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なぜ日本では30年前のタクシーが走り続けられるのか?

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なぜ日本では30年前のタクシーが走り続けられるのか?

 ハイブリッド、PHEV、EV、燃料電池車と、まさに世界の最先端をいく日本の自動車業界。

 ところが、何気なく街中を走っているクルマをみると、だいたいのクルマは新しいのに(しかも汚いクルマは少ない)、タクシーだけ異様に古くありませんか?

新型カローラセダンがカッコいい!!! 最近のトヨタデザインはマシになっているのか?

 時代錯誤に感じてしまったのは担当だけでしょうか?

 クルマ好きなら、Y31セドリック、クラウンコンフォート、コンフォートが走っているとわかるのですが、衝突安全、安全装備、排ガス規制……、今の日本で走り続けていることが不思議に思えてなりません。

 ということで、いまの日本、古いタクシーが走り続けている謎をモータージャーナリストの岩尾信哉氏が追ります。

文/岩尾信哉


写真/トヨタ、日産、ベストカーWeb編集部

■貴重な5ナンバーサイズのクラウンコンフォート、コンフォート、クラウンセダン

 街中で見かけるタクシーに新たな車種が増えるとどことなく気分が盛り上がるのはクルマ好きの性かもしれない。過去にはタクシーといえばトヨタならクラウン、日産ならセドリック/グロリアのそれぞれセダンタイプと相場が決まっていた。

 2014年の9月に生産中止、同年12月に販売終了したY31型セドリックセダン営業車は、基本設計は1987年まで遡る。

 安全装備については、ハロゲンヘッドランプとABSぐらいしか見当たらず、ESC(横滑り防止装置)などが装備されないなどの問題が浮かび上がってくる。

 いっぽうでクラウンセダン/コンフォートのタクシー車両(生産は1997~2018年)では少々事情が異なる。2013年10月に国土交通省が新型車では2012年から、継続生産車については2014年からESC(横滑り防止装置)を義務化したことに対応して、スタビリティコントロールとトラクションコントロールを追加装備した。

 これに対して日産は、Y31型セドリックのタクシー仕様車に関して改良を断念して、事実上タクシー車両の生産・販売から撤退することになった。トヨタの新世代専用車両のジャパンタクシーに置き換わることで2017年5月末に販売は終了してその役割を終えたとはいえ、トヨタのタクシー車両の主役の座は揺るぎのないものとなったわけだ。

■懐かしいY31型セドリックタクシーとクルー

 いっぽう、トヨタのコンフォートに対抗する日産の小型乗用車タクシーはクルーだ。シャシーはタクシー専用モデルとして設定されていたC32型系ローレル4ドアセダンのフロント部分と、Y31型セドリック営業車のキャビンとリア部分を組み合わせたもの。

 1993年7月に販売開始され、2009年8月まで販売されていた。クルーサルーンという自家用車もラインアップされた。

 この流れが変化したのは意外に最近の話で、平成27(2015)年6月の道路運送車両法(道交法)の保安基準の改正で車種の選択幅が広がった。国土交通省の発表によれば……

「タクシーなど乗車定員10人以下の旅客自動車運送事業用自動車に係る以下の基準を廃止しました。1/座席の寸法に関する基準、2/通路の幅と高さに関する基準、3/乗降口の大きさ、構造等に関する基準、4/緩衝装置及び座席が旅客に与える振動、前方の座席との間隙等に関する基準。

 これにより、タクシー事業者等による車両選択の幅が広がり、より輸送ニーズに応じた事業活動が可能となります」。(国土交通省報道発表より抜粋)

 結果としてタクシー車両のバリエーションが増えて、東京都内で見かけるタクシーは依然としてセダンのクラウン/コンフォートが主役の座に就いてはいても、プリウスも荷物が積みやすいワゴンタイプのプリウスαを含めて目にする機会も増え、ヴェルファイア/エスクァイアも結構見かけることも多い。

 個人タクシーでは“ゼロ”クラウンも現役で働いているなど、タクシー業界ではトヨタの“一党独裁”が続いている。

 なにより、2017年10月に20年以上の歳月を経て、新たにトヨタのタクシー専用車両としてデビューした「ジャパンタクシー」に、タクシー車両が急速に入れ替わりつつあることが実感できるようになった。

