WRCの規定が生んだ最高のライバル
去り行く平成時代を彩った「名バトル」を繰り広げた「平成を代表するライバル3選」を選んでみた。
1)三菱ランサーエボリューション vs スバル・インプレッサWRX
まずはランエボ vs インプだろう。ランエボとはもちろん三菱自動車が1992年(平成4年)世に送り出したフルタイム4WDのスーパースポーツセダンだ。それまでWRC(世界ラリー選手権)で世界を席巻してきた三菱・ギャランVR-4の後継としてラリーステージでの活躍を念頭に置いて開発された。その後年々進化し2015年(平成27年)に最終進化モデルとしてファイナルエディションを発売し、翌2016年(平成28年)に生産を終了している。
一方、インプとはスバル・インプレッサWRXのこと。インプもまた1992年(平成4年)に登場していたWRCで活躍していたスバル・レガシィの後継として登場させられたのだ。
ランエボ・インプの登場が符合したのは、ちょうどWRCが1982年にグループA規定に移行し年間5000台以上の生産実績がなければ競技に参加するホモロゲーション(公認)が取得できない時期にあって、より大衆車クラスのクルマでなければ販売見込みが立たなかったことと、年々大型化するモデルサイクルのなかで、より小型な車体への転換が現場から求められたことも理由としてあった。
WRCの同じグループAカテゴリーの覇権を争うだけに、両モデルは2リッター・ターボ・4WDという同一のレギュレーションのもとで開発されたことで、生来よりライバル関係に置かれることとなったわけだ。
WRCにおいてはラリー専用マシンにチューニングされ、ランエボは1996年から1999年までトミー・マキネン(フィンランド)が4連覇した。インプWRXは2001年に故リチャード・バーンズ(英国)、2003年にはペター・ソルベルグ(ノルウェー)がそれぞれドライバータイトルを獲得している。
ランエボ・インプのガチバトルはWRCだけでなく国内のラリーやスーパー耐久レースでも激しく火花を散らし僕自身もスーパー耐久でランエボを駆り、50勝と5回の年間タイトルを獲得した。
またモータースポーツのベース車両となる市販車状態にまで飛び火して筑波サーキットでのタイムアタック戦も激化。毎年ニューモデルが登場するたびに多くのメディアが筑波サーキットで比較テストを行い速さを競わせたものだ。僕の記録ではランエボV RSで記録した1分4秒3が最速。その後タイムは伸び悩んだ。インプWRXでは1分5秒台が最速だったと思うが両車の速さは本当に拮抗していた。まったく違うメーカーが違う技術で作りながら、同じレギュレーションに合わせるとここまで速さが似通うのかということが興味深かった。
レースで最強の座についたR32GT-Rに挑んだ三菱の技術力
2)日産スカイラインGT-R vs 三菱GTO
次なるガチバトルは 日産スカイラインGT-R VS三菱GTOだ。GT-RとGTOがガチバトル状態にあったなんて言うのは世界広しといえども僕一人くらいだろう。
スカイラインGT-RはR32型が1989年(平成元年)に登場。日産を象徴する名車スカイラインGT-Rを当時最新の技術で復活させたものだ。R32型登場のきっかけとなったのもグループA規定によるレース活動での活躍を期してのものだった。当時世界ツーリングカー選手権や国内の全日本ツーリングカー選手権がグループA規定で争われていて、そこで圧倒的なスペックで他を圧倒させるために生み出されたのがR32型GT-Rなのだ。
その策略は功を奏し、全日本グループA選手権では無敵の存在となる。またより市販状態に近い状態で行われるグループN規定で競うN1耐久レース(現スーパー耐久)でもR32型GT-Rは圧倒的な強さを見せたのだ。
三菱GTOはR32型GT-Rが登場した翌年、1990年(平成2年)にデビューした。だがGTOが目指したのはモータースポーツでの活躍を期したものではなかった。高速化する次世代を睨んでハイパワーで300km/hの高速走行を可能とする4WDの技術開発と基幹技術のアピールが主目的だったのだ。
ちょうど三菱は北海道の十勝地方・幕別に300km/hで連続走行が可能なテストコースとして十勝研究所を開設。1周10kmというアジア圏最大のオーバルコースを備え、350km/hで走れるスーパーカーHSRの開発を本気で目指していたといわれている。
当時国内には市販車の最大出力を280馬力に自主規制するルールがあり、R32型GT-Rも三菱GTOも最大出力280馬力に抑えられていた。また両車ともフルタイム4WDの2ドアクーペというパッケージングであり、市場では競合関係に位置していたのだ。
しかし、レースで勝つことを前提に企画されたGT-Rと、技術の象徴的存在とされたGTOが直接的なライバルと位置づけ意識する人は少なかっただろう。それをいきなり同じ土俵に上げてしまったのが当時三菱でモータースポーツを仕切っていたラリーアートだ。
そこから依頼を受け、僕はドライバーとしてGTOをN1耐久レースで走らせた。そこで得た印象はGT-Rと勝負できる! ということだった。それはGTOを開発したエンジニアにとっても意外な驚きだったようだ。N1耐久レースで孤軍奮闘する我々のプーマGTOに触発されて、三菱のエンジニアがさまざまな技術援助をしてくれたのだ。
今F1ではDRS(ドラッグリダクションシステム)が装備され直線スピードを稼ぐ技術が活用されているが、我々のプーマGTOも、まさに同じ技術を投入していた。市販モデルのGTOには速度感応型可変スポイラーが装着されていて高速ではスポイラーを立ち上げて高速走行安定性を高めていたが、僕はブレーキランプスイッチと連動させ、コーナーアプローチでの減速時にスポイラーを立ち上げるよう提案しチューニングしてもらったのだった。
結果、GTOがN1耐久で総合優勝を果たすことは叶わなかったが、何台ものGT-Rを下し2位の表彰台に立ち。予選でポールポジションを獲得したこともあった。
多くの人は知らないが、その時僕らはGTOでスカイラインGT-Rとガチバトルをしていたのだ。
RRとMRというレイアウト違いの闘い
3)ポルシェ911 vs ミッドシップ・フェラーリ
最後のガチバトルはポルシェ911vsミドシップ・フェラーリだ。
ポルシェ911は言わずと知れたRR(リヤエンジン後輪駆動)レイアウトが特徴のスポーツカー。片やミドシップ・フェラーリはエンジンをミドシップにマウントし後輪を駆動するMRレイアウトのイタリアを代表するスーパーカー。近年のフェラーリは最大マーケットである北米市場の人気を意識してロングノーズのフロント・エンジン、後輪駆動のFRモデルがとくにハイエンドに多く設定されているが、もっともフェラーリらしいのはやはりMRのモデルといえるだろう。平成時代のMRフェラーリは348tbが1989年(平成元年)に登場。その頃の911はタイプ930の後期型が主力で964型への移行期にあった。
RRの911は車体後部が重く、ハイスピードドライビングが難しいと言われていたが、実際にサーキットで走らせるとシャシー剛性の高さと制動性能に圧倒され、むしろ安心して周回できた。サーキットでレーシングカーを開発し、その部品やテクノロジーを市販車に流用するという開発のスタイルは他メーカーとは真逆のアプローチと言えたが、スポーツカーを生み出すうえでは理に叶った手法だったといえる。
その強力なポルシェを理論的に優位となるMRレイアウトで打ち負かそうとしたのがMRフェラーリだったといえるだろう。フェラーリは348以前にも328や308といたV8エンジンをミドシップに搭載したモデルが存在していたが、人気のほどには走りの実力は高くなかった。
に進化してかれもポルシェ911の壁は高く、ようやく対等に闘える実力を身につけたのは1994年(平成4年)に登場したF355からだった。それはフェラーリF1でニキ・ラウダを擁して世界チャンピオンに押し上げたルカ・モンテゼモーロ氏がフェラーリの社長に就任したころで、スーパーカーの象徴としてだけでなく実力面でも真のスーパーカーとすべくF355を鍛え上げることを指揮したとされている。
911はタイプ964から「カレラカップ」というワンメイクレースシリーズを世界規模で立ち上げ、フェラーリも348から「チャレンジカップ」を開催。両モデルのカップカーを直接対決させる企画も各メディアなどで実施され世界中の両ファンを熱くした。
さあ、新しい「令和」の時代の始まりだ。この新時代を象徴するライバル関係は、どのモデルがどんなカタチで展開していくのだろうか。
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