最近登場した新車に取り付けられているメーターは、タブレットのような液晶メーターが増えてきています。はたしてこれでいいのでしょうか?
クルマを運転するドライバーにとって、メーターは「人間の目」に匹敵する重要なものですが、あまり語られてきていません。
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そこで、今回はメーターにスポットを当て、今後メーターはどうなっていくのか? アナログメーターが消滅し、液晶メーターばかりになってしまうのでしょうか? モータージャーナリストの高根英幸氏が解説します。
文/高根英幸
写真/ベストカー編集部、積水化学
■見やすいメーターを追求した結果、新たな危険の原因にもなる!
最近の新車で大きく変わってきている装備のひとつにメーターパネルがある。従来のメーターパネルは、タコメーターとスピードメーターの間にインジケーターが組み込まれていて、燃料の残量や走行距離、ギアポジションや各種ワーニングなどが表示されていて、車種により燃費や外気温など多彩な情報を切り替えて表示することもできる。
アナログメーターはメーターを凝視しなくても針の位置で大体の情報が把握できて、ドライバーとクルマの一体感を高めてくれるアイテムだ。走りを楽しむには、不可欠なメーターも近年は随分と求められる機能が増えてきた。そんなクルマとドライバーとの関係も、この先はそんなメーターの存在意義も変わってきそうだ。
旧車のメーターは、車速やエンジン回転、水温、油温、油圧などの情報をエンジンや変速機から直接メーターまでワイヤーや管で引っ張ってくる機械式だった。それが電気抵抗に変換されて、電気式のメーターとなって反応が速くなりメンテナンス性も向上したのが、1980年代あたりのこと。
現在はエンジンECUともつながっていて、電気信号で制御される電子式が一般的になりつつある。
こうしたメーターの技術や精度は日本がトップレベルを誇っていて、日本のメーター専門メーカー、日本精機は日本のクルマやオートバイ用のほか、ジャガーやプジョー、シトロエン、クライスラー、フィアットなど世界中の自動車メーカーにメーターを供給しているのだ。
スポーツカーや軽快なハッチバックは精悍なムードを演出させるデザインを採用してドライビングの気分を盛り上げてくれるメーターパネルを採用しているし、高級車やミニバンなどは室内の広さを強調するようにダッシュボードと一体感のある横に広がりのあるメーターパネルを採用しているケースも目立つ。
また夜間の照明も初期のメーターは文字盤の周囲から背後にあるランプの光が漏れるようにして照らしていたのに対し、1980年代には透過式の照明が登場してグンと見やすくなった。現在では目盛り部分などに樹脂製のインデックスを貼り付けて立体的に透過させ、周囲からも照明を当てたりと、かなり凝っているモノも多い。
■タブレットのような液晶メーターが増殖中!!
最近はタブレットのように大きな液晶モニターが収まり、そのなかでアナログメーターが描かれるだけでなく様々なモードによりグラフィックが変化するディスプレイメーターが登場して、高級車から採用が増えている。
メルセデスベンツのSクラスから始まったこのトレンドはEクラス、Aクラスに採用され、今やアウディやBMWなども採用するばかりか、マイナーチェンジによってCクラスやVWゴルフ、ポロにまで導入されるほどだ。先日発表されたばかりの新型BMW3シリーズにもライブ・コックピット・プロフェッショナルと名付けられたディスプレイメーターが採用された。
そこまで先進的ではなくても、メータークラスターの奥深くにメーターが組み込まれ、昼間でもメーターの照明を点灯させることで見やすさを追求した自発光式メーターのクルマも増えている。これは確かに見やすいけれど、新たな問題を起こす原因にもなっているようだ。
それは無灯火。夜間でもメーターは明るく、街灯や周囲のクルマのヘッドライトで路面が照らされいることもあって、ヘッドライトを点灯することを忘れて走行してしまうドライバーが増えているのだ。
自分は周囲が見えているから無灯火に気付かないのだろうが、自転車ですら無灯火は非常に危険だというのに、クルマで無灯火となれば危険極まりない存在だ。交通量が多い地域だからこそ起こる新しいタイプの危険要素だ。
クルマが夜間、無灯火で走行していると歩行者はクルマが近付いていることに気が付きにくく、無灯火のドライバーも歩行者に気付くのが遅れやすい。
片側2車線の道路で無灯火のクルマが走行していると、先行するクルマが進路変更する際に無灯火のクルマに気付きにくく、危険な思いをすることもある。
ハイビームにしたまま走行しているのも周囲のドライバーを幻惑して危険だが、無灯火はまったく逆の意味で危険過ぎる。自動車メーカーも安全性を高めるためにヘッドライトの配光や照度を高める工夫をしてくれているが、そんな努力を帳消しにしてしまうような誤操作やうっかりミスは避けたいものだ。
ヘッドライトにオート機能があるクルマは、オートの位置を基本にすることで、無灯火を予防することはできる。むしろ自動車メーカーにはヘッドライトのオフスイッチを廃してオートとスモールだけにしてもらってもいいと思う。それで確実に無灯火は無くなる(スモールでも、無灯火よりは遙かに被視認性は高いので)だろう。
■再びデジタルメーターが流行する傾向 その理由とは?