■JPNタクシーにとって変わられてきている

 2017年10月~2018年11月末までの累計の登録台数は8930台に達している。意外に少ないと思われるかもしれないが、タクシー会社が車両を入れ替えるタイミングや事業者によって架装の内容が異なるため対応に手間がかかるので、乗用車のようなスピードで販売台数が伸びてはいかないという事情があり、生産の初期段階ではほとんどの車両が東京の大手タクシー会社に納入され、2018年9月末時点で半分を超える4165台が東京の街を走っている。

 いっぽうで日産車は長く脇に追いやられている。商用車のNV200をベースに仕立てた「NV200タクシー」は、ジャパンタクシーのような「専用車」ではなく改造を施した「仕様車」であり、ジャパンタクシーはグリップを開口部に設置して乗り降りを容易にするといった、人に優しい“ユニバーサルデザイン”が“標準設定”として採り入れるなど、NV200もユニバーサルデザイン仕様も設定されてはいても、商品性では圧倒されている。

■Y31型セドリックタクシーの後継車NV200タクシー

 客室への乗り降りなどの機能面を追うと、ミニバンのようにスライドドアが装備されていれば、バキューム/ロッド式の自動ドア機能を追加する開閉架装の手間がいらない(ドライバーとしては開閉スピードが安全面を考慮した設定とはいえ遅いという不満の声もあるそうだ)。

 ちなみに、ジャパンタクシーでは両側スライドも検討したが、子供がかってに路上に出るような場合を想定して運転席側にはあえて採用しなかったそうだ。

 ジャパンタクシーは車椅子の室内への乗り入れでは、さすがにスロープの設置などでは段取りが多すぎてドライバーの乗車拒否の問題が起きるなど課題はあるとはいえ、スタイリングなどでも個性を打ち出せているから、日産がトヨタに奪われたシェアが簡単には取り返せないのは当然だ。

■タクシーの耐用期間は3~5年、30万~50万km!

 タクシーの車検などの整備については、人の命を預かるサービス事業として、法律によって厳しく義務化されていることは言うまでもない。

 バスやタクシーの“旅客自動車運送事業用自動車”の場合は、初回は購入の1年後、以降も1年ごとに実施が義務づけられ、現実のタクシー車両の使用条件としては、年間10万kmで最長耐用距離は30万~50万km、耐用期間は約3~5年、最長では30年ほどと言われていて、大手タクシー会社では4~6年で買い換えによって車両を入れ替えている。

 タクシー車両の燃費は、街中でのストップ&ゴーを繰り返す“過酷な労働”などを強いられているため約10km/Lといわれているが、LPGの価格が都内でリッター約60円とされているから、コストの面での優位性は圧倒的で、現状でタクシーではガソリン、ハイブリッド車は増えているとはいえ、LPG(液化プロパンガス)車が約9割を占めているという。

■点検整備は3カ月ごと、車検は1年ごとに実施

 タクシーとして使われる車両は、道路運送車両法で点検整備は3ヵ月ごと、車検は1年ごとに実施すると規定されている。

 大手タクシー会社では自社で整備工場を備えていることも多いから、点検整備については綿密に実施されていると考えてよいだろう。

 さすがに走行距離が25万kmほどになれば車両を系列のタクシー会社や中古車業者に売却して、新車を購入する例もあるようだ。ほとんどのタクシーは使い尽くされたうえで、その後は中古車業者から海外に売却される場合や部品単体を流用することもあるという。

 日本製車両が海外でも評判が良いとされるのは、車検制度によって安全性能が維持されていることが大きな要因だろう。

 ちなみに営業車両であるタクシーでは、自家用乗用車にはない減価償却費という要素が加わる。国税庁のホームページを見ると、タクシー車両の耐用年数について、運送事業用車両の項目で総排気量が2L以下は耐用年数3年とコメントされ、タクシーはこの耐久年数3年の項目が当てはまる。

