縞模様や唐草模様、渦巻き模様などの白黒の迷彩柄で外観をカモフラージュさせた新型車が、サーキットやそのコースを模したテストコース、あるいは一般公道でテスト走行している写真を、雑誌やインターネットで見かけることがあるのではないでしょうか。スポーツカーはもちろん、SUVやセダン、ミニバンなど、およそ限界走行する機会が少なそうなクルマでも、カモフラージュさせてまでサーキットで開発車を走らせるのには、どんな理由があるのでしょうか。
元メーカー開発者の吉川氏に、その理由と狙いを聞きました。
文:吉川賢一 写真:トヨタ
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■「シミュレーション」だけでは作れない事情
クルマの走行性能や安全性を確保するためには、個別コンポーネント(部品、構成要素)の動きだけではなく、車両全体として、それぞれのコンポーネントが正しく連携動作することを確認する必要があります。そのためには、実際に走行して確かめる必要があり、これはどんなにシミュレーション技術が進化したとしても欠くことは出来ない作業です。
トヨタは愛知県の豊田市と岡崎市にまたがる広大な敷地に下山テストコース(正式名称: Toyota Technical Center Shimoyama )を設立。今年(2019年4月)に一部竣工、オープンした。ニュルブルクリンクを模したコースがあるという。総工費3300億円、すべて完成したら(2023年予定)3300名のスタッフが開発に従事することになる
まして、昨今のクルマは、電子制御などで年々複雑化しており、さまざまな運転支援システムも搭載が進む中、複雑化の傾向は、さらに加速しています。こうした中、実車を使った走行実験は、むしろ重要性が増しているといえるのです。
■開発車をサーキットで走らせると、なにがわかる?
有名なドイツのサーキット・ニュルブルクリンク北コース(通称:ニュル)で開発車を走らせ、「FF最速!」とか「市販車のラップタイム更新!」といった話題を目にすることがありますが、メーカーは、決して、ラップタイムを競うために開発車を走らせているのではありません。
たしかに、ライバルよりもいいタイムが出れば宣伝になり、同時にクルマの性能の高さをアピールすることもできます。しかし、これが開発車をサーキットで走らせる、本来の目的ではありません。
ニュルブルクリンクでFF最速タイムを記録した現行型のシビックタイプRのテスト時カット
サーキットなどを利用してクルマを全開で走らせるということは、日常生活で走らせるのとは比較にならないほど、車両に高負荷をかけることができます。ブレーキ、足回り、シャシー、エンジンすべてにおいてです。
たとえば、前述のニュルブルクリンクは、大小172のコーナーを始めとして、バンプやアンジュレーション、ジャンピングスポットなどさまざまな路面変化をもつサーキットです。世界中の路面コンディションが集約されているといわれており、「自動車開発の聖地」として、世界中の自動車メーカーが利用しています。このニュル1周(約21km)を全開で走行すると、一般道の2,000~3,000kmに相当する負荷がかかるそう。
すべてのクルマが、この過酷なニュルでのテスト走行が必要なわけではありませんが、こうしたサーキットを全開走行することで、コンピューターシミュレーションでは洗い出せなかった車両の細かい挙動や、各部品の熱害、制御システムの誤作動を確認することができるのです。
■「いい車を作るため」にサーキットを走らせる
こうして、自動車メーカーが作ったクルマは、ユーザーの手に渡った後、さまざまな条件のもとで使用されることになります。
渋滞の多い道を頻繁に走る、高速道路をおもに使用している、未舗装路、うねった道などなど、国や生活様式によって、クルマの使われ方は変わります。
2万点といわれる部品数それぞれが、組み合わさることで(単体の時とは違う動き方で)作動する。組み合わさった時にどう動くかを入念にチェックするために、自動車メーカーはテストコースやサーキットで走らせる
自動車メーカーは、販売する車がどんな状況で使用されても「安全」であることを目指しています。サスペンションの上下荷重やブレーキ、エンジンの負荷について、普段の使用状況をはるかに超える部分で実車検証ができているからこそ、どの速度域でも安心して乗れる「良い車」を作ることができるのです。それはスポーツカーでも、SUVでもミニバンでもコンパクトカーでも同様です。
■まとめ
サーキットでの走行実験には、膨大なコストと時間がかかります。それでも、各自動車メーカーは、「安全でいい車」を開発するために、開発車両のサーキット走行をしているのです。
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