2019年3月20日、トヨタ自動車とスズキ株式会社は、新たな協業について、具体的な検討に着手することに合意した。
やや回りくどい言い方だが、両社はすでに2017年2月に業務提携へ向けた覚書を締結しており、今回はいよいよその具体的な内容に踏み込んだということになる。
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そうなると「スズキ版のプリウスやアルファードが発売するのか?」だとか、「トヨタ版のスイフトスポーツやジムニーが出たら楽しそう!」と想像が膨らむ。
もちろん今回の提携はまだ「最初に何から始めるか」という発表であり、これが上手くいけば提携はさらに進展してゆくだろう。とはいえかなり具体的な内容まで発表しているので、その内容と今後の分析を、自動車ジャーナリストの鈴木直也氏に解説していただいた。
文:鈴木直也
■トヨタからスズキにハイブリッド技術を供給
トヨタとスズキは2016年10月、豊田章男社長と鈴木修会長が共同記者会見を実施し、両社の協力関係に関する検討を開始すると発表、翌2017年2月には広範な業務提携を実施すると発表していたわけだが、今回ようやくその中身が明らかになった。
トヨタとスズキが発表したプレスリリースによると、協業についての具体的項目は以下のとおり。
1)トヨタの強みである電動化技術、電動車の供給
スズキへTHS(トヨタハイブリッドシステム)を供給(グローバル)。
HVシステム・エンジン及び電池の現地調達化によるインドでのHV技術の普及(インド)。
欧州でのスズキへの電動車OEM(トヨタ名 RAV4、カローラワゴン)供給(欧州)。
2)スズキの強みである小型車・小型パワートレーンの供給
インドでのスズキ小型モデル(スズキ名 シアズ、エルティガ)をトヨタにOEM供給(インド)。
デンソーとトヨタが支援するスズキの新開発エンジンを、トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ポーランドで生産し、トヨタ小型モデルへ搭載(欧州)。
スズキがインドで生産する小型車(スズキ名 バレーノ、ビターラブレッツァ、シアズ、エルティガ)をトヨタのアフリカ市場向けにもOEM供給(アフリカ)。
3)両社の強みを生かした開発・生産領域での協業
スズキのインドにおける車両開発の知見も活用したトヨタCセグメントMPVの共同開発およびスズキへのOEM供給(インド)。
2022年からトヨタキルロスカ自動車(株)(TKM)で小型SUV(スズキ名 ビターラブレッツァ)を生産(インド)。
このリストで目立つのはインド市場におけるスズキの競争力強化策の数々だ。
インドの自動車市場は昨年400万台の大台に到達し、人口を考えれば長期的には中国並みの巨大市場に成長するポンテンシャルがある。
そこで、シェア40%を押さえているスズキの存在感は絶大。
ハイブリッドシステムやその関連部品のインド現地調達化、スズキのインド市場モデルのトヨタへのOEM、インド仕様CセグMPVの共同開発、トヨタのインド工場でスズキ車生産…。
今回の発表内容を読むかぎり、短期的にはスズキのメリットが圧倒的に大きいが、さすがのトヨタもインドではスズキの力を借りざるを得ないと判断、自身はバックアップに回ったかのような印象さえある。
スズキ自身もインド市場には背水の陣で臨んでいる。スズキは2012年に北米市場から撤退し、昨年は中国市場からも手を引いている。
その結果、直近(2018年第3四半期)のデータでいうと、スズキのグローバル生産台数は、インド54%、日本30%、アジア11%、欧州5%という比率。
まさに、インド市場にスズキの将来が賭かっているのだ。
■「浮かれた話はたぶんゼロ」
今回の両社の発表は、トヨタとスズキがインド市場の将来性をきわめて重視していることを確認したのが最重要ポイントだといえるだろう。グローバル部門ではかなりざっくりとした枠組みだけが発表され、欧州やアフリカでの相互OEMもあるが、それはオマケといっていい。
注目すべきは、インドでの電動化関連部品の現地調達化や、東欧でのスズキ製エンジンのトヨタへの供給といった項目だ。
トヨタが考えているのは、スズキを先兵に途上国にハイテク部品のサプライチェーンを構築してゆくことで、完成車ではなく周辺パーツから、じっくり途上国マーケットの攻略を考えているのではなかろうか。
クルマ好きにとっては、確かにスズキのハイブリッドラインナップにTHSが加わったら面白いし、どうせ相互OEMするなら評判のいいスイフトスポーツのトヨタ版なんかイイんじゃない、とか夢想するけど、今回の協業内容発表に関しては、そういう浮かれた話はたぶんゼロ。
スズキに関してはもちろん、トヨタですら将来の生き残りを賭けた重要な決断とみるべきだろう。
それにしても、「得意分野に集中して生き残る」というスズキの戦略はお見事。長年かけてインドに築いたスズキの牙城は、これからますますその価値を増してゆくに違いない。
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