 耐久性に関する具体例に触れておくと、街中でのストップ&ゴーを繰り返すことが多いタクシー車両に要求される性能としてブレーキなどを含めた足回りは重要な要素だ。

 なにより装備として大きいのは、ブレーキパッドの耐久性(使用距離)は飛躍的に向上したとされ、トヨタのプリウスを中心としたハイブリッド車を採用することは、コスト面で確実に有利に働いている。

 トヨタのハイブリッド車ではニッケル水素バッテリーの耐久性は10万kmほどとも言われているが、大手タクシー事業者に訊けば、現状では入れ換え時期まで大きな交換までに至った例は見かけられないとのことだ。

 NV200タクシーの燃費データについては、改造車両のため公式には明らかではないが、あくまで日産ディーラーが独自に予測して算出した参考値ながら、NV200タクシーのユニバーサルデザイン仕様の燃費と航続距離はLPG運転時の燃料消費率が9.48km/L(JC08モード:JATA認証試験データ)。

 これに基づき算出したLPG燃料のみで想定される航続可能距離は約350kmとされている。

 NV200の派生車種としては、アイデアとして頭に浮かぶEVのe-NV200はどうなのかといえば、欧州の一部地域で運用されているようだ。

 ただし、航続距離が不確実な日本のタクシーの使用状況ではeNV200のワゴン仕様を使うことは難しい(価格5人乗り:460万800円、7人乗り:476万2800円)、航続距離は300km(JC08モード)でも、経験上およそ200kmの走行距離がギリギリとなるはずだ。

■Y31型セドリックが生き残っている理由

 クルマ好きからすれば、Y31型セドリック/グロリアといえば、人気だったグランツーリスモSVを思い出すが、その年代の形をしたクルマが、いまだに街中を走っているのに驚かされる。

 派手なイエローやグリーンにペイントされていると気づかないのだが、筆者の住んでいるエリア、東京・世田谷区や大田区、目黒区、品川区あたりで、よく見かける荏原交通の白いY31セドリックタクシーは、その白いボディカラーのせいなのか、なおさら古く見えてしまう。

 もちろん、Y31型セドリックを使用しているのは荏原交通だけではない。ほかのタクシー会社のY31セドリックは緑や黄色にペイントされるので、Y31セドリックかクラウンコンフォートなのか、なかなか見分けが付かないのだ。

 そのあたりを、普段お世話になっていて愛着のある同社なので、問い合わせてみた。

 Y31が現状で所有台数300台のうち150台と半分ほどがセドリック営業車だという。詳しく訊いてみると、これには取引上の事情があった。先に説明したとおり、Y31型タクシーは2014年末に受注販売を終了しているが、最終のタイミングで同社は約2年分の使用台数となる100台を契約したという。

 ここで日産(販売会社)と次の契約について、荏原交通はNV200の納入契約をせず、1年間を置いて判断することにしたとのこと。

 その間はクラウンでまかない、最終的に2018年から本格的にタクシー事業者に納入が始まったジャパンタクシーを購入することに決定した。

 このような経緯で、現在も荏原交通のタクシー車両としてY31型タクシーが生き残ることになったとのことだ。

 なぜ日産との継続的な流れでNV200タクシーと契約しなかったといえば、その成り立ちに理由があり、試用した段階で問題になったのはなにより「タクシーに見えないこと」だったという。

 荏原交通のタクシー車両は白地のカラーリングが施され、大手タクシー会社のような緑や黄色などの車体色ではなく、ぱっと見では商用車(営業車)と判別できず、タクシーと認識しにくかったのだ。

 加えて、商用バンをベースとしたゆえか、ドライバーから乗り心地に関して不満の声が上がったという。現在はY31型セドリックからジャパンタクシーとの入れ替えが順次進んでいるということのようだ。

■タクシー業界は安全性を重要視し、変わってほしい!

 乗用車の衝突安全性が飛躍的に向上し、自動ブレーキも政府がサポカーとして官民連携で普及啓発に努めているなかで、前時代的なタクシーが走っているのはちょっと時代錯誤に感じてしまう。

 衝突安全性や自動ブレーキは、人を乗せる際の大事なおもてなしのひとつではないだろうか? 不景気が続き、経済的に厳しいのは重々わかるのだが、人の命を預かるのがタクシー。安全や安心には代えられないことなので、タクシー業界はもっと変わっていってほしいと思います。

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