かつてリアウイングは「大きいほど、派手なほど効果が高い」というイメージがあったくらい、クルマの性能の高さを象徴する装備であった。
しかし昨今のスポーツモデルを見ると、巨大&派手といったリアウイングが装着されるケースはめっきり減った。当記事ではリアウイングの存在感が強かった時代を振り返り、昨今巨大&派手なリアウイングをあまり見なくなった理由を考察する。
新型スープラは“予想通り”だったのか!? スクープと歴代車にみる新型の素顔
文:永田恵一/写真:PORCHE、FERRARI、TOYOTA、NISSAN、HONDA、MITSUBISHI、SUBARU、奥隅圭之
巨大&派手こそが正義だった
かつて高性能車が巨大&派手なリアウイングを装着していた理由は迫力ある見た目によるドレスアップという面もあるが、最大の理由は特に高速走行時に空気の力でクルマを押さえつけ安定させるダウンフォースを得るためである。
クルマ界でポルシェが先鞭をつけたものは多いが、リアウイングもそのひとつ。911のホエールテールと呼ばれるリアウイングに憧れたクルマ好きも多い
その始まりはポルシェ911の初代モデルとなる901型(1964年登場)のスパルタンなモデルであるRSあたりだった。
その後ポルシェ911では2代目の930型(1974年登場)のフラッグシップとなる911ターボが「ホエールテール(クジラのシッポ)」と呼ばれる大きなリアウイングを装着した。
1980年代に入って巨大&派手なリアウイングと言われて印象的なのが、フェラーリ社の40周年記念モデルで「公道を走れるレーシングカー」というコンセプトで開発されたF40で、F40のリアウイングはコンセプト通りサーキット専用のレーシングカーのようであった。
ロードカーのリアウイングに大きな衝撃を与えた与えたのがフェラーリF40。空力負荷物を嫌うピニンファリーナだったが、リアウイング込みでデザインした
日本車で巨大&派手なリアウイングを装着した先駆けは、元号が昭和から平成に変わった1989年登場で「当時のグループAレース制覇」をコンセプトに開発されたR32型スカイラインGT-Rだった。
日産スカイラインGT-R(R32型)のリアウイングはモータースポーツでの使用も考慮し(当時のグループAやグループNといった市販車ベースのモータースポーツでは外見を市販車から変えることはできず、そういったパーツは市販状態から装着する必要があったため)、必要性があったという前提にせよ空気抵抗の増加、それによる最高速の低下という副作用があるほど効果が強いものだった。
次に印象的な巨大&派手なリアスポイラーを付けたのは1993年登場のトヨタスープラ(A80型)で、A80型スープラのリアウイングはフェラーリF40を思わせる高さのあるものだったが、「高さのおかげでリアウイングが遮らずにルームミラーを通した後方視界が確保される」という機能的なものだった。
リアウイングは古くからあったが、カッコよさを世に知らしめしたのがGT-R(R32)。レースで勝つためという理由もファンの心をがっしりとつかんだ
スープラ(A80)もリアウイングが似合っていた1台。写真のとおり、リアウイングレスも設定されていたがリアウイングを装着したほうが人気だった
その後巨大&派手なリアスポイラーはホンダインテグラタイプR、スバルインプレッサWRX STI&三菱ランサーエボリューション、日産スカイラインGT-R(R33型ではR32型の経験もあり角度調整タイプに、R34型ではGTウイングに近い形状に進化)などに装着され、「高性能車の証」のような存在となっていった。
また1990年代中盤から車検制度の緩和によりカスタマイズの自由度が劇的に広がったこともあり、巨大&派手なリアウイングはアフターマーケットでも増加した。
GT-Rは空力面でも進化し、R33(上)ではフラップの角度が変更できるタイプ、R34(下)ではステーが独立したGTウイングタイプを採用していた
アフターパーツの巨大&派手なリアウイングで特に印象的なものとしては「側面から見ると5ドアファストバックがステーションワゴンのように見えるくらい変化度が大きい」マツダスピードのランティス用や、インパルの3代目マーチ用の文字通り巨大&派手なものが挙げられる。
