■ポルシェは「カイエン」で掴んだ成功体験を再びつかめるか
ボルシェが鳴り物入りで発表した「タイカン」。ポルシェとして初めて手掛けたEV(電気自動車)です。正直なところ、古くからのポルシェファンからは「ポルシェでEVといわれても、なんだかとっつきにくい」と、違和感を持たれるかもしれません。
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はたして、タイカンは今後、売れ筋商品になるのでしょうか。
そもそもポルシェといえば、RR(リアエンジン・リア駆動)の911シリーズにおける水平対向エンジンをイメージする人が多いでしょう。
それが2000年代以降、北米市場でのプレミアムブランド系SUVブームに連動した「カイエン」を発売しました。カイエンには水平対向エンジンが搭載されておらず、エンジンの搭載位置も一般的なSUVと同じフロントとなっています。
当時、筆者(桃田健史)はアメリカ各地でカイエンに関する取材をしています。一部には「ポルシェでSUVといわれても、なんだかとっつきにくい」という声があったものの、アメリカでは絶対的なブランド力を誇る「ポルシェ」とSUVブームが見事に相まって、カイエンは大成功を納めました。
カイエン導入によって、ポルシェの世界全体の売り上げは倍増したのです。その後、SUV路線はよりコンパクトな「マカン」に継承されています。
こうしたポルシェブランド効果は、SUVのみならずEVでも効力を発揮する可能性があります。
その場合、やはり最初に火がつくのはカイエンと同じくアメリカ。次いで、国としてEV政策を強く推進している中国になるでしょう。
それを見越して、タイカンの世界同時発表も、本国ドイツではIT系企業が集積するベルリンを中核として米中を含む3か所体制になったのだと思います。
ただし、カイエン導入時と今回のタイカンでは、ポルシェの販売戦略に大きな違いがあります。
■直接のライバル「モデルS」に勝つのは確実とみられる理由とは
カイエンの場合、BMW「X5」、メルセデス「ML」(当時)、キャデラック「エスカレード」、ランドローバー「レンジローバー」、さらに日系プレミアムブランド(レクサス、インフィニティ、アキュラ)のSUVなど、ライバルとなるモデルが数多くいました。
一方、タイカンのライバルはただひとつ。テスラ「モデルS」です。
2018年2月にドイツで開催されたEV向け電池の国際会議で、筆者はポルシェのEV開発担当者とじっくり話をしました。彼はダイムラー(メルセデス)のEV開発部門からヘッドハンティングされて、当時ポルシェに入社して間もないといっていました。
当然ですが、タイカン開発ではモデルSを徹底的に調べ上げています。具体的には、外装デザイン、最高速度や加速などの動力系性能、コネクティッド技術を駆使したユーザー向けのIT系サービスなどです。
そのうえで、テスラにはないポルシェとしての独創的なEV技術の投入が不可欠です。
それが、800Vの超高速・高圧急速充電です。ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッドなど内燃機関を持つパワートレインと比べて、EVがかかえるもっとも不利な条件は、充電時間が長いことです。
ガソリン車なら数十秒間で満タンになりますが、EVは家庭でフル充電すると一晩、また急速充電でも30分間以上はかかります。
こうした弱点を解消するため、ポルシェでは一般的な急速充電(400V)の2倍の電圧による充電を実現しました。これにより、単純計算では充電時間は400V充電と比べて半減します。例えば、急ぎの時は5分間充電で100km走ることができます。
これは確実に、モデルSに対するアドバンテージになるでしょう。
ただし、800V対応には充電ケーブルを水冷化して発熱を抑える専用の充電器が必要となります。専用充電器がどこまで普及するのかが、気になるところです。
こうした充電時間短縮をウリに、タイカンはグレードラインアップや販売価格もモデルSを意識して設定されています。
アメリカでは、ユーザーが別のプレミアムブランドに浮気するケースが多く、フルモデルチェンジについて当面予定のないモデルSから、タイカンに乗り換える富裕層はかなりの数に上るのではないでしょうか。
また、欧州のプレミアム系カルチャーを好む中国の富裕層にとっても、タイカンはステイタスシンボルとしては手軽な1台になるはずです。
こうした米中のタイカンブームが日本に上陸する可能性もあります。
プレミアムEVの真打ちとなるタイカン。その動向に今後も注目していきたいと思います。
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