■米国は救急車1回で500ドル以上? 英国は無料だが登録制
日本の救急車は外国人観光客でも健康保険に未加入でも、119に電話をして要請すれば誰でも無料で来てくれます。日本人にとっては当たり前のように思えるこのシステム、実は世界的に見て「極めて異例」なことなのです。いざという時に非常に助かる日本の救急車システムですが、無料だからこそ起こる深刻な問題にも直面しているといいます。
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日本と違って、海外では多くの国で救急車は有料です。距離によって料金が決まっている国や1キロごとに加算されて行く国もあります。たとえばアメリカでは州によって差はありますが、最高で500~800ドルかかったという声も聞かれます。
カナダもアメリカとほぼ同レベルで有料。オーストラリア在住の筆者(加藤久美子)の知人は、お子さんが交通事故に遭って救急車で運ばれたときには日本円で10万円近い請求が来たそうです。しかも、同時に事故に遭って軽傷だったクラスメイトは自分で歩けるし、呼吸もしっかりしているからという理由で、救急搬送は拒否。緊急性が低いと判断されたため、病院まで自力でタクシーかバスで行くように指示されたとのことでした。
イタリアのように海外からの観光客が多い国は、外国人観光客に対しては救急車の利用や治療費(入院や手術を除く)が無料という国もあります。ただし、イタリアでも軽症と判断された場合、救急車が自宅に来るのは他の重症患者の搬送が終わってからになります。
イギリスは救急車の利用は無料ですが、「GP登録」(GP=General Practitioner 家庭医、かかりつけ医)を事前にやっておかねばなりません。長年イギリスに住んでいる人であれば、問題ないのでしょうが、登録までに数か月かかることもあります。駐在や留学で半年以上、イギリスに滞在する人なら外国人でもGP登録が可能です。
イギリス在住歴がある筆者の友人曰く、「イギリスに住んでいた時にGP登録しました。自宅の郵便番号から近所の病院を探します。GP登録が出来る定員というのが病院ごとに決まっているので、空きがあれば申請出来ます。しかし登録するのに2~3ケ月かかりました」とのこと。 GP登録がない人はそもそも救急車に乗ることもできないそうです。また他の多くの国と同様、自力で病院に行ける人など、「軽症」と判断された場合はイギリスでも救急搬送は見送られます。
社会保障が充実している北欧の国々もEU圏内在住者は無料とする国、タクシーの5~10倍かかる国など、いろいろとあるようです。
■日本は要請があれば、誰でも、どんな症状でも救急搬送してくれる
日本の救急車に話は戻ります。日本では国籍や保険の加入、事前の登録などに関わらず、要請があれば救急車は出動しますし、誰が利用しても距離に関わらず「完全無料」です。完全無料にもかかわらず、質の高い搬送、救急車内での高水準の処置が行われる国は世界に例がないと言っても過言ではないでしょう。
なお、日本でも10年位前から救急搬送におけるトリアージ(患者の重症度に基づいて治療の優先度を決めて選別すること)が行われるようになりました。要請があれば、いったん救急車は出動しますが現場について患者の症状を確認し、呼吸が安定していて自力で歩行できるなど軽症の場合は救急搬送を拒否し、自力で病院に向かうことを勧めています。
とはいえ、救急車で搬送せず自力で病院に行くことに対して、患者の同意を得られなければ救急搬送を一部の極端な例を除いては、断ることができないのが現状です。これが諸外国と大きく異なるところです。
海外では救急車が無料/有料にかかわらず救急車の要請があった場合、救急搬送をするかしないかは患者の意思にかかわらず医師や救急救命士が判断し、患者はそれに従わなくてはなりません。
このような状況ですから、症状に関わらず(実際にはほぼ無条件)で無料利用できることから、救急車をタクシー代わりに使う非常識で迷惑な利用者が年々増えているといいます。
「大した症状ではないのに救急車を要請する人はたいへん多いです。私たちは要請があれば原則として出動しなくてはなりません。ひどいケースでは救急車で病院に搬送したあと、『帰りも送ってくれるんでしょ?』『連れてきてくれたんだから帰りも送ってよ!』など言われることもあります。救急車はタクシーではないので、もちろん事情を説明してお断りします」(首都圏の消防署に勤務する救急救命士)。
なお、傷病程度別の搬送人員数を見てみると、近年は救急搬送の必要がない「軽症」がなんと約50%、救急車を「タクシー代わりに使う」悪質なケースが約半数ということになります。
総務省消防庁の調べによると、2014年の1年間に10回以上救急車を要請した人の実績は全国で2,796人おり、それらの「頻回利用者」が年間52,799回もの出動要請をしている実態があります。なかには年間50回以上も救急車を呼んでいる人も250名ほどいるそうで、このような悪質な頻回利用者に対しては各消防署が家族の協力を得るなどして事前に説明、または名簿に載せるなどして搬送を見送る例も増えてきているとのことです。
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