毎年のように進化モデルを登場させ切磋琢磨してきたインプレッサWRX STI(上:バージョンI)、ランサーエボリューション(下:エボIII)とも派手だった
巨大&派手なリアウイングがめっきり減った理由
大きな理由としてはどちらが先がともかくとして2つある。
(1)巨大&派手なリアウイングを敬遠する人が少なくない数出始めた
巨大&派手なリアウイングが「好き、カッコいい」という人がいるいっぽうで、派手なクルマが好まれなくなってきた世の中の流れや、高性能車≒高額車ということもあり購入する年齢層も上がってきており、「巨大&派手なリアウイングはちょっと」という人も増えていると思われる。
そのため日本車では2004年のインテグラタイプR (DC5型)のマイナーチェンジで巨大&派手なリアウイングに加えローハイトなものを選択できるようになった。2007年登場の現行GT-RはNISMO以外のリアウイングはそれほど大きくない。
また2007年登場のランサーエボリューションXでは途中から巨大&派手なリアウイングに加えリアウイングレスが設定され、現行WRX STIでもリアウイングは控えめなリップタイプが標準で、巨大&派手なリアウイングはオプションとなっているくらいだ。
リアウイングが特徴的だったインテグラタイプRだったが、2004年のマイチェン時にローハイトのリップタイプも登場させすっきりしていると好評だった
ランエボシリーズは歴代ウイングにもこだわりを見せてきたが、ランエボXのファイナルエディションではリアウイングレスも選択できた。時代は変わったのだ
輸入車も一例としてポルシェ911を見ると、標準モデルは3代目となる964型あたりからリアウイングは任意&自動で必要なときに電動で現れる格納式となった。
911ターボではリアウイングはあるけど世代が進むごとに控えめな形状になる方向で、巨大&派手なリアウイングはGT3やGT2といったハイエンドの特殊なモデルに付くくらいとなっている。
(2)ボディ下面でダウンフォースを得られるようになった
昨今は空力技術の向上でリアウイングに代表されるボディ上面だけでなく、ボディ下面でもダウンフォースを得られるようになっている。
その代表が後方に向かって跳ね上がり気味のリアバンパー下部に付くフィン状のものがいくつか並ぶディフューザーだ。
特にボディ下面がフラットなクルマにディフューザーが加わると、整流された空気がディフューズ(拡散)され空気の流速が速まることで強い負圧が発生し真空状態に近くなり、ダウンフォースが発生する。
振り返ると市販車でディフューザーを装着するのが早かったのは、巨大&派手なリアウイングでも名前が挙がったR34型GT-RのVスペックであった。
ボディ下面を流れるエアにより空力的効果を得るのが現代流で、写真はホンダNSXのリアディフューザー。レースからフィードバックのされた空力デバイスのひとつ
このようにボディ下面でダウンフォースが発生できるようになったことで、空気抵抗が増える傾向にある巨大&派手なリアウイングの必要性が薄れたのも、前述したように巨大&派手なリアウイングが付くのは高性能車の中でもさらにダウンフォースが欲しい特殊なモデルがほとんどになった背景といえるだろう。
現代のスポーツカーでもここまで仰々しいリアウイングはまれ。ポルシェも写真の911GT3 RSの特殊なモデルを除き控えめなタイプのリアウイングを装着
リアウイングは大きさ、形状などにもよるが、80km/hくらいから効果があるといわれているが、これは誰もが体感できるレベルではない。ダウンフォースが増えてスタビリティが増すのを体感できるのは日本の法定速度をはるかに超えた領域での話。
高性能のスバルWRX STIですら大型リアウイングがオプション化されているのが何よりの証拠で、日常使用で大型のリアウイングがないから危なくて走れないということではない。
かつて隆盛を誇った大型リアウイングは性能を追及しつつ見た目が派手なことが重要でそれは当時のユーザー高性能車に求めたものだった。
超高性能セダンのWRX STIも今では大型リアウイングがオプション。巨大なリアウイングに頼らなくても、ボディ全体でダウンフォースが得られているからだ
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