ステップATの多段化は10の数字に届いている。横置型においても9速はすでに実現されていて、高性能化の印象を強く与えている。数字が商品性を高めている面は否めないが、サプライヤーやメーカーは徒に段数を増やしているのではないのは明らか。なぜ多段化は進むのか。
現代のエンジンの開発目標のトップにあるのはCO2削減=燃費向上である。ひとえにそこを目指してエンジニアは知恵を絞っている。冒頭書いたように2020年のCO2排出量規制値95g/kmを実現するために、現代のエンジンはトランスミッションとの高度な協調制御を行なっている。燃費改善のためにダウンサイジング・レスシリンダー方向に進むエンジンを支えているのは急速に進化している2ペダルのトランスミッション(ステップAT/DCT/CVT)だ。
ホンダがエンジンを脇役にしたパワートレイン、CR-Vハイブリッドも搭載──LFA/R20A
トランスミッション競争の火ぶたが切られたのは、2003年である。この年、ダイムラーは世界初の7速AT、7G-Tronicを開発、Sクラスに搭載した。同じ年、VWは、彼らがDSGと呼ぶ湿式クラッチ式6速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を開発。続いて、06年にアイシン・エィ・ダブリュが世界初の8速ATを開発しレクサスLSが採用した。
「8速も必要なのか?」という声はあったが、商品性のアップにも繋がるということで、各社トランスミッションの多段化に拍車がかかった。ジヤトコが7速AT・JR710E/711Eを、ZFは8速ATの8HPを開発した。ダイムラーは、2013年に9速AT、9G-TronicをEクラスに搭載。ZFは横置の9速AT・9HPをランドローバーやクライスラー、ホンダに供給を開始し、同じ北米でGMは自社開発の横置9速AT・9TシリーズでZFと真っ向から勝負を挑む。ホンダも、新型NSXに9速DCTを採用している。
そうなると気になるのが「10」の数字で、構想自体は比較的早く現れている。2015年に提案したのがフォルクスワーゲン。得意のDSGを10速化すると発表していて、その姿は横置きユニットだっただけに、果たしてギヤセットをどのように収めているのか、ひょっとすると副変速機を用いているのでは──とさまざまな憶測を呼んだが、諸般の事情で2017年のウィーン・シンポジウムで開発中止を報せている。2016年にはアイシン・エィ・ダブリュが縦置き10速AT・AWR10L65を開発。2017年にはホンダ、GM/フォードも横置き10速ATを発表した。まさに、多段化競争、ここに極まる、だ。
実は段数の話よりも、変速比の方が重要だ。1速のギヤ比を最ハイのギヤ比で割ったものをレシオカバレッジという(レシオ・スプレッドともいう)。これをいかに広げるかの方が重要なのだ。これを広げることで、高速巡航時のエンジン回転数を低くする=燃費をよくすることができる。ロー側のギヤ比は力強い発進のためにある程度大きくとりたい、ハイ側は高速巡航時の燃費を考えてなるべく低くしたい。するとその間を5や6で刻むと、変速ショックが出てしまう……ということでトランスミッションの多段化が進んでいるのである。
今後、テストモードが世界統一のWLTCになれば、試験時の最高速度は高くなり(現在のJC08は81.6km/h、NEDCモードは120km/h)さらに時間も長くなる。そのときに、ワイドなレシオカバレッジを持っていたら非常に有利になるのである。燃費を考えた気筒休止なども増えてくると、その振動を受け止めるトルコンのダンパー技術などでもトランスミッションの重要度は増してくる。
2ペダルATは7速以上が当たり前、という時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。
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