で489Lから702L。後席アレンジ時で最大1654Lというボリュームの荷物。左右のテールランプ内側で開閉するテールゲートに加え、強く前傾したガラス部分も独自に開閉できる「ガラスハッチ方式」を併用するのもこのボディの特徴だ。
もっとも、セダンの場合もそのリアシートがダブルフォールディング方式でアレンジ可能なために、相当量の積載能力を備えていることは付け加えておこう。
際限知らず(?)で拡大される全幅や、あまりにも大胆なエクステリアデザイン、パッケージングに、407に対して個人的には疑問符を与えたくなる部分も皆無とは言えない。けれども、並いる強豪ライバルたちに一矢を報いるべく、そんなライバル以上に大胆な手法を採らざるを得ないというのも、今のプジョーというブランドが置かれた現状なのかも知れない。
この407というモデルが406と同様、いやそれ以上のクリーンヒットを飛ばすことができるか否かの解答は、もう間もなく明確になるはずだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2005年7月号より)
プジョー407 2.2(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4685×1840×1460mm
●ホイールベース:2725mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:2230cc
●最高出力:158ps/5650rpm
●最大トルク:217Nm/3900rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:360万円(2005年当時)
プジョー407 SW エグゼクティブ3.0(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4775×1840×1510mm
●ホイールベース:2725mm
●車両重量:1720kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2946cc
●最高出力:210ps/6000rpm
●最大トルク:290Nm/3750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:450万円(2005年当時)
[ アルバム : プジョー407/407SW(2005年) はオリジナルサイトでご覧ください ]
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