2018年2月、中国政府はNEV(新エネルギー車)に搭載する2次電池について法改正を行った。最大の変更点は「もう国は関知しない」である。NEVとして認められているのはBEV(バッテリー電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池電気自動車)の3タイプだ。どれも電動車であり2次電池=繰り返し充電・放電ができる電池を積む。中国政府は国内の車載用LiB(リチウムイオン2次電池)製造企業を保護し、LiBを中国の「特産品」にしようとしていた。政府が認可した2次電池製造企業をホワイトリスト(白名単)に掲載し、海外の自動車メーカーに対し「リスト掲載企業から2次電池を購入しないNEVには補助金を支給しない」と宣言したのだ。ところが、2018年2月に突然、方針を転換した。中国政府の真意はどこにあるのか。
ホワイトリストの管理が中国政府の行政官庁である中華人民共和国国務院傘下の工業和信息化部(工信部)から自動車業界団体である中国汽車工業協会(中汽工)へ移管されたのが2018年2月。このとき同時に、安定した量産が可能であることを世の中に示すための「生産能力規定」が廃止された。2次電池生産の大企業を育てる目的で中国政府はこの規定を定めたが、これがが廃止された。代わりにR&D(研究開発)部門の必須人員は「従業員の10%以上あるいは100人以上」から「従業員の15%以上または150人以上」へと引き上げられた。「R&D体制を充実させなさい」というお触れであり、「低価格でプレミアムなLiBを開発しなさい」との指示とも受け止められる。
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この新しい法律のもとで公表された2018年3月時点でのホワイトリストには、最大手である寧徳時代新能源科技(CATL)の名前が掲載されていなかった。その代わりサムスングループの三星環新動力電池、LG(金星)グループの南京楽金化学新能源電池、SKイノベーション傘下の北京電控愛思開科技の韓国資本3社がリストアップされていた。それまでのホワイトリストとよく比較すると、かなりの違いがあった。韓国は中国企業の電池独占を猛烈に非難し「韓国系企業をホワイトリストに掲載しないのはおかしい」と言い続けてきた。うるさい韓国を黙らせるためにホワイトリストに追加したのか。中国にある韓国系合弁3社も半分は中国資本だから認定してもいいし判断したのか。あるいはもう行政が関知しない有名無実のリストだからどうでもよかったのか。
その一方で、中国政府が推薦するNEV目録、補助金の対象になるNEVの車名リストを見ると、そのLiB購入先はCATLがもっとも多く46モデルにのぼる。ホワイトリスト掲載企業である北京国能製LiB搭載車は22モデル、同じく合肥国軒高科製LiB搭載車は19モデル、力神動力製LiB搭載車は16モデルであり、圧倒的にCATL製を採用した自動車メーカーが多かった。ホワイトリストとNEV目録の両方を読み解けば、もはや中国政府が2次電池調達先を指示していないという点は明らかである。
旧知の中国メディア記者は私にこう言った。
「韓国出資企業はリストに掲載されたが日系出資企業は掲載されていない。しかし、中国の自動車メーカーが本当に欲しがっているのはパナソニックやGSユアサ製の高性能高信頼LiBだ。中国の2次電池製造企業もこれからは厳しい競争にさらされ、淘汰される」
中国政府もそれは折り込み済みなのだろう。筆者が思うのは、ホワイトリストはLiB価格の下落が目的であり、中国政府がNEV補助金を打ち切ったときにNEVが価格競争力を持てるよう2次電池市場を誘導する。そのためには供給過剰になると思わせることが重要であり、だからCATLのような企業を広告塔に使った。すでに中国政府は2020年でNEVへの補助金を打ち切ることを決めている。状況証拠に過ぎないが、中国政府がLiB価格下落を誘導していることは間違いない。
それと、前回お伝えした「外資合弁は2社まで」という規制の緩和だ。NEVも結局は車両生産であり、車両工場を呼び込まなければならない。中国企業から電池を買わせる代わりにNEV専門の合弁会社設立を認めたわけだが、外資の2次電池メーカーが中国に工場を立てたとしても中国勢の優位は揺るがないと判断したのか、とにかく国内でのNEV生産が増えれが結果オーライだということを中国政府が態度で示したのがホワイトリスト管理の業界移管だったと筆者は見ている。
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