メーターパネルに話を戻すと、1980年代後半に流行ったデジタルメーターの再来のように、これからまたデジタル表示も一般的になっていくだろう。それはドライバーの高齢化とも関係がある。
視力が弱っているドライバーにとっては、針が示す数字を読み取るより、デジタル表示で大きく時速が表示される方が断然判断しやすいからだ。
現在は液晶モニターでもアナログタイプのメーターデザインを表示するのが一般的だが、これは自発光式メーターと同じく、周囲の光をなるべく入らないようにして表面の反射を抑えて視認性を高める工夫がされている。
それに液晶モニターでは、アナログメーターの立体感まで再現できないからちょっと角度が変わればたちまちメーターの見え方が変わってくる。
したがって自動車メーカーが想定するドライビングポジションの範囲から外れるような体型のドライバーは、ひょっとしたらメーターが見えにくく(今でも見えにくいかもしれないが)なるかもしれない。
ともあれ、これからのクルマでは液晶モニターを利用したタイプが主流になっていくのは間違いない。というのも、車種ごとに専用にデザインされ、部品の金型が必要で組み立て工程や精度も追求される従来のメーターに対し、モニター上で表示するメーターは圧倒的に開発や生産コストが下げられる可能性があるからだ。
もっとも全面液晶モニター、それもメーター専用の異形タイプはコストが嵩むから国産ミドルクラス以下の量産車に採用するのは当分難しい。そこでメーターを生産する日本精機が考えているのは、マトリックス型(大きな面で発光)の液晶とドット型(スマホなどの液晶)の液晶を組み合せて使用するという構造のメーターだ。
表示を切り替えて利用する便利さは確かに魅力的だが、全面を切り替えて利用する必要はない。だから車速など常時必要な情報はマトリックス型の液晶で表示して、走行モードやドライバーの操作で表示を切り替える部分にドット型液晶を使うのである。
■もう一つの走行情報表示デバイスHUDの未来
それに自動運転時代が到来する以前に、「メーターを見ないで運転する」ことが当たり前になるかもしれない。
もう一つの走行情報表示デバイス、HUD(ヘッドアップディスプレイ)の存在も忘れちゃいけない。視線をメーターまで移動せず、モノによっては焦点も前方に合わせたまま速度や進路、制限速度などを確認できるHUDは、安全に走行情報を確認できる最善のアイテムだ。
現在はメーターカウルの上に専用のスクリーンを用意したり、フロントウインドウに偏光フィルムを貼ることでHUDを実現しているが、現在はより進化すべく開発が続けられている。
積水化学は、合わせガラスの間に挟み込んでいる中間膜にスクリーンとしての機能を持たせたHUD用中間膜を実用化している。しかし、これも光の屈折の関係上、表示できる範囲が限られているようだ。それでも従来より大型のHUDが可能になった。
さらに自発光式中間膜も開発されている。これは従来のHUDのようにプロジェクターで投射するのではなく、レーザー光を当てることで自ら発光して表示するもの。明るさや発色の鮮やかさは投射では得られないほど強力で、視野角も広い。
現在は色の再現性を高める研究が進められているようだが、この自発光式中間膜が普及すれば、HUDだけでなく、幅広く応用できる可能性がある。同じ中間膜を使えばサイドウインドウやリアウインドウにも表示することが可能だから、車外に向けても様々な情報を表示することを実現できる。
「つながるクルマ」の時代には、ウインドウのグラフィックが周囲のドライバーとの意思疎通が図れるデバイスになるかもしれないのである